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中国グリーン金融月報【2022年8月号】

2022年09月14日 王婷


中国グリーン金融月報【2022年8月号】をお届けします。

1.王の視点
中国企業のESG取り組みの現状を考える

 8月23日に、フォーブス(中国)社は「中国ESG50」と題するレポートを公表しました。これは、2022年フォーブス・グローバル・エンタープライズトップ2,000社に掲載される中国企業から、環境・社会・ガバナンスに優れた50社を選出したものです。金融、エネルギー、不動産、インターネット、電子機器など10以上の産業セクターから企業が選定されました。このうち選定社数が最も多いのは金融で20%を占めました。エネルギーとエンジニアリング建設セクターが第2位で、第3位は不動産とインターネットのセクターとなりました。8月には、フォーチュン誌が、「中国ESGインパクトランキング」も公表しました。ハイアールなどを含む40社が優良な中国ESG企業と評価されました。中国においても「ESGランキング」は多数ありますが、外資系メディアが中国企業のESGランキングを発表したのは初めてのことです。
 ランキング発表にあたって、フォーチュン誌の編集者が序言で、「我々が富を創出しながら、環境、社会、ガバナンスの責任を担い、世界を安全で繁栄に導く企業を探し求めている」と書いています。国際情勢や経済情勢が不安定となり、不確定要素が増えた中で、企業にとって、社会にとってESGの要素が、企業経営において、これまでよりも重要な役割を果たすと語っています。
 中国では、2003年に「企業の社会的責任」の概念が導入されました。2016年からスタートした第13次5ヵ年計画では、「グリーン金融を発展させる」という目標を背景に、金融機関がESGに注目し、積極的に投資に取り組むようになり、2018年にはA株企業のいくつかがMSCI新興市場指数とMSCIグローバル指数に組み入れられたことで、中国企業がESGを重視するきっかけが作られたのでした。さらに2020年に提出された、3060目標を背景に、ESGの「E」への注目度がさらに高まったのです。振り返れば、約20年の歳月を経て、中国ではESGに対する政府、金融機関、企業の認識が徐々に深まってきたといえるでしょう。
 具体的には、企業の情報開示が進んだことがあげられます。A株上場企業のESG関連報告書の発行件数は、2009年に371件でしたが、2022年4月には1400社と、以前の3倍になりました。特に、業界トップ企業の開示意欲が高いという傾向があるようです。
 ESG金融市場が急速に成長したことも見逃せません。2022年3月時点で中国のグリーン融資残高は18兆元超で、グリーンボンド残高は約1.3兆元となりました。株式に対するESG投資規模も増えたのです。2022にはESG投資規模が20兆元をこえると予測されています。今後、年金保険の資金も流入する見込みで、規模がさらに拡大するでしょう。
 さらに、制度設計や基準作りも進んでいます。「金融機関の環境情報開示ガイドライン」、「環境エクイティ融資スキーム」、「グリーンボンド評価認証機関市場化評価操作細則(試行)」、「中国欧州持続可能な金融の共通タクソノミーカタログ」、「中国グリーンボンド原則」などが作られており、国内市場の統一性を確保しつつ、国際スタンダートへの接近を試みています。
 もちろん、現在の中国ESGの進展には、課題と不足点もあります。
 まず、統一したESG情報開示基準と評価基準がないことが課題です。企業のESG情報開示では、定性的な記述が多く、定量的な指標が不足しています。ポジティブな報告内容は多く、ネガティブな報告内容は限定的である面も否定できません。特に、慈善事業や環境保護など自社の良い面をアピールし、企業イメージをよくすることには熱心ですが、ネガティブな問題についてタイムリーに情報開示することは滅多になく、関連データの不備も深刻です。評価する側も、自らの指標と評価方法論を定めて、各々独自の手法で上場企業の評価を行っています。
 さらに、ESG金融が中国全体に占める割合はまだまだ低い水準です。グリーン融資は金融機関の融資全体額の10%以下、ESGファンドが流通しているファンドに占める割合も3%以下に過ぎません。Lipperの統計によると、2021年に世界平均ではESGファンドが全ファンドの10%を占める状況といいますから、中国ではまだまだ成長余地が期待されています。

2.今月のトピックス
【生態環境部】気候投融資パイロット事業リスト公表に関する通知
 「気候変動対応の投融資の促進に関する指導意見」及び「気候投融資に関するパイロット事業の開始に関する通知」の関連要求に従い、生態環境部、国家発展改革委員会、工業情報化部など9部門が、各省の推薦に基づいて業務基盤、実施意向、推進・実証効果などの要素を考慮し、気候投融資パイロット事業の地域を決定した。選出された都市は下記の通りである。
 北京市密雲区・通州区、河北省保定市、山西省太原市・長治市、内蒙古包頭市、遼寧省阜新市・金浦新区、上海市浦東新区、浙江省麗水市、安徽省株州市、福建省三明市、山東省西海岸新区、河南省信陽市、湖北省武漢市武昌区、湖南省象山市、広東省深セン市・南沙新区・福田区、広西柳州市、重慶市两江新区、四川省天府新区、陝西省西安新区、甘粛省蘭州市
2022-8-10 中国人民共和国生態環境部
https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk04/202208/t20220810_991388.html
コメント:3060目標の達成に必要となる資金について、様々な機関が試算しています。総額は138兆元から450兆元までとなっています。清華大学が試算した138兆元がよく使われており、これに基づくと、年間3.45兆元が必要となる計算です。一方、現実には年間1兆元未満で、資金不足は明白です。特に、地方政府では目標達成の任務を抱えながらも、資金調達の手段が限定されています。今回の実証事業は、地域の特徴を踏まえ、差別化された資金調達モデル、管理モデルを試みるものです。地方政府は地域の特徴に基づき、プロジェクトを選定し、資金調達手法を模索するのです。例えば、湖北省武昌区には湖北省排出権取引センターと国家炭素排出権登録センター機関があり、カーボン金融を中心に、プロジェクト排出削減効果の登録や、カーボンフットプリントの計算と登録、炭素市場のデジタルプラットフォームの建設、全国炭素市場指数を作成し公表するなどの内容が実証に盛り込まれました。山西省では省エネと再エネプロジェクトの導入を中心に、金融機関と共同し、資金調達の手法や情報開示を試みるとしています。

【国家発展委改革委員会等】「統一的・規範的な炭素排出統計体系構築の加速に関する実施法案」公表
 2023年までに、明確な責任、明確な分業、円滑な部門協力メカニズムを確立し、炭素排出統計会計の統一的な標準化システムを構築することを提案しています。2025年までに、統一された標準化の炭素排出統計会計システムをさらに改善し、データ品質を全体的に改善することが狙いです。具体的には、国・地方の炭素排出統計会計システムの確立、産業企業の炭素排出会計メカニズムの改善、主要製品の炭素排出会計方法の確立と改善、国家温室効果ガスインベントリ作成メカニズムの完成という4つの重点課題を明確にし、統計基盤の強化、排出係数バンクの確立、先端技術の適用、方法論研究の実施、データ管理、成果の応用に関する保護措置も定めました。
2022-8-19 中国政府網
http://www.gov.cn/xinwen/2022-08/19/content_5706071.htm
コメント:排出権の統計基準の統一、データの信憑性は、3060目標を推進にあって必須のもので、排出権取引市場の公平的運営には必要不可欠な既存インフラです。これまで、中国政府は、「IPCC国家温室ガスインベントリ作成ガイドライン」、「企業の温室効果ガス排出会計方法及び報告ガイドライン」、「気候変動対応統計制度」など基礎的な制度を構築してきました。他方、計算方法や統計基準が統一されないため、炭素排出量の計算の正確性に欠けるとの課題がありました。特に、昨年の全国排出権取引市場の運営開始をきっかけに、統計データの正確性、一致性、透明性、比較可能性という要求がこれまで以上に強くなっています。今回の実施計画は、排出量の統計の精度をさらに向上させるため、排出係数バンクの構築、方法論の研究を明確にしました。また、企業の排出量データの品質も向上させるために、「企業の温室効果ガス排出会計方法及び報告ガイドライン」を改正し、データの報告と管理、データ捏造に対する処罰を強化するなどの方針が定められました。重点製品の炭素排出統計についても、計算の方法、認証基準を作成することも明記されています。

3.今月のニュース
【科学技術部など9部門】 「カーボンニュートラルを支える技術実施計画(2022-2030)」を公表

 2030年CO2排出ピークアウトを実現するための技術を明確にし、技術イノベーションへの取り組みと政府の支援策が定められた。
2022-8-18 中華人民共和国科学技術部
https://www.most.gov.cn/xxgk/xinxifenlei/fdzdgknr/qtwj/qtwj2022/202208/t20220817_181986.html

【教育部】 カーボンニュートラル関連21の学部を全国に設置
 教育部はカーボンニュートラル分野の人材育成を強化し、エネルギー貯蔵科学・工学、新エネ自動車・工学、炭素貯蔵科学・工学、水素エネルギー科学・工学、知能エネルギー工学など10以上の学部専攻の設置を新たに承認した。現在、関連分野では合計21専攻、2,223ヶ所設置されている。
2022-8-23 中国環境
https://www.cenews.com.cn/news.html?aid=999703

【人民銀行】 炭素排出削減支援スキームの対象金融機関に一部外資系銀行を追加
 最近、中国人民銀行はドイツ銀行(中国)とソシエテジェネラル(中国)を炭素排出削減支援スキームの金融機関の範囲に含めた。
2022-8-26 中国新聞網
https://www.chinanews.com.cn/cj/2022/08-26/9837575.shtml

【広東省】広東省は完備した先物産業チェーンを構築
 8月2日、広東省は「実体経済の質の高い発展を促進するための先物と現物連動市場制度の改善に関する実施計画」を発表。計画では、炭素排出権、電力、商品指数、工業用シリコン、ポリシリコン、リチウムなどの先物品種の広州先物取引所への上場を支援することを明記。
2022-8-3 南方日報
http://www.gd.gov.cn/zwgk/zcjd/snzcsd/content/post_3987081.html

【重慶市】「重慶市グリーン金融改革イノベーション試験区建設全体計画」を発表
 中国人民銀行など6部門は、「重慶市グリーン金融改革イノベーション試験区建設総合計画」の承認を発表した。2017年よりグリーン金融改革モデル区制度がスタートしてから、重慶市は全国第7番のグリーン金融モデル区になった。
2022-8-25 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/zhengwugongkai/4081330/4081344/4081395/4081686/4642448/index.html

【北京市】北京市ポイント制と個人アカウントがリリース グリーンライフと消費を促進する
 8月11日北京市省エネセンターが主催するイベントで「北京市ポイント制と個人アカウント」が公表された。参加者は企業と個人で、新エネ車での移動、使い捨て食器不使用、エネルギー効率の高い家電製品の購入などを行うと、個人アカウントにポイントが記録され、インセンティブを獲得できる。
2022-8-11 中国新聞網
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1740842191293479591&wfr=spider&for=pc

【興業銀行】生物多様性保全のための金融ソリューションを開始
 最近、興業銀行は「生物多様性保全の強化に関する通知」を発行し、生物多様性の保全を持続可能な開発戦略の重要な一部として明確に位置づけ、金融支援策の具体的な要件を定め、中国の金融機関として初めて生物多様性保全プログラムの開発を開始した。
2022-8-12 興業銀行
https://www.cib.com.cn/cn/aboutCIB/about/news/2022/20220811.htmll

【中国人民保険】中国初の農業用炭素吸収源保険が福建省寧徳市に上陸
 8月17日、福建省寧徳市で農業用炭素吸収源保険が試験的に導入され、特殊農業に300万元の炭素吸収源損失を補填することになった。これは中国人民保険福建支店がCO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルを支援するための試みであり、もう一つの大胆で革新的な模索である。
2022-8-19 新華網
http://www.xinhuanet.com/money/20220819/0332fb0c48a84339a0a35680e8532b74/c.html


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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