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【北京便り】水力発電

2022年09月13日 王婷


 この7月から8月にかけて、中国の多くの地域は、記録的な高温に見舞われました。特に、四川省では高温により深刻な電力不足に陥り、工業生産に大きな影響が出たことが注目されています。
 四川省にある156の国立気象観測所の観測データによると、7月から8月にかけて127の県で最高気温が35℃以上となり、65の県では最高気温が39℃を超え、29の県では40℃を超えたとのことです。重慶では、8月18日の昼間に、史上最高気温の45℃が観測されたそうです。加えて、7月下旬から8月にかけては最も降水量が多い時期にもかかわらず、今年の観測では、降水量が例年同期と比べ約50%にとどまって、過去最低となっています。
 気温が高いことで、電力の需要、特に空調の需要が急増し、四川省内の電力供給が最大負荷に直面していました。また、降水量が少ないため、水力発電量全国トップに位置する四川省において、水不足で発電量が減少する事態になりました。過去最高の極端な高温、降雨量の最小、最大電力負荷の「3つの最も」のトリプルパンチで、最も電力資源が豊富なはずの四川省で、電力不足に陥ったのです。さらに、これまで順調に進んできた「西電東送」の構想にも一抹の不安が生じるという影響を及ぼしたのです。
 
 7月初旬より、省政府は民生電力需要を確保するため、工場など産業系需要者にデマンドレスポンスを奨励し、電力負荷の軽減に協力するよう呼びかけていました。しかし、効果は上がりませんでした。8月中旬より、「極めて顕著な」電力不足に対応するため、ピーク時にエネルギー多消費の産業の生産停止などの措置(14日~20日)をとったのでした。さらに、8月15日00:00から20日24:00までを完全操業停止にする措置に踏み込みました。産業系施設向けの電力の供給制限措置を延長し、最高レベルの緊急対策を発動したということになります。同省には、自動車製造、電池製造などの主要産業が集中し、操業停止となると、サプライチェーンの下流まで影響を及ぼすことは避けられません。上海市政府が、8月15日に上海市にある産業チェーンの工場の操作時間確保に配慮するよう要請した正式な文書を四川省政府宛てに送ったことで、状況の厳しさが浮き彫りになりました。
 四川省は水力が豊富で、2000年以後「西電東送」の重要な基地として位置付けられ、上海市や江蘇省、浙江省など東南沿海地域の経済発達に電力を供給する重要な役割を果たしてきました。ここで、四川省の「西電東送」の電力量のうち、3分の1は水力発電が占めていました。2020年の中国全体の発電構成を見ると、合計7.62兆kWhのうち、水力が17.8%、風力が6.1%、太陽光が3.4%を占めています。再エネ発電の中で、水力が断然高いシェアを占めているのです。水力発電はクリーンで、太陽光や風力と比べ安定的出力可能というメリットがあると評価され、2030年にCO2排出量ピークアウト、2060年にカーボンニュートラルを実現する計画の中国政府にとっては、最も頼りになるはずの存在でした。特に、昨年、中国政府は再エネを中心とする新型エネルギーシステムの建設計画を打ち出し、2025年には再エネ消費率を25%以上、2030年には再エネ消費率を30%以上、2060年には再エネ消費率を80%以上とする計画を策定し、化石燃料を代替していこうとしています。
 
 今回、四川省で起きたことは、気候変動自体が、再エネの生産と利用に悪影響を与えてしまうことを語ってくれました。長期的な高温と干ばつがバイオの原料となる作物の成長に影響を与えたり、水力発電の発電量を減らししたりすることがあるという事実です。また、風力発電においても、極端な気候変動は風力発電の空気密度と風速パターンを変える可能性があることを見落としてはいけません。
 再エネはクリーンで、施設の建設期間が短くて済むメリットがあるため、化石燃料を代替し、カーボンニュートラルを実現するための最も有力なエネルギー源であることは間違いがありません。しかし、物事には常に両面があるように、再エネが自然や気候変動に大きく左右されることもあり、むやみに再エネを開発すれば解決に結び付くわけではないと警報を鳴らしたとも言えるのではないでしょうか。再エネと気候変動に関して、どのように持続的開発と両立ができるのか、今後も真剣に研究に取り組まないといけないということでしょう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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