日本総研ニュースレター
子どもの個性を伸ばす保育者・保護者の情報共有
2022年06月01日 小幡 京加
注目の集まる就学前教育・保育の質向上
これまで就学前の子どもに関しては、「預ける場所の不足」という量的な面が課題とされてきた。そこで、保育所等の整備が各地で進められ、近年では待機児童数は減少傾向にある。しかし、物理的に子どもを預けられる場所があればよいわけではない。就学前教育・保育施設間で教育・保育の質に差がある状況が続いている。
就学前の子どもの教育・保育は、子どもの人格形成の基礎を培う上で重要な役割を担う。2023 年に発足予定の「こども家庭庁」でも、基本政策の一つとして「就学前のすべての子どもの育ちの保障」を謳う。それには、施設を問わず質の高い教育・保育を提供できる体制の整備が欠かせない。
質の高さを表す要素が「子ども主体」である。これは、近年注目の集まる非認知能力の向上とも関係する。その際、子どもの意思を尊重しつつも、放任ではなく、子どもの個性や思いに応じて保育者が適切な支援を行うことが求められる。前提として、子どもの個性や思いの理解が必要になる。
保護者も保育者も子どもの個性の把握の重要性を認識
日本総研では、未就学児の保護者および保育者(保育士・幼稚園教諭)が望む就学前教育・保育の姿や抱える課題を把握することを目的としたアンケート調査を 2022 年に実施した。対象は、全国の未就園児から小学 4 年生までの保護者 4,000 名、そして保育者 2,000 名である。
調査結果には、「子ども主体」を求める保護者の気持ちが反映されていた。例えば、子どもが日常的に通う施設(小学生の場合は、未就学児の頃に通った施設)に対する保護者のニーズとして、「子ども一人ひとりに丁寧にかかわってほしい・ほしかった」は「安全最優先」に次いで高く、また、「子どもの意見を聴くこと」を増やすという要望も約 3 割に上った。一方、保育者側も、「理想とする保育・教育において、時間を多く割くべきと思うこと」として、「子どもの意見を聴くこと」との回答が 55%を超えるなど、「子ども主体」を重視する傾向が明らかとなった。また、子どもとの接し方の課題として上位に挙げられたのは、「子ども一人ひとりに丁寧にかかわること」(50.3%)、「子ども一人ひとりの個性の把握、成長支援」(47.4%)であった。
しかし、個々の子どもへの寄り添いについては、「あまりできていない」「できていない」が計 4 割であった。保護者・保育者ともに「子どもの意見を聴く」「個々の子どもに寄り添う」など、集団の中における個の把握・支援が必要と感じているものの、十分ではない現状が浮かび上がる。
情報共有で子ども中心の就学前教育・保育実現へ
多くの子どもを預かる保育施設において、一人の職員が特定の子どもに寄り添い続けることは難しい。そうした中、保育者が「職員間のコミュニケーション」によって実現したいと考えていることも本調査で分かった。例えば、寄り添いの実現方法としては、「個々の子どもの個性や成長についての職員間の共有機会」が 52.9%の支持を集め、また、「よりよい保育・教育の実現のために、施設等に求めること」には、「職員間のコミュニケーション」が最も多い 45.7%に上った。保育者間に加え、保育者と保護者間のコミュニケーションも大事である。子どもは保育施設と家庭とで見せる姿が異なることが多いため、両者の視点を組み合わせることで子どもの個性や意向が一層明らかとなり、それらを大切にした見守りが可能となるからである。本調査では、9 割超の保護者が子どもの個性に関する情報を知りたいと思う一方、実際によく提供されているとの回答は 25%程度にとどまった。一方、よく提供されていると回答した人のうち 85%は、その情報が子どもの個性を知ることに概ね役立っていると感じていた。
子どもの主体性尊重を保育方針に掲げるある保育所では、特に保護者とのコミュニケーションに注力する。園内の子どもの様子を動画で伝えるほか、制作物の展覧会を開催したり、個人ごとの成長記録を制作したりすることで、子どもの個性や成長を伝えている。また、保育者間の情報共有も盛んで、どの保育者も保護者とのちょっとした雑談の機会を使ってその日の子どもの様子などを伝えるようにしている。この保育所に対する保護者の満足度・信頼度は非常に高いという。
子どもの個性に関する情報の保育者間、そして保育者と保護者間の共有は、子どもの個性の理解を格段に深める効果を持つ。子ども主体の質の高い就学前教育・保育の実現には、欠かせない取り組みなのである。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。