リサーチ・フォーカス No.2022-029
動き始めた地域発のエコシステム
地方におけるイノベーション創出の事例研究
2022年08月18日 星貴子
持続的な経済成長の要として起業やイノベーション創出を促進するエコシステムの形成が国を挙げて進められるなか、国の政策によらず、独自にそれに取り組む地域が出てきた。なかには、山形県鶴岡市や三重県南部など、エコシステムとしてイノベーションのサイクルが回り始めた地域もある。
山形県鶴岡市では、慶應義塾大学先端生命科学研究所の誘致をきっかけにバイオクラスターが形成されている。同研究所からバイオベンチャー企業が8社誕生しているほか、バイオ関連の研究機関や企業が集積し始めた。近年では、民間企業によるまちづくり事業や高校生といった次世代を担う人材の育成など、地域イノベーション・エコシステムに向けた新たな動きも活発化している。
三重県南部は、三重大学大学院の1ゼミから地域にイノベーションが波及しているケースである。当初、地域イノベーションに取り組む人材は、飲食店の経営改善や農業改革に挑む企業経営者といったゼミの卒業生が中心であった。最近では、各地のリーダー研修や高校生セミナーを通じ、こうした人材が増加、多様化するとともに、各地に拡散し始めた。地域イノベーション・エコシステムに向けた基盤が固まりつつある。
誘致型の山形県鶴岡市と内発型の三重県南部とタイプは異なるものの、①大学が基点となることで行政や企業など特定の組織の影響が及びにくく固定観念にとらわれないイノベーションが可能、②中長期的な視点で地域活性化を捉え、社会情勢や事業環境に柔軟に対応、③課題や目標を自ら発見・設定しそれに向け主体的に取り組むアクターの存在とそのすそ野の拡大、といった共通点がみられた。
社会経済環境や産業構造が地域ごとに異なることを踏まえれば、先行事例の取り組みを単純に模倣するのではなく、気候の違いや環境変化に柔軟に対応する自然界のエコシステムのように、ポイントを押さえつつも、地域の特性や経済環境の変化に合わせて調整しながら、柔軟に取り組むことが肝要である。
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