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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.22,No.86

アジア経済4.0
「ものづくり時代」の終焉か?

2022年08月08日 東京大学名誉教授 末廣昭


「インダストリー4.0」はドイツ政府が提唱した製造業のハイテク戦略である。人工知能(AI)やIoTを活用し、デジタル経済時代に対応した新しい戦略である。デジタル経済時代に対応した新しい戦略という点では、コトラー教授が提唱する「マーケティング4.0」も同じである。これらの議論に示唆を受けながら、デジタル化が進むアジア経済の動きを「アジア経済4.0」と呼んで、その特徴と日本の役割を明らかにする。

「インダストリー1.0」から「インダストリー4.0」への発展段階を区切る指標はエネルギー源と生産体制を規定する仕組みである。これに対して「アジア経済」の方は、生産体制と輸出を支えるコアの産業(製品)の推移、そして輸出を主導する国・地域の変遷が発展段階を区切る重要な指標となる。

「アジア経済1.0」の中心的産業は生産性の低い農業である。また、輸出の中心をなすのも農産物をはじめ一次産品であり、これらを輸出して繊維製品などの輸入代替を図る。ただし工業化は始動したばかりであり、とくに人口増加(人口爆発)が一人当たり経済水準を押し下げる作用をもたらした。次いで「アジア経済2.0」の時代には、日本を先頭に、アジアNICs(NIES)、さらに東南アジア諸国が労働集約型産業の製品をアメリカ市場などに輸出することで高い経済成長を続けていった。輸出向け工業品と主要な輸出国・地域が技術力の違いによつて順次日本から後発工業国・地域へとシフトしていく様子は「キャッチアップ型工業化」と呼ぶことが出来る。

「アジア経済3.0」の時代になると、新製品や新技術を開発した日本の企業が世界市場で市場シェアを維持出来ないという深刻な状況が生まれた。その原因は、IT製品を中心に部品のモジュール化と業界規格の標準化が進み、そうした分野では韓国、台湾、中国の後発企業が市場に参入し、日本の市場シェアを奪っていったからである。こうした現象を説明する有力な議論が「アーキテクチヤー論」であった。さらに、「アジア経済4.0」の時代になると、日本が競争優位を持っていた自動車産業などでも変化が起こる。新興アジアを中芯に、ベンチャー企業がプロトタイプ型のイノベーションを推進し、日本の大企業を中心とした積み重ね型のイノベーションに挑戦していったからである。

こうした新しいビジネス環境のもとで、日本企業は「アジア経済2.0」時代のものづくり技術中心の事業戦略からデジタル経済社会に対応した事業戦略へと転換を図る必要がある。と同時に、アジア新興国の後発企業が直面する様々な問題の解決に協力し、彼らの共創パートナーになることが求められる。

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