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SDGs、高まる認知 揺らぐ信頼

2022年07月26日 橋爪麻紀子


 2015年に国連加盟193か国の全会一致で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。政府や企業による積極的な取組みによってその認知度は格段に高まった。22年4月に電通が公表した調査によれば、日本国内で、その認知度は前回調査から30ポイント増加し86.0%に達したという(n=1,400)。

 著者が所属するチームでは、これまでESG投資の普及を後押しするドライバーとしてSDGsを捉え、それを初めて耳にする企業や個人への講義やワークショップを実施してきた。4~5年前は「なぜSDGsが大事なのか?」「SDGsをどうやって自社の取組みと紐づけて開示すれば良いのか?」といった質問が多く寄せられた。そうした問いの一つ一つに答え、金融との接点を模索しながら活動してきた立場とからすると、SDGsという言葉の認知の高まりは喜ぶべきことだ。なぜなら、認知の高まりによって、社会や環境に配慮したお金の流れがより増えることが期待できるからである。
 
 その一方で、様々なネガティブな反応も生まれている。22年6月19日、朝日新聞デジタルが実施したWebアンケート調査(注)によれば、企業がこぞって貢献をうたうSDGsを「何だか「うさんくさい」」と感じる人は58.0%と過半数を超えたという(n=281)。その理由の第1位が「企業や団体のアピール合戦になっているから」第2位が「「きれいごと」が並んでいるから」だ。多様な主体による様々な取組みが増えているにも関わらず、一部の企業やメディア等によるSDGsウォッシング(見かけだけ良く見せること)が、社会におけるSDGsそのものへの信頼感を損なわせているのは残念なことだ。

 もう一つの残念なニュースは同じく22年6月に公表された、世界各国のSDGsランキングである。日本は3年連続で順位を下げ、19位(163か国中)に位置付けられた。「ジェンダー平等(目標5)」、「つくる責任、使う責任(目標12)」、「気候変動対策(目標13)」、「海の環境保全(目標14)」、「陸の環境保全(目標15)」、「パートナーシップ推進(目標17)」の6つが最低評価だった。ジェンダーも環境分野の4つの目標も、毎年評価が低い。国内で高まる認知度の一方、こうした「何も変わっていない」実態に「うさんくさい」と感じる人が生まれるのは仕方ないことかもしれない。

 先日、教育関係の企業の方とお話する機会があり、子どもたちも「SDGs」に耳が慣れ始めている、と聞いた。「SDGsについてXのような質問があった場合は、Yのように答えればよい」と、テスト問題さながらに受け答えできる子どものお話を伺った。中学・高校・大学の受験問題にSDGsに関する設問が増えていることの影響もあるかもしれない。こうしたやりとりからも「知っているか」に重きが置かれ、本質的なメッセージから遠のいてしまっている。

 物事をどれだけ「知っているか」よりも、どれだけ「活動したか」「効果がどうだったか」を誰もが分かりやすく実感できるルールや基準が必要なのは、SDGsにも当てはまる。そうしたニーズに応え、21年12月に国連開発計画は「企業・事業体向けSDGインパクト基準」の日本語訳を公表した。この基準は企業や事業体がSDGsを組織体制や意思決定に組み込むためのものだ。23年には基準に基づいた認証制度も運用されるという。提供された基準やツール類に目を通すと、総合的で体系だった内容であると思う一方、大企業でも(中小規模の企業や事業体であれば余計に)ハードルが高いという印象をもった。ただ、ポジティブに考えるなら、高いハードルだからこそ認証の価値があり、認証取得よりもそこに辿り着くまでの体制整備や目標設定というプロセスでの学びにこそ価値があるとは思う。

 折角ここまで広まったSDGsへの認知がどのようにしたら行動に繋がるか、行動の結果としてそのインパクトは何なのかを常に念頭に置きながら、引き続き、企業や個人への支援を継続していきたい。

(注):2022年6月19日 朝日新聞デジタル「(フォーラム)SDGs、うさんくさい?」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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