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CSRを巡る動き:進展するサステナブルファイナンス推進施策

2022年08月01日 ESGリサーチセンター、足達英一郎


 持続可能な経済社会システムの実現に向けた広範な課題に対する意思決定や行動への反映を通じて、経済・産業・社会が望ましいあり方に向けて発展していくことを支える金融メカニズムを「サステナブルファイナンス」と呼びます。ひとことで言うなら「持続可能な社会を実現するための金融」と言い換えてもよいでしょう。ESG投資やグリーンボンドといった手法や金融商品がその具体的な事例として挙げられます。
 個々の経済活動にともなう正や負の外部性を金融資本市場が適正に織り込み、環境や社会課題を考慮した投融資等を行うことで、環境や社会の課題が改善するなど、それらの経済活動が全体として拠って立つ基盤を保持し強化する効果を持つことから、世界各国がサステナブルファイナンスを政策的に推進しようとする動きを見せています。
 2022年6月26~28日にドイツのエルマウで開催されたG7首脳会合でも「我々は、持続可能性、ネット・ゼロ及びネイチャー・ポジティブな結果に向けた経済全体の移行を促進するため、民間部門の資金を動員する強じんな金融市場の重要性を強調する。我々は、G20『サステナブル・ファイナンス・ロードマップ』の実施を支持し、他者に対し、サステナブルなファイナンスを拡大するためにその行動を採用することを求める」という内容がコミュニケに盛り込まれました。
 わが国においても、6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」に、「グリーンボンド等の環境関連商品が取引されるグリーン国際金融センターの実現を目指すほか、TCFD等に基づく開示の質と量の充実やトランジション及びイノベーションへの資金供給の支援を進めるなど、サステナブルファイナンス市場の拡大に向けた早急な環境整備を図り、国内外のESG金融を呼び込む」との記述が載りました。
 この一年間の具体的な推進施策の成果としては、とりわけ以下の五点が上げられるでしょう。
 ①JPXにおいて、ESG投資の対象となる債券等の発行情報、発行体のESG戦略、外部評価の情報、インパクトを含むレポーティング情報等を集約する「情報プラットフォーム」を、22年年央目途に立ち上げる準備が進んでいます。
 ②金融庁は4月に「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方(案)」(ガイダンス)を公表し、金融機関の気候変動対応に係る戦略策定、リスクと機会の認識と評価やリスクへの対応等に関する態勢整備についての考え方を示しました。
 ③2月から進められてきたESG 評価・データが信頼性のある形で利用されるための環境整備の議論については、ESG 評価・データ提供機関への提言に加えて、投資家、企業への提言も含めたESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会報告書(案)が既に公開されています。同報告書の提言のうち、ESG 評価・データ提供機関に関する部分については、金融庁が、「ESG 評価・データ提供機関に係る行動規範」を取りまとめ、各機関に賛同を呼び掛けていく予定です。
 ④昨年11月以降、金融庁がESG投信を取り扱う国内の資産運用会社37社・ESG投信225本を対象に実態調査を実施し、結果を公表しています。5月には「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待」が取りまとめられました。金融庁では22年度末を目途に監督指針について所要の措置を講じる予定であることを明らかにしています。
 ⑤金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいて、サステナビリティに関する企業の情報開示等についての審議が続けられ、6月に報告書が取りまとめられました。そこでは、有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」を新設することを謳っています。また、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」、これらと整合的で測定可能な指標の設定、その目標及び進捗状況、他の法律の枠組みに従って公表される女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差を有価証券報告書の開示項目とすることも盛り込まれました。今後、内閣府令の改正を経て、こうした内容が実現に至る可能性は高いといえます。
 こうしたサステナブルファイナンスの推進施策については、自由な経済活動と相容れないとする意見が金融界・産業界の一部にあることも事実です。しかし、6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」が「短期的に企業収益が上がりさえすれば良いという考え方は成り立たない。社会面、環境面での責任(人的資本・人権、気候変動、ダイバーシティ等)を企業が果たすことが、事業をサステナブルに維持していくためには不可欠である。金銭的リスク・リターンに加え社会面・環境面のインパクトを考えるマルチステークホルダー型企業社会を推進する」と述べているように、個社の短期的収益を重視する視点から、社会的価値を重視する視点への転換を図ることが、金融界・産業界の双方に呼び掛けられている点には注目したいと思います。

本記事問い合わせ:足達 英一郎


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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