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リサーチ・フォーカス No.2022-020

社会保険によるパート主婦の就労調整問題-現状と解決に向けた道筋-

2022年07月12日 西沢和彦


社会保険制度がパート主婦の就労調整をもたらす問題、いわゆる130万円の壁と106万円の壁が、政府の全世代型社会保障構築会議で改めて採り上げられている。もっとも、議論の行方は不透明である。本稿は、2つの壁の正確な理解に努めたうえで、他国の年金制度も参照しつつ問題解決に向けた道筋を考える。なお、夫・パート主婦という用語を用いるが、男女を逆にしても議論は成立する。

2つの壁それぞれの特徴を探ると、第1に、130万円と106万円は、それぞれ被扶養認定基準(妻を夫の扶養とするか否か)、被用者保険適用基準(パート主婦自らを社会保険に加入させるか否か)と異なった目的を持ちつつ、パート主婦の収入がこれらを上回ると可処分所得が一挙に年15万円~23万円低下するため(本稿試算)、いずれも就労調整をもたらす。ただし、就労調整のタイミングは異なる。

第2に、130万円と106万円とでは、収入の範囲が大きく異なる。130万円の範囲は包括的であり、基本給はもちろん、時間外手当、賞与、副業収入などが含まれる。他方、106万円の範囲は狭く、もっぱら雇用契約時の月額基本給(106万円は厚生年金保険法記載の8.8万円に由来)に限定される。収入の定義が2つあることに積極的意義は見出しにくく、むしろ就労の意思決定に混乱を招き、被用者保険適用基準の収入範囲が狭いことは社会保険適用を回避する抜け道を作りやすくしている。

第3に、130万円と106万円という金額はいずれも厳格なものではなく、一時的要因による超過も許容されると解釈される。130万円の根拠は法律ではなく厚生労働省の通知に過ぎず、その時点での収入の年収換算である。被用者保険適用基準は、収入範囲に時間外手当等を含まないことから、それらを含む年収が106万円を超えても直ちに被用者保険の適用となるものではない。

問題解決に向けては、第1に、現行制度の正確な理解促進が出発点となる。その1つは制度の説明方法の見直しである。とりわけ「年収106万円の壁」という呼称は年間の包括的な収入を想起させミスリードである。もう1つは、夫の扶養の範囲内での就労を希望するパート主婦への情報提供の強化である。現行の政府の説明は、自ら社会保険に加入するメリットの強調に偏重している傾向が否定できない。

第2に、政府の適用拡大路線の再考である。その柱は、現行の社会保険制度の枠組みを残したまま、基本給8.8万円のさらなる引き下げとみられるが、年金制度加入者間での公平性を損ない、かつ、引き下げ後の金額が新たな壁を作り、パート主婦の労働供給が一段と抑制されかねないなど副作用が大きい。政府の適用拡大路線には限界があるということがはっきり認識されるべきである。

第3に、社会保険制度の抜本的な見直しに向き合うことである。年金制度における壁は、1986年の年金改正によって作られたものであり、それを批判的に検証することが議論の起点となる。見直しのポイントは基礎年金に独自の財源を設けることにある。健康保険制度に関しては、妻の分についても例えば年額10万円といったように夫から別途保険料を徴収する案が有力である。それにより、パート主婦が自ら社会保険に加入した途端一挙に可処分所所得が減少する事態は回避される。


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