コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

中国製自動車の輸出急拡大
/新たな研究会発足にあたって

2022年07月12日 程塚正史


 中国の自動車メーカー(外資系メーカーの現地法人を含む)の完成車海外輸出拡大が止まらない。昨年2021年には213万台(注1)となり、一昨年の105万台から2倍以上に伸びた。今年2022年に入ってからも5月末までの時点で100万台を超えており、中国の場合は年末にかけて輸出量が伸びる傾向があり、それを考慮すると2022年通年では300万台を突破する可能性が高い。中国製自動車のグローバル展開が急拡大していると言える。

 こうした急拡大の背景には、他の主要生産国でのコロナ禍の影響(半導体不足や工場停止によって日米欧韓はじめ他国での生産量が落ち、比較的影響の小さかった中国が相対的に伸びたというもの)という要素もあるが、底流には、政策的な支援、製品力の向上、メーカーの戦略変化という3つの大きな要因があり、時代の変化と合致して奏功しているといえるだろう。

 政策的支援に関して言えば、中国中央政府は近年、自国の自動車メーカーに対して輸出拡大を奨励してきた。2017年に国家発展改革委員会や工業信息化部等が「自動車産業中長期発展計画」を発表し、2025年までに中国製自動車のブランドを世界的に影響力あるものにすることが目標として定められた。そこでは、企業どうしの再編・統合や国際的なアライアンス拡大を進めると謳われていた。この計画を皮切りに2018年以降、工業信息化部を中心に政府の様々な部門が、海外での販路拡大やブランド力向上のためのイベント開催の支援など、自国メーカーの海外進出を支援する具体的な施策を打ち出してきた。

 次に、製品力の向上も否定できない。中国製品はまだまだ日本はじめ先進国製の自動車の品質には及ばないとの指摘は厳然としてあるものの、従来からの主要輸出先である南米、中東、アフリカ地域においては中国製であっても十分な機能・性能と評価されている可能性が高い。製品価格も考慮すればコストパフォーマンスが高いという趣旨で、この傾向が近年ますます顕著になっているものと思われる。

 それに加えて、2021年はEVの欧州向け輸出が伸びたという側面が大きい。輸出先の国別ランキングでは、トップ10にベルギーやイギリスといった欧州諸国がそれぞれ4位と8位にランクインした(なお1位はチリ、2位はサウジアラビアである)。これは欧州市場での電動化加速の流れを受けての変化だ。最大手の上海汽車や、長城汽車や吉利汽車といった民間企業、さらには蔚来汽車や小鵬汽車といった新興ブランドが欧州でのEV販売拡大施策を進めてきた成果といえる。さらにその背景には、この10年での中国メーカーのEVの販売量や製品ラインナップ拡大の実績がある。もはや中国勢のEV車種ブランドの数は100を超えており、このような裾野の広さが欧州でも通用するブランドを作り上げたと言えるだろう。

 今後、おそらく中国勢の海外輸出はさらに拡大するだろう。政策的な支援が続いており、世界の電動化の流れを中国勢自身が牽引しているからだ。近い将来には中国が日本の輸出台数を超える可能性もある(日本の輸出台数はコロナ前の2019年時点で約480万台)。そうなると、当然ながらグローバルでおよそ1億台といわれる自動車市場での国別シェアが変わる。中国製自動車のブランド力が高まり、中国製品の機能・性能が標準化することで、日本含め他国企業が中国製品をベンチマークするようになるかもしれない。さらには中国勢の生産拠点の国際化(現地生産化)が進み、世界の自動車業界のサプライチェーンが変化する可能性も想定される。中国製自動車の輸出量が2021年に急拡大した事実は、「2021年はこのような変化の変曲点となる年だった」と将来、振り返えられるようになるかも知れない。

 さて、これら3大要因のうち、最後の要因は「メーカーの戦略変化」だが、これについては、その実像がまだ十分に明らかになっているわけではない。例えば上海汽車は「2025年時点で海外年間販売台数150万台突破」と宣言しており、吉利汽車も「(同じく)60万台」と公表していたりするが、そのためにどのような施策を打ち出すのかについては外部からは窺い知ることができない点も少なくない。各社からの公表資料を通して目標については把握できるものの、その背景や狙いについては今後直接の対話が必要であるのは間違いない。

 そこで日本総研は、2022年の8月下旬から、中国製自動車の海外展開に関する研究会を発足させる。中国の主要メーカーの海外戦略担当者との意見交換を行う予定で、この活動を通じて今後の動向を把握することにしたい。中国勢の海外展開が加速することで様々な変化が起きる。わが国に対しては脅威だけでなく、海外での提携など事業機会を見出せる可能性があるかもしれない。脅威や機会の抽出も研究会の柱としたい。日系企業各社で関心をお寄せいただける方がおられれば、是非、お声がけいただきたい。

(注1)出典:中国自動車流通協会


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
 
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ