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自立支援のカギは質問力に
-実践知・ノウハウを共有する仕組みの構築に向けて-

2022年06月28日 辻本まりえ


 「高齢になっても人に迷惑をかけずに生きていたい」、「死ぬまで自分の望む暮らしを続けたい」誰しも、このような願いを持っているのではないだろうか。
 しかし、加齢に伴う身体機能や認知機能の低下は避けがたいものだ。自分だけで生活することが難しくなった高齢者を社会全体で支える仕組みとして、介護保険制度は始まった。
 介護保険法の総則の第1条には、本人の「尊厳を保持し、その有する能⼒に応じ⾃⽴した⽇常⽣活を営むことができるよう」必要なサービスにかかる給付を行うことが、介護保険制度の目的として掲げられている。この方針に則り、要介護高齢者の状況や状態を見極め、本人の望む生活や暮らしぶりに関する意向を引き出し、それらを踏まえて本人や家族と相談しながら必要な支援やサービスを調整する(ケアマネジメント)のがケアマネジャー(注1)である。

 ケアマネジャーが行うケアマネジメントにおいて、「自立支援」は最も重要な視点である。
 自立支援とは、本人のしたいことを”できるように支援する”ものであり、“代わりにやってあげる“ものでは本来ない。ケアマネジャーの役割は、本人が取り組みたいことの実現には、どんな支援が必要なのか検討することである。そのためには、その人の望む暮らし、現在の生活の状況や身体の状態、本人ができることやできそうなことを十分に把握することが重要となる。

 こういった本人の情報を収集するためには、上手な質問を投げかけることが効果的である。また、上手な質問によるコミュニケーションは、要介護高齢者のやる気を引き出すことにもつながる。まさに、自立のための支援といえる。
 このようなケアマネジメントにおける“質問力”は、ケアマネジャーの実践知としてこれまで支援の現場で培われてきた。例えば、「こういった場面では、高齢者にどんな質問をしたら良いか」「家族に確認したいことをどのように伝えるべきか」といった対話のコツや、「どのような生活を送りたいか」「これから実現したいことは何か」といった目標を本人と話し合う際に本人のやる気を引き出すノウハウが現場にはある。また、時には、本人との対話を通じて、これまで本人自身も気づいていなかった「実現したいこと」の発見につながる場合もある。
 他方で、高齢者の自宅で業務を行うケアマネジャーの業務の特性や、所属する事業所の規模があまり大きくないことなどに起因し、個々のケアマネジャーが作り上げてきた実践知を共有したり、伝達する仕組みが整っていないことは課題である。そのため、既存の枠組みにとらわれないケアマネジャーの実践知の共有の機会が求められている。

 当社では、各ケアマネジャーが蓄積したコミュニケーションの知見やノウハウを、ケアマネジャー個人や事業所に閉じず、地域や法人を越えて広く共有・活用することを目的とした「ケアマネジメント実践ネットワーク」を令和4年度より立ち上げた。そこでは、現場でケアマネジャーの方々が日々感じる具体的な課題や悩みごと、あるいは専門職としての具体的な工夫や実践知を広く共有する機能を盛り込み、全国的なつながりの場として活用していただけることを目指している。(詳細は下記リンクを参照)
ケアマネジメント実践ネットワーク

 当社ではこれまでも、「適切なケアマネジメント手法」(注2)の検討や「適切なケアマネジメント手法実践研修」(注3)の開発など、ケアマネジャーの実践知の体系化に向けた多くの取り組みを行ってきた。
 今後は、より多くの現場のケアマネジャーの皆様と、「ケアマネジメント実践ネットワーク」としても活動を進めていきたい。

(注1)介護保険制度における定義では「介護支援専門員」だが、介護保険のサービスに限らないような資源のマネジメント、および本人だけでなく家族等の関係者も含めたマネジメントの立場としてあえて「ケアマネジャー」を用いている。
(注2)「適切なケアマネジメント手法」は、要介護高齢者の状況や疾患群に応じて「想定すべき支援の仮説」を体系的に整理したものであり、将来の生活予測におけるケアマネジャーの知識水準を確保すること、多職種連携の推進を目的としている3平成28年度より検討を開始し、令和2年度には、「基本ケア」及び5つの「疾患別ケア」(脳血管疾患、大腿骨頸部骨折、心疾患、認知症、誤嚥性肺炎の予防)をとりまとめた。
(注3)「適切なケアマネジメント手法」を体得してもらうため、令和2年度から、自身の事例を用いた体験型の研修(「適切なケアマネジメント手法実践研修」)を試行している。令和4年度事業では、全国的に参加希望者を募集し、さらに多くの方々に体感してもらう予定である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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