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中国グリーン金融月報【2022年5月号】

2022年06月14日 王婷


「中国グリーン金融月報」5月号をお届けします。

1.今月のトピックス
【市場監督総局】初の国立炭素計量センターの設立が承認
 市場規制総局(GAMR)はこのほど、内モンゴル自治区計量試験研究所を拠点とする国家炭素計量センター(内モンゴル)の設立を承認した。これは市場規制総局が認可する初の国家炭素計量センターである。
 同センターは炭素計量技術研究を強化し、能力開発を支援し、炭素測定データの収集、分析、評価、応用を強化し、炭素測定人材の育成を強化し、公共サービスプラットフォームを構築する。
2022-5-24 市場監督総局
https://www.samr.gov.cn/xw/zj/202205/t20220512_344829.html
コメント:全国排出権取引市場において、この一年弱のあいだに、データの改ざんやデータ不備などの問題がしばしば摘発され、政府は取り締まりを強化している。こうした事案を引き起こした原因の一つに、炭素排出量計算式のパラメータの基準が統一しておらず、頻繁に変更が行われるためだという指摘がある。このような問題の解決を目指し、温室効果ガス排出に関して「測定可能、報告可能、検証可能なものにする」という目標に向け、計量技術の研究、データの収集、分析など基礎インフラの整備を急いでいる。


2.今月のニュース
(1)-① 中央政府・グリーン金融
【中国人民銀行】石炭の開発・利用を支援し、石炭備蓄能力を強化するため、特別貸付額度を1,000億元増額

 中国人民銀行は国務院の承認を得て、石炭のクリーンで効率的な利用を支援するため、特に石炭の開発・利用支援と石炭備蓄能力強化のために1000億人民元の特別貸付枠増額を行った。石炭の安全な生産・備蓄、石炭・電力企業による石炭の供給確保などの分野を支援する。石炭のクリーンで効率的な利用を支援する特別貸付の総額は3,000億人民元に達することになる。
2022-5-4 中国人民銀行
http://www.gov.cn/xinwen/2022-05/04/content_5688594.htm

【上海環境エネルギー取引所】「炭素管理システム評価管理弁法」を発行
 上海環境エネルギー取引所は「炭素管理システム評価管理弁法」を公表した。炭素管理体系の公平性、標準化、有効性を確保するためである。
 弁法では、炭素管理評価のもの、評価機関、評価プロジェクトの運営・管理、情報の保管と開示などの要件について明確化した。
2022-5-6 上海環境エネルギー取引所
https://huanbao.bjx.com.cn/news/20220506/1222740.shtml

【世界銀行理事会】生物多様性保全とカーボンニュートラルによる高品質都市開発を推進する「グリーン&カーボンニュートラル・シティ・プロジェクト」を承認
 プロジェクト金額は2690.91万米ドルで、すべての資金はGEFの無償資金で賄う。このプロジェクトは以下のような3つの内容で構成されている。第1には、生物多様性の保全とカーボンニュートラルの推進に焦点を当てた高品質都市開発のためのフレームワークの強化に400万米ドルを充てる、第2に、生物多様性と気候変動のための統合ソリューション、自然とカーボンニュートラルへの計画と投資の支援に1978万米ドルを充てる、第3に、知識の共有、能力開発、プロジェクト管理の支援に3129万米ドル充てるという。プロジェクトの実施機関は、重慶市、成都市、寧波市と国家発展改革委員会の傘下の中国都市発展センターである。実施期間は2022年から2027年までの予定とされている。
2022-5-26 財政部
http://jsz.mof.gov.cn/zhengcefagui/202205/t20220526_3813524.htm


(1)-② 中央政府・「3060目標」、その他
【教育部】「CO2排出ピークアウト・カーボンニュートラルの高等教育の人材育成システム構築の作業方案を強化」を発表

 この程、教育部が「カーボンニュートラルに向けた高等教育人材育成システム強化作業計画」を策定・発表した。
 重点産業における人材需要の予測を強化し、新エネルギー、エネルギー貯蔵、水素エネルギー、炭素回収などの不足人材に対応して、その育成を加速する。具体的には、伝統エネルギー、交通、材料、管理などの関連専攻分野でのレベルアップを積極的に計画すること、総合大学や産業大学がカーボンニュートラル分野で多くの新しい教育課程を設置すること、産業と教育の融合を深化させることを重点としている。
2022-4-19 中華人民共和国教育部
http://www.moe.gov.cn/srcsite/A08/s7056/202205/t20220506_625229.html


【国家発展改革委員会】関連政府機関と共同で、「石炭のクリーンで効率的な利用における重要分野のベンチマークレベルと基準レベル(2022年版)」を発表
 石炭のグリーンで効率的利用を推進するため、国家発展改革委員会は、工業信息部、生態環境省、住宅・都市・農村建設省、市場監督総局、国家エネルギー局と共同で、上記文書を作成し発表した。
 石炭のクリーンで効率的な利用の重点分野のベンチマークは、国内外の同業界先進レベル、および現在の国家政策と基準における先進的なエネルギー効率指標に基づいて、最も厳しい汚染物質排出要件の値を設定した。
 今後、順次関連基準の改善作業を行い、エネルギー消費、材料消費、水消費、汚染物質、温室効果ガス排出水準など、石炭のクリーンで効率的な利用に関する総合評価指標体系を構築する予定である。
2022-5-10 国家発展改革委員会
https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/jd/jd/202205/t20220510_1324495.html?code=&state=123


(2)-① 地方政府・グリーン金融
【深セン市】 市場監督管理局の「深セン市グリーン金融認証・評価管理弁法(試行)(意見募集案)」意見通知

 2020年10月29日に採択された「深セン経済特区グリーン金融条例」の関連規定と、深セン市のグリーン金融認証・評価管理の実際のニーズに基づき、「深セングリーン金融認証・評価管理弁法(試行実施)(意見募集案)」が作成され公表された。
2022-5-17 深セン市市场监督管理局
http://www.sz.gov.cn/szzt2010/wgkzl/jcgk/jcygk/zdzcjc/content/mpost_9793367.html

【上海市】浦東新区グリーンファイナンス法規の意見募集を開始
 5月26日、上海市人民代表大会常務委員会弁公室は「上海浦東新区におけるグリーン金融発展に関する若干の規定(案)」について意見募集を開始した。規定案は、グリーンプロジェクトライブラリの構築、補足的なグリーンファイナンスの地方基準、革新的な規制相互作用メカニズム、グリーンファイナンスの評価、気候投資と資金調達のパイロット作業、およびグリーンボンドプロジェクトの準備金など、39条からなる項目で構成されている。
 規定では、国家緑色発展基金など上海にある各種グリーン投資ファンドを支援し、①浦東新区の環境保護、②汚染防止とコントロール、③エネルギーと資源の節約と利用、④グリーン建設、⑤グリーン輸送、⑥グリーン製造などの主要分野でグリーン投資を促進させると述べている。
2022-5-26 証券時報
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1733892928294491141&wfr=spider&for=pc

(2)-② 地方政府・「3060目標」、その他
【四川省】四川省における商品のカーボンフットプリントに関する公共サービスプラットフォームを正式に立ち上げ

 カーボンフットプリント公共サービスプラットフォームは、世界規模でのカーボンフットプリント規則や政策、制度、基準、認証制度の研究に特化する予定。
 また、四川省、重慶市のカーボンフットプリント制度の構築を支援し、関連産業に製品のカーボンフットプリントとライフサイクルの評価・管理システムを提供することに注力するという。
2022-5-18 四川経済網
https://www.cdmfund.org/30943.html


(3) 業界・金融機関
【興業銀行】国内初の炭素吸収源のモニタリング基準策定に参画

 このほど、福建省南平市人民政府と中国科学院空天情報イノベーション研究所が共同で主催する「衛星地球観測による森林炭素指標モニタリングシステム標準」の検証会議が北京で開催された。この基準は、炭素源と吸収源を科学的かつ正確にモニタリングするための国内初の団体基準である。
 本基準は中国科学院空天情報イノベーション研究所が自主開発した統合炭素監視評価プラットフォームに依拠しており、衛星リモートセンシング、IOT、ビッグデータ、ブロックチェーン、クラウドコンピューティングなどの技術を統合し、リモートセンシングで、国内の森林、草原、湿地、湖沼などの生態系における二酸化炭素吸収量のモニタリングを行う。これが実現できれば、工業団地、県や市町村の二酸化炭素モニタリングのニーズに応えることができるとしている。 この団体基準は、南平での試験運用を経て、全国的普及予定が予定されている。 
2022-5-19 興業銀行
https://www.china-cba.net/Index/show/catid/35/id/40877.html

【アント・グループ】パリ銀行とサステナビリティ・リンク・ローンを完了
 5月16日、BNPパリバ銀行はアント・グループとサステナビリティ・リンク・ローンに関する融資契約を締結したと発表した。融資はアント・グループのESG戦略およびカーボンニュートラル目標を推進するために使用される予定である。
 2021年からのカーボンニュートラル(スコープ1とスコープ2)、2030年までのネットゼロエミッション(スコープ1、スコープ2、スコープ3))の達成、エネルギー使用量に占める再エネの割合、グループの生物多様性への貢献および生態系保護確保などの達成目標を設定し、段階的な金利を紐づけて融資を行う。達成度合いは年1回評価されるが、すべてアント・グループのブロックチェーンデジタルカーボンニュートラル管理プラットフォームCarbon Matrixを通じて数値は計上され、ブロックチェーンにより銀行にオーソライズされるという。
2022-5-16 光明網
https://m.gmw.cn/baijia/2022-05/16/35739304.html

【宝鋼・上海証券取引所】国内初の低炭素化対応グリーンボンドの発行に成功
 5月24日、宝山鋼鉄の2022年グリーンボンド(第一期)が上海証券取引所でプロ投資家向けに発行された。幹事証券会社は中信証券で、国泰君安証券、神湾宏源証券、中金公司、華宝証券が共同で引き受け、発行規模は5億人民元、償還期間は3年、最終発行金利は2.68%である。
調達した資金は、水素を用いた低炭素型シャフト炉冶金法へ転換するための投資に向けられるという。
2022-5-17 上交所債券
https://finance.eastmoney.com/a/202205252391840243.html


3. 王の視点
 ロシアのウクライナ侵攻と中国カーボンニュートラル政策への影響

 ロシアのウクライナ侵攻は、世界エネルギー市場に大きな混乱を与えています。ロシアへの制裁に伴い、石油や天然ガスの価格が高騰し、現在進行中のカーボンニュートラルへの取り組みは、今後大きく後退するのではないかとの観測が高まっています。
 EU各国、特にドイツがこれまでの脱原発、石炭フェードアウト路線を見直す動きを見せていることは象徴的です。ドイツは戦略的石炭貯蔵の構想を発表し、イタリア、フランス、ポーランド、スペインも石炭火力発電所の撤退を遅らせると相次いで表明しました。英国も石炭火力発電所の建設を検討し始めたと報道されています。
 中国でも、エネルギーの安定供給確保は大きな関心事です。今年4月に、CO₂排出量ピークアウト・カーボンニュートラル作業部会のトップである韓正副首相は博鳌アジアフォーラムで、「中国のエネルギー構造は石炭が基盤であることを基本条件とし、石炭のクリーン利用を精力的に推進し、市場メカニズムと政府の規制機能を活かし、足元のエネルギー・電力供給の安全と安定を確保し、炭素の炭素中和を安定的かつ秩序ある方法で推進する」と述べました。
 同じく、3月に開かれた全人代において、習近平総書記は「石炭が豊富で石油とガスが少ないのは我が国の国情であり、石炭を中心としたエネルギー構造を短期的に根本的に変化させるのは困難だ」と強調したうえで、「カーボンニュートラルの目標を達成するにあたっては、国の状況に立脚し、安定的に推進する」と強調しました。
 カーボンニュートラルを実現するためであっても、安定したエネルギー供給を犠牲にすることはできないとのスタンスが再度強調されるようになっています。
 とはいうものの、「再エネを主体とした新型エネルギーシステムの構築」に向けた取り組みも加速しています。国家発展改革委員会の担当者は3月の記者会見において、「過去1年間に、中国のエネルギー総消費量のうち、クリーンエネルギーの占める割合は1.2ポイント上昇し、過去1年間の全国の発電総量のうち、風力発電と太陽光発電の占める割合が合わせて2.2ポイント上昇した」と述べました。再エネによる代替も加速していることが明らかになっています。
 6月1日には「14次5か年再生可能エネルギー発展計画」が公表されました。それに先たち、5月末に国家能源局が「新時代新エネルギー高品質発展に関する実施方案」を発表し、再エネの推進において難関となる諸問題の解決策を示したのです。
 このように、中国では再エネによる代替を加速させており、クリーンエネルギーが急速に増加すれば、効果的なリスクヘッジになり、国外からの影響を緩和することにもなるというとの戦略をとっています。ロシアのウクライナ侵攻という突発事件に対応するためには、短期的にエネルギー安定供給の手段として石炭など化石燃料の利用を許容するが、1.5度目標は世界各国首脳が共通に認識している目標で、中国政府はカーボンニュートラルを実現するための既定戦略にそって、取り組んでいくという姿勢であると見ることができるでしょう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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