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ラストマイル領域の新たな物流が豊かな農村づくりに貢献する

2022年04月26日 岩崎海


 日本総研が主宰しているRAPOCラボ※1では、自動運転移動サービス(例えば路線バスなどの移動サービスの自動運転化)の社会実装に向けて活動を行っている。2021年度の検討結果として得られたことに、「自動運転移動サービスがもたらす社会的価値は広範に捉えられるべきもの」ということがある。

 自動運転によって、公共交通の運転手不足の解消や路線の採算性が改善していくという効果は直接的に観察できる好影響である。ただし、それだけでなく、設置されるセンサーによって地域の見守りに繋がったり、人々が市街地に移動しやすくなり商業が活性化したり、高齢者の外出機会が確保され活動量が維持されたりといった様々な領域で間接的な好影響をもたらす。つまり、自動運転移動サービスについて検討することは、公共交通を考えることだけではなく、そこに住み、生活する人々にとってまちがどうあるべきかを考えることと言える。

 このまちづくりの視点から眺めてみると、中心市街地というエリアだけでなく、中山間地域や農村においても様々な課題が見えてくる。中山間地域や農村はどのような現状にあるのか。例えば、ラストマイル領域の物流に着目してみたい。都市部と過疎地域における輸送効率を比較すると、荷物1個当たりの走行距離は過疎地域の方が都市部より、平均で6倍、最大7倍長い(国土交通省総合政策局「過疎地等における物流サービスの現状分析および検討にあたっての問題意識について」)。また、農作物を出荷する際の輸送(ラストワンマイル)に関して、現に課題があると感じている生産者は6割に上っている(農林水産省「令和元年度生鮮食料品等物流におけるワンマイル輸送モデル構築調査委託事業 調査報告書」)。

 中山間地域や農村における物流に関する課題は山積している。一つの打ち手として、都市部から中山間地域や農村への宅配便の物流網を第三者がサポートする取り組みが考えられる。宅配事業者の拠点から各家庭への配送について、配送拠点を宅配事業者が自前で用意するのではなく地域の組織の倉庫といったスペースを間借りするという形態がその一例である。運び手を事業者だけが担うのではなく地域のボランティアに依頼するというのも宅配事業者の採算性改善へのサポートになる。もちろん、ボランティア側の地域住民に対する配慮と輸送品質の両立を欠かさないことは必須であろう。

 こういったアイデアは地域に住む人々のサポートにも繋がる。法令面との整合をつける必要があるが、ボランティア側がガソリン代程度の謝礼を得ることできれば、高騰をつづける燃料費への足しにはなるだろう。さらに、事業者ではなく地域の人々が宅配を担うことで、家に閉じこもりがちな高齢者に対する見守りにもなり、地域内のコミュニケーションが活性化する期待をもつこともできる。そうすることで、儲かる農業・豊かな中山間地や農村の実現に繋がり、地域に人々が住み続けられる環境づくりに少しでも貢献する。

 こういった取り組みは、政策が目指す方向性にも沿っている。デジタル田園都市国家構想の関係施策にあげられている「小さな拠点」という施策がある。そこでは「愛着のある地域に住み続けられるようするためには、生活サービス機能等が歩ける範囲に集約され、周囲の集落とのネットワークが整備された『小さな拠点』の形成が必要」※2と謳われている。地域の組織がもつスペースを宅配事業者が利用できるようにするというのは、地域拠点の多機能化であり「小さな拠点」の形成に資するのではないだろうか。

※1 RAPOCラボ|自動運転移動サービスの社会実装に向けた活動紹介
※2 国土交通省「国土交通省における「小さな拠点」の形成の取組について」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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