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JRIレビュー Vol.4,No.99

中小企業によるM&Aの現状と課題─その定着に関する考察

2022年04月13日 星貴子


近年、中小企業によるM&A(中小M&A)が注目されている。後継者難の企業の事業承継手段としてばかりでなく、人材や生産設備などの経営資源が集約されることによる生産性の向上、休廃業を検討する企業の経営資源を引き継ぐことによる創業時のリスクの低減といった効果が期待できるためである。国は、支援機関の強化、補助金や税制優遇措置の拡充など、支援体制の整備を図って中小M&Aを推進している。

こうしたなか、中小M&Aは年々増加し、公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターでは、2011年度のゼロだった成約件数は、2020年度には1,300件余りとなった。とはいえ、市場に顕在化している売り手、買い手とともに本来M&Aによって経営課題を解決できるニーズはほんの一部に過ぎない。多くの中小企業がM&Aを経営課題の解決手段の選択肢に入れておらず、中小企業の間にM&Aが定着している状況とは言い難い。

なかでも、売却については、経営者の根強い抵抗感を背景に、希望する企業が買収の半分にも満たない。ヒアリングしたM&A支援機関・事業者によれば、市場に出てきても、すでに事業(企業)価値が毀損しており、買収希望企業が見つからないケースも少なくない。中小M&Aを定着させるためには、事業の市場価値が陳腐化しない段階で売却ニーズを掘り起こし、顕在化させることがポイントとなる。

これまでは、主に後継者不足の企業が売り手となることが期待されるなど、中小M&Aの市場はやや限定的に想定されてきた。しかし、中小企業庁やM&A仲介事業者の事例を踏まえると、より幅広い企業で売却ニーズを見込むことができる。統計データや各種アンケート調査を基に推計すると、売却対象となり得る中小企業は138.8万社となり、わが国中小企業全体の約4割に及ぶ。

こうした潜在対象から企業売却のニーズを掘り起こし、着実にM&A市場に乗せるためには、支援組織の能力向上やそれらの活動をサポートする体制の強化が重要となる。具体的には、中小企業支援関連機関等の働きかけによって企業経営者の売却意識の改善を図るとともに、直接中小企業と接する地域金融機関などがM&Aに関する知見や企業の経営状態に関する分析力の向上を図ることである。加えて、支援組織や地域金融機関の取り組みを支える関係者間のネットワークの強化や情報の共有化なども求められる。

後継者不足や新型コロナ禍によるビジネス環境の急変など中小企業の経営環境が一段と厳しさを増すなか、M&A市場に登場することなく廃業に至っている企業のなかから、売り手として市場に乗せることができる事業を掘り起こすことは、企業各々の事業継続や事業再編・改革のみならず、買い手企業の成長、ひいては地域経済の活性化につながるであろう。官民を挙げた積極的な取り組みを期待したい。
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