コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

認可外保育施設の認可保育所等への移行に関する調査研究

2022年04月11日 福田隆士、増田のぞみ、小幡京加、湯浅夢奈


※本調査研究は、令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業として実施したものです。

1.目的
 認可外保育施設の認可保育所等への移行を検討する際の阻害要因等を把握し、対応の方向性を検討することを目的とする。
 そのために、認可保育所等への移行を希望している場合の阻害要因、阻害要因の解決策に関する調査・分析・検討を実施する。また、移行を希望していない施設についても、その理由の把握を行い、認可外保育施設のあり方を検討するための基礎資料を整備する。

2.調査の方法・進め方
 本調査研究では以下の内容を実施した。

(1)検討委員会の設置・運営
・有識者・実務者、自治体職員からなる委員会を設置・運営した。委員会は4回開催した。
(2)認可外保育施設に対するアンケート調査
・全国の認可外保育施設を対象に電子メールにて調査票を配布、ウェブ上で回収
・令和3年9月9日~10月15日の期間で実施、有効回収数4,237件
・調査項目は施設基本情報/認可保育所等への移行ニーズ/施設利用状況 等
(3)自治体に対するアンケート調査
・全国の都道府県、市町村を対象に電子メールにて調査票を配布、ウェブ上で回収
・令和3年9月9日~10月15日の期間で実施、有効回収数1,114件
・調査項目は自治体基本情報/地域における施設の認可移行ニーズ/施設支援状況 等
(4)認可外保育施設・自治体へのヒアリング調査
・アンケート調査結果の内容を踏まえ、特徴的な状況にある、または特徴的な取り組みを行っていると考えられる施設、自治体を抽出し、ヒアリングを実施した。
・認可外保育移設23件、自治体18件に対してヒアリングを行った。
(5)移行阻害要因および対応策の検討
・認可保育所等への移行の阻害要因を分析・検討し、要因別の対応策を検討した。
(6)報告取りまとめ
・調査、検討結果について報告書として取りまとめを行った。

3.アンケート調査結果の要点 
 各アンケート調査の主要な結果は以下のとおり。

【認可外保育施設向けアンケート調査】
・アンケート調査に回答した認可外保育施設のうち、認可保育所等への移行について検討している施設の割合は少ない。
・認可保育所等への移行に向けた課題としては、「移行に必要な資源(資金・土地等)の確保」、「自治体として運営事業者の募集をしていない」、「既存の施設・設備では認可施設の設備基準(保育室等の建物部分)」を満たすことができない」が多く挙げられる。
・認可外保育施設においては、認可移行に関する要件や手続きに関する情報を十分に把握できていない傾向にあり、また、認可移行に関連する行政の支援策についても認知・活用が進んでいない状況にある。

【自治体向けアンケート調査】
・認可外保育施設の認可移行は、その他の認可外保育施設から認可保育所、小規模保育事業への移行などが多く、次いで、事業所内保育施設の事業所内保育事業への移行が多い。ただし、現状、多くの自治体においては、積極的に認可保育所等への移行を推進している状況にはない。
・指定都市等では認可移行を政策として進めている割合が比較的大きいが、一般市町村の多くは政策として進めてはいない。
・認可移行を政策として進めていない大きな要因は、保育の受け皿が管内の認可保育所等で充足していると考えていることが挙げられる。待機児童の解消によって認可保育所等を増やす予定がないという意見もみられる。認可外保育施設からのニーズがないことを確認しているケース、認可保育所等への移行希望があった施設はすでに認可保育所等に移行を終えているというケースもある。
・自治体が考える、認可移行のさらなる推進のために必要な支援策としては、手続きの簡素化や、現行制度の改変(審査内容の見直し、多様な保育の容認、利用者選択の見直しなど)などが挙げられる。

4.ヒアリング調査結果の要点
 ヒアリング調査における主なポイントは以下のとおり。

【認可外保育施設向けヒアリング調査】
・認可保育所等への移行を検討している施設の検討・希望理由としては、「利用者確保・運営の安定(運営費補助)」、「質の向上」、「保育士確保・処遇改善」、「保護者の負担軽減・安心感」といったものが挙げられる。
・認可保育所等への移行に向けた課題・障壁としては、「自治体が募集していない」という意見が最も多く挙げられた。

【自治体向けヒアリング調査】
・待機児童数の減少や、既存の認可保育所等で受け皿が充足していると認識している自治体は、認可移行に積極的でない傾向にある。
・過去3年の移行実績がある自治体の中でも、待機児童減少に伴い、今後は認可移行を抑える方針をとる自治体もある。「小規模保育事業」のみ認可する、といった自治体もあった。

5.考察・提案
 各調査結果を踏まえ、認可外保育施設の認可移行における課題を以下のように整理した。

・認可外保育施設の認可移行が十分に進まない要因として、自治体の方針によるもの、施設の問題によるものの双方が想定される。
・まずは認可移行を進める流れの各ステップでの課題を明らかにしたうえで、次にそれぞれの検討すべき論点を整理することが効果的と考えられる認可移行検討の流れと各ステップでの課題・論点は以下のとおり。
・自治体および認可外保育施設が、それぞれの視点で課題を明らかにし、検討すべき論点を整理することが必要である。



 上記の課題を解消し、認可移行を促進するための今後の論点として以下を挙げ、それぞれについて検討の方向性を示した。

【各自治体・地域における認可外保育施設の認可移行のさらなる促進に向けて】

(論点1)今後新規に認可保育所等を増やす予定がない自治体においてどのような対応を図るべきか
・管内の認可保育所等が十分に整備されている自治体では、今後新規に認可保育所等を増やす予定はない場合が多い。しかし、認可外保育施設、認可保育所等以外のサービスが利用されているという現状に鑑みると利用者側のニーズは既存の認可保育所等だけでは充足できていない可能性があるのではないか。
・地域における利用者ニーズに適切に対応していくうえでは、利用者ニーズを丁寧に把握し、分析、明確化して、細かなニーズに対応できるよう環境を整えていくことも必要なのではないか。量的な充足に加え、ニーズに適切に応えられるといった質的な充足も図っていくべきと考えられる。認可外保育施設の認可保育所等への移行は、利用者の多様なニーズにより適切に対応すること、保育の質的な向上にもつながる側面があることを改めて認識する必要があるのではないか。
・認可移行の促進については以上のような観点から再度検討のうえ、子育て支援事業計画などに位置付けることも視野に考えていくことが必要ではないか。子ども・子育て支援法に鑑みても、利用者の就労環境、それに伴う保育ニーズを充足できるように計画を検討・推進していくことが期待される。
・待機児童の状況、今後の人口減少の見込み等、地域の状況に応じて求められる保育ニーズは異なるものであり、それぞれの地域の状況・特性を踏まえて検討することが必要となるのではないか。いずれの地域においても、自治体、施設それぞれにとって納得がいくような調整、ルールづくり等について考慮する必要があると考えられる。

【認可外保育施設の認可移行を推進するうえでの自治体の対応策・対応範囲について】

(論点2)認可移行に関する条件・対象などの周知策、情報提供はどのようにすべきか
・自治体からの周知・情報提供を基本としつつ、多様な方法でアプローチすべきではないか。また、単一方向の周知・情報提供だけでなく、相談の機会などは設けるべきである。
・多くの自治体で認可外保育施設にも、巡回支援指導員が訪問することとなるため、巡回指導の際の情報提供、相談対応といったことも有効なのではないか。
・認可移行のメリットとして、経営の安定化(運営費の補助)もあるが、保育士確保・質の確保など、多様な観点でのメリットがあることを示していくことが改めて必要ではないか。
・国等の支援制度について、施設に十分認知されていない状況であるが、これは自治体の認可移行がさらに推進されることでより活用が広がる可能性があるのではないか。支援制度について単体で周知を図るのではなく、認可移行の趣旨・利点を丁寧に説明しつつ活用できる支援があることを示していくことが効果的ではないか。

(論点3)認可移行を進める際、自治体がどこまで支援すべきか
・事務対応に係るマンパワー不足、情報不足、手続きに不慣れなことなどから施設にとっては非常に負荷が高い面があり、ある程度自治体からの支援が期待される。
・移行を促進するためには、具体的な書類の書き方や移転先の探索支援等も期待されるのではないか。

【現状では、認可外保育施設から認可保育所等への移行が難しい状況下での対応について】

(論点4)認可保育所等への即時の移行が難しい状況の場合、どのような方策が考えられるか
・地域内で認可保育所等を増やす予定がない、あるいは認可移行希望があるものの基準、要件を充足することができないという場合においても、多様な利用者ニーズへの対応、保育の質の確保などの観点から一層の取り組みが期待される。
・現状の環境下で、認可外保育施設の認可保育所等への移行を進めることが難しい場合、自治体独自の認証制度などを活用することも有効となるのではないか。さまざまな制約から認可保育所等とすることが難しい場合において、地域のニーズ・課題に対応した施設を自治体として支援するような仕組み・制度についてはより多くの自治体で検討できるのではないか。独自認証を経て段階的に認証施設に移行するというプロセスも考えられる。

(論点5)認可外保育施設としての運営を維持する場合の対応をどう考えるか
・認可保育所等への移行が今後も難しいケース、施設側が認可外保育施設としての運営を希望するケースも想定されるが、その場合でも、多様なニーズへの対応、保育の質の向上は考える必要がある。
・質の確保という観点からは、現状、認可外保育施設が対象となっていない研修などへの参加を認めていくということも一つの方策ではないか。また、巡回指導支援員の一層の効果的な活用についても検討すべきではないか。


※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

【本件に関するお問い合わせ】
 リサーチ・コンサルティング部門
 シニアマネジャー 福田隆士
 TEL:080-2302-7799  E-mail:fukuda.t@jri.co.jp
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ