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【地域中小企業のDX推進に向けた枠組み作り】
(前編・地域での連携による地域中小企業ニーズの把握)

2022年04月07日 佐藤善太、渡部稜、濱本真沙希


 本稿では、地域中小企業のDX(※1)推進に向けて自治体が実施すべき施策の方向性について、前後編に分けて論じる。前編では自治体向けに日本総研が実施した地域中小企業のDXに関するアンケートの分析結果について示す。アンケート結果より、人口規模の小さい自治体ほど地域中小企業へのDX支援策を実施できていない傾向にあること、中小企業側のニーズを踏まえたDX支援が実施できていない自治体が多くあること等を紹介する。また、アンケート結果を踏まえて筆者らが構想する地域中小企業のDX推進施策の方向性を提示する。後編では、自治体における先駆的な中小企業DXの支援策を紹介し、その上で筆者らの構想する中小企業DX支援の在り方の方向性を検討する。

1.地域中小企業のDX推進に向けた仮説
 昨今、DXによる企業の業務改善やイノベーションの創出が注目される中で、経済産業省がデジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を設けて企業のDXを後押しするなど、企業のDXを推進する機運が高まっている(※2)。特に、地域経済の重要な担い手である中小企業のDX推進に向けては、図表1に示す通り、地方自治体のみならず、地域金融機関が中核としての役割を担うことが期待されている。こうした現状を踏まえ、自治体向けに地域中小企業のDX支援に関するアンケートを実施し、地域内外での自治体・地域金融機関等の連携体制構築による地域中小企業へのDX推進に資する施策の検討を行うこととした。



2.自治体へのアンケート
 (1)アンケートの実施概要
 アンケートは以下の要領で全国の自治体に対して実施し、地域中小企業へのDX支援の実施状況やその内容、DX支援に向けた地域金融機関との連携状況等について尋ねた。分析結果を(2)に示す。



 (2)アンケートの分析結果
 アンケートの主な分析結果は次のとおりである。


 以下に、アンケートの分析結果の詳細を記す。

①DX支援の実施状況 
 ~人口規模が小さい自治体ほど地域中小企業に対するDX支援策実施に遅れ~
 図表3は、自治体の人口規模別に地域中小企業に向けて独自に実施しているDX支援の有無を示したものである。これを見ると、都道府県や人口規模の大きい基礎自治体(人口50万人以上)では地域中小企業に対するDX支援策の実施率が高い(それぞれ92.9%、90.0%)一方で、人口規模の小さい基礎自治体(人口10万人未満)では実施率が低い(33.3%)ことがわかる。
 自治体の人口規模によって、自治体の地域中小企業に対するDX支援の実施状況に明確な差がある実態が浮き彫りになった。



②DX支援の内容 
 ~金銭的支援にとどまらない人的な支援の重要性~
 図表4は地域中小企業に向けて独自に実施しているDX支援の種別を示したものである。これを見ると、最も多くの自治体で実施されているのが金銭的支援であることがわかる。一方で、図表5に示すDX支援の種別ごとの自治体から見た有効度においては、金銭的支援に対する評価が比較的低く、人材育成・人材あっせん等の支援に対する評価が高くなっている。




 なお、上記のDX支援策別の自治体から見た有効度においては「その他の支援」の値も高くなっている。「その他の支援」については具体的な内容を記載してもらい、他の選択肢と同様に有効度の評価も回答してもらっているが、その中で「非常に有効である」と評価されているものにも、以下に示すように人的支援等に関するものが多く挙げられている。こうした回答からも、人的支援等の効果が自治体に高く評価されていることが読み取れる。



 以上の結果を踏まえると、より効果のある支援を目指すうえでは、人的な支援も実施できるような体制構築が重要であると考えられる。

③DX支援に向けた課題
 ~地域中小企業のニーズの把握・ニーズに即したDX支援が自治体の課題~

 図表6は、自治体が認識している地域中小企業のDX推進に向けた課題を示したものである。これを見ると、地域中小企業の課題は人材・ノウハウ・予算等多岐にわたることが分かる。中でも、地域中小企業の人材や自治体職員のノウハウ不足が最大の課題として挙げられている。



 また、図表6で「地元中小企業の人材・ノウハウ不足」「自治体職員の知見・ノウハウ不足」の次に、「そもそも企業のニーズを把握できていない」という課題も多く挙げられている。自由記述による回答でも、下に示す通り「地域中小企業のニーズが把握できていない」という意見が多く寄せられた。これらから、企業のニーズを適切に拾い上げ、そのうえでニーズに即した支援を実施することが地域中小企業に対するDXの支援を推進するために乗り越えるべき障壁であるといえる。



④DX支援に向けた地域金融機関との連携
 ~地域中小企業の窓口となる地域金融機関とは小規模自治体ほど連携が不十分~

 本稿冒頭および図表1で示した通り、地域金融機関は地域中小企業との関わりが深く、地域におけるキープレイヤーと言える。図表7は、地域中小企業のDX支援に向けた地域金融機関との連携について示したものである。これを見ると、地域金融機関との連携を進める意向を持った自治体は全体の55.7%を占める(※3)が、実際に連携している自治体は11.7%にとどまることが分かる。また、図表8からは、規模の小さい自治体ほど地域金融機関との連携を実施できていない状況にあることも読み取れる。
 前項にあげたとおり、地域中小企業に対する適切なDX支援に向けては企業のニーズを把握することが課題であるとの指摘が多い。これを解消するためにも、現状で連携を実施できていない傾向にある小規模な自治体も含めて、地域中小企業との関わりが深い地域金融機関との連携を推進する必要があると考えられる。




3.アンケート結果を踏まえたまとめ
 (1)実施すべき支援策の方向性に関する示唆
 前項のアンケート結果から、実施すべき支援策の方向性について次のような示唆が得られる。図表9に、アンケート結果と示唆の関係を示す。



1.自治体間広域連携・地域金融機関連携体制構築の有効性
 ~自治体間の広域連携を核とした「官民横断」の支援体制~
 アンケートの結果、人口規模の小さい自治体では、地域中小企業に対するDXの支援が進展していないことが明らかになった。この背景には、規模の小さい自治体には人的・金銭的なリソースが不足しており、十分に支援を実施する余力がないという実態があると考えられる。
 これを踏まえた施策として、「自治体間広域連携体制」が有効であると考えられる。特に、規模の小さい自治体においては、他自治体と連携して人的・金銭的なリソースを確保することが、現状を打開する契機となる。また、自治体間の職員の交流によるノウハウの共有も期待することができる。
 さらに、上記の自治体間広域連携体制に地域金融機関も加えることが有効である。地域金融機関は地域中小企業と深いかかわりを持つ第三者機関であるが、アンケートの結果からは、地域中小企業に対するDX支援に向けた地域金融機関との連携を望むもののこれを実現できていない自治体が半数近くにのぼることが分かった。上記の自治体間広域連携の枠組みを公共セクターに閉じることなく地域金融機関も巻き込む形で整備し、自治体(周辺自治体含む)・地域金融機関・地域中小企業等を含んだ官民横断の支援体制を構築することで、より効果的なDX支援につなげられると考える。

2.ニーズを起点とした支援の有効性
 ~中小企業の抱えるニーズに即した支援~
 アンケート結果からは、地域中小企業のDX支援に向けて、中小企業のニーズを自治体が十分に把握できないことが大きな課題として捉えられている実態が明らかになった。こうした背景には、地域中小企業のニーズが個社ごとに異なること等があるとの回答も得られた。
 この課題の解決に向けては、前項で提案した連携体制を活用し、自治体が地域金融機関を通して地域中小企業のニーズを拾い上げることが有効である。地域中小企業と普段から直接的な関わりを持つ地域金融機関を通して地域中小企業のニーズを的確に拾い上げることで、自治体の実施するDX支援策の方向性とニーズの整合を図り、より効果的な支援につなげることができる。

3.人材育成・人材あっせん等に係る支援の有効性
 ~金銭的な支援にとどまらない「人的」な支援~
 アンケート結果からは、中小企業側に人材・ノウハウが不足していることを地域中小企業のDX推進に向けた課題として挙げている自治体が多くあることが明らかになった。実際、自治体が「人的」な支援(人材育成・人材あっせん等)の効果を高く評価しているという結果も得ることができた。
 これらから、人的な支援が地域中小企業のDX推進に向けた支援の在り方として有効であると考えられる。現状で実施されている支援策は、金銭的支援に関するものが最も多く挙げられたが、金銭面のみならず人材育成や人材あっせん等の人的な側面を支援することが重要であるといえる。


 ここまで述べてきたように、地域経済の重要な担い手である地域中小企業のDXは、複数の自治体や地域金融機関等を巻き込んだ地域社会ぐるみの支援によって効果的に進展させることが期待される。規模が小さく独自での支援実施を検討できていなかった自治体においても、本稿で述べた3つの示唆(「自治体間広域連携・地域金融機関連携体制構築の有効性」「ニーズを起点とした支援の有効性」「人材育成・人材あっせん等に係る支援の有効性」)を施策に織り込むことで地域中小企業のDXを成功裏に支援することができるものと思われる。
 後編では、アンケート結果の分析から示唆として得られた「自治体間広域連携・地域金融機関連携の体制構築」、「ニーズを起点とした支援」、「人材育成・人材あっせん等に係る支援」という方向性で実際に行われている取り組み例を紹介するとともに、日本総研が考える今後の地域中小企業のDX支援体制構築の方向性について述べる。


(※1) 「デジタルトランスフォーメーション」の略。デジタル技術を活用して、業務の在り方を抜本的に変革する取組のこと。
(※2) 経済産業省ニュースリリース「デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました」(2019年7月31日)にて「DX推進指標」の策定を公表。
(※3) 「地域金融機関と連携している」と「地域金融機関と連携していないが、今後連携したい」を合わせた回答。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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