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スポーツワーケーションによる地方創生と健康経営の可能性
~2021野沢温泉スノーワーケーション実証概要~

2022年04月05日 佐藤俊介


1.野沢温泉村におけるスポーツワーケーションの実施
 日本総研は、ニューノーマルにおける働き方として注目されているワーケーションに、スポーツを組み合わせた「スポーツワーケーション」の実証事業を、2021年3月に長野県野沢温泉村で行った。東阪6企業16名の被験者は、月曜から金曜までの約1週間の現地滞在の中で、スポーツとワークとバケーションによる非日常的なライフスタイルを体験した。
 この実証事業では、スポーツワーケーションによる効果を可視化することを目的としており、被験者にはアンケート等による調査を実施した。調査結果からは、地域ブランド向上による地方創生への影響や、高い集中力の実現やモチベーションの向上による健康経営への影響など、今後も解決が求められる社会課題への一定の効果が確認できた。

2.スポーツ×ワーク×バケーションによるライフスタイル
 被験者は、スキーもしくはスノーボードを1日1時間以上実施した後、マインドフルネスでリラックス時間を確保した上で、ワークへのパフォーマンス向上効果を確認するための創造性テストを実施した。その他の時間は、基本的には各自自由にワークしたり、バケーションとして過ごしたりした。




 被検者は、スキー場内のインフォメーションセンターをシェアオフィスとして利用し、自然景観を眺めながらワークを実施した。また、スキー、スノーボード、ウエア等の荷物置き場や更衣室としてもインフォメーションセンターを活用できたので、被験者は、宿からシェアオフィスまでは、普段着で通勤した。スポーツとワークの環境を近づけ、スポーツ実施までに伴う時間コスト・準備コストを最小化したことで、1日の中で複数回のスポーツ実施も可能であった。また、被験者と地元住民とのワークショップを行い、被験者にとっての新たなインプットやネットワーク作りの機会とした。



 被検者は、中長期滞在のためのキッチンやリビング、洗濯機等の設備がある宿泊施設に滞在した。また、滞在中は、村内13カ所の温泉(共同浴場)入浴や、野沢菜漬けをはじめとする地元食材の食事を堪能した。被験者は、1週間という地方滞在でしか味わえない入浴や食事といった活動の中で、地元村民との交流や対話などを通じ、地域文化や歴史等への理解を深めた。



3.地方創生に対するスポーツワーケーションの可能性
 野沢温泉村に対する印象について、実証前後に被験者にアンケート調査を実施した。観光意欲度や魅力度に関する設問については、実施後に非常に高評価となっており、被検者2名においては、実施後1カ月以内に家族で再訪している。
 また、2拠点居住意欲度や移住意欲度の設問についても、実施後の評価が高まっており、スポーツワーケーションにより地域に中長期滞在することは、その後の移住、定住意向に寄与する可能性が示唆された。スポーツワーケーションと、一般的なワーケーションとの違いは、スポーツを実施することによる参加者同士の共体験が得られること、コミュニケーションによる影響と、そこから派生するスポーツならではのコミュニティ形成などが考えられる。



4.健康経営に対するスポーツワーケーションの可能性
 被検者に対する、実証後のアンケート調査では、「高い集中力で仕事ができる時間が増えた」との設問に「とても感じた」と「まあまあ感じた」と回答した被験者が8割を超えた。また、全ての被験者がモチベーションの向上を感じており、労働時間短縮への効果も7割以上の被験者が感じている。
 これらの調査結果は、1日のスケジュールにおいて、ワーク、スポーツ、温泉等のバケーションと、時間的・精神的な切り替えが明確となり、メリハリのある生活が実現できていたことが要因と考えられる。多くの被検者からは、1週間の滞在があっという間に過ぎたという感想を聞いた。
 また、本実証事業から、長時間労働やモチベーション低下等、健康経営の実現に向けた課題に対して効果がある可能性が高いことが示唆された。また、スポーツを習慣的に実施することから、身体的な健康度向上は、当然ながら期待できる。



5.まとめ
 スポーツを軸として、ビジネスマンが地方に中期滞在するスポーツワーケーションには、地方創生と健康経営という社会課題解決への可能性があるということが、アンケート調査から示唆された。地域において継続的にスポーツワーケーションを実施することは、地方自治体に対し、中長期滞在による地域経済への波及効果の他、第二のふるさととして継続的に再訪する関係人口づくりへの効果が期待できる。また、社員のスポーツワーケーション実施は、企業に対し、長時間労働やモチベーション低下等への効果のほか、高い集中状態でワークすることが期待できる。
 一方、スポーツワーケーションを実施するためには、スポーツ機能、オフィス機能、中長期滞在機能のほか、交通機能や地域交流機能等、地域の多くの団体の協力が必要となることからも、商品としては高価格になることが懸念点となる。
 今後は、どのようなスポーツ、ワーク、バケーションを組み合わせれば、より効果的であるかの検討を行うとともに、それらの効果を可視化することで、地方自治体等の公的資金や、企業の人材育成に対する投資を呼び込めるようなビジネスモデルの検討を行うことが必要であると考えている。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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