オピニオン
サービス付き高齢者向け住宅等における適正なケアプラン作成に向けた調査研究
2022年04月14日 紀伊信之、齊木乃里子、森下宏樹、大内亘
*本事業は、令和3年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。
1.事業の目的
住宅型有料老人ホームおよびサービス付き高齢者向け住宅(以下、住宅型有料老人ホームおよびサービス付き高齢者向け住宅を総称し、「高齢者住まい」と言う。)は、合計の入居定員が50万人を超え、高齢期の「住まい」の重要な一角を占めている。建物部分と、介護保険サービスが別の契約になっており、「住まい」として、利用者が必要なサービスを必要なだけ選択できる一方で、事業者側は建物部分と介護保険サービスを一体運営するケースが多いため、入居者に対して過剰なサービスが提供される問題がしばしば指摘されている。
一部に「過剰なサービス提供」が疑われる事例がある一方で、多くの事業者においては、利用者のニーズに沿った適切なケアプランが作成され、適切な運営が行われていると考えられる。こうした事業者が増え、良質な高齢者住まいが増えていくためには、高齢者住まいにおけるケアマネジメントのあり方が整理され、ケアマネジャーや高齢者住まい運営事業者の理解・認識が深まると同時に、高齢者住まい入居者やその家族としても、本人が望む暮らしを実現するための権利等を十分に理解する必要がある。
令和2年度に実施した調査では、高齢者住まい運営法人からの別法人ケアマネジャーに対する不適切と考えられる要請が実態として存在すること、また利用者本位のケアマネジメントが自分自身も実践できていないと認識しているケアマネジャーも一定数存在すること等が確認された。
本年度事業においてはこうした過去の調査結果等も踏まえ、高齢者住まいの運営に関わる各主体(居宅介護支援事業所・ケアマネジャー、高齢者住まい運営事業者)および高齢者住まいに入居する高齢者やその家族に対して、不適切なケアマネジメントの考え方を示すことで利用者本位の対応に関する共通理解を促すべく、以下の啓発冊子の作成を行った。
・居宅介護支援事業所・ケアマネジャー向け冊子
・高齢者住まい運営事業者向け冊子
・高齢者住まいに入居する高齢者やその家族向け冊子
本事業は、これらの啓発ツールが広く関係者に普及すること等を通じて、すべての関係者が「利用者本位の暮らし」を理解することの一助となることを目指したものである。
2.事業概要
高齢者住まいに関する有識者や実務者等で構成したワーキンググループを設置し、「適正なケアマネジメント」について検討を行った上で、下記を実施した。
(1)高齢者住まいでのケアマネジメントの個別事例等に関する実態調査
高齢者住まいにおけるケアプラン作成・ケアマネジメントの実態を把握するため、現場のケアマネジャーに対し、主に個別事例等に関するアンケート調査を実施した。
(2)居宅介護支援事業所・高齢者住まい運営事業所・消費者向け啓発資料の作成
各種調査結果およびワーキンググループにおける検討等を踏まえ、高齢者住まいにおけるケアプラン作成・ケアマネジメントに関する留意事項や実施のポイントについて整理し、冊子を作成した。
3.主な事業成果
それぞれ作成した冊子の概要は以下のとおり。
①居宅介護支援事業所・ケアマネジャー向け啓発冊子(別添資料1)
ケアマネジメントプロセスのどこに問題があり、結果的にどのような状態になっていると不適切なのか、事例を確認しながら理解できるような構成とした。また、自らの対応について振り返りができるよう、チェックリスト形式でポイントを整理した。さらに、対応の改善に向けて個々のケアマネジャーが具体的なアクションを起こせるよう、また一人で抱え込んでしまうような状況を避けられるよう、具体的なアドバイスとともに、困ったときの相談先を掲載することとした。
②高齢者住まい運営事業所向け啓発冊子(別添資料2)
住まい側の視点から、不適切な対応につき具体事例を通じて確認・理解できるような構成とした。また①と同様に自らの対応について振り返りができるよう、チェックリスト形式でポイントを整理した。
③消費者(入居者・家族)向け啓発冊子(別添資料3)
入居者・家族が実際に「ケアマネジメントが適正に行われているか」をチェックできるような構成とした。特に理解いただきたい内容として、本人にサービス提供事業所やサービス内容等の選択権があるという点を強調した。なお、既に入居している場合・入居を検討中の場合のいずれにも対応できるよう、それぞれのケースで重視すべきポイントを明確化することとした。
4.今後の課題
・「適切なケアマネジメント」の一層の理解促進
今回作成した啓発冊子は、「意図せずして」不適切なケアマネジメントを行っている事業者を中心に、全体のリテラシーを向上させることに寄与することが期待できるが、一方で、意図的に、あるいはその他の事情でやむを得ず不適切な対応を行っている事業者・ケアマネジャーに対しては、十分な効果を発揮するとは言いがたい。こうした事業者にも改善を促すことができるよう、今後はさらなる対応を行う余地がある。
・成果物の普及促進・効果の検証
今回作成した啓発冊子の一層の普及に向けた周知活動を実施しつつ、何らかの形で効果検証を実施し、結果を踏まえたさらなる啓発手法・内容を断続的に実施していくことが求められる。
・「適切なケアマネジメント」に向けた、より実践的な事業者フォローの取組み
すべての事業者に対し、不適切な対応を「不適切である」ということを再認識してもらうことから一歩進んで、今後は、より良いケアプランを作成するための工夫を促すことができるような取り組みも求められる。
※詳細につきましては、下記の報告書および別添資料をご参照ください。
⇒報告書
⇒(別添資料1)住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅におけるケアマネジメントの考え方(居宅介護支援事業所・ケアマネジャー向け)
⇒(別添資料2)住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅におけるケアマネジメントの考え方(高齢者住まい運営事業所向け)
⇒(別添資料3)高齢者向け住まいでの介護保険サービス利用にあたって確認したいポイント
【本件に関するお問い合わせ】
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
部長(プリンシパル) 紀伊信之
TEL:080-1203-5178 E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp