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BtoB企業のデジタルマーケティング
-「質」の高い顧客を獲得するために、自社のウェブサイトを点検せよ-

2022年03月28日 橋本隆信


営業活動の変化とシステム導入の加速
 コロナ禍で大規模な展示会やセミナーの開催、対面の営業活動などが難しくなっている。代わりにウェビナーやオンライン商談などが増加し、営業活動は大きく様変わりしている。またその流れで企業の顧客関係管理(CRM:Customer Relationship Management)システムや営業支援(SFA:Sales Force Automation)システム、マーケティングオートメーション(MA:Marketing Automation)システムなど、営業活動を支援管理するシステムの導入が加速している。
 これらのシステムを導入した場合、顧客とのコミュニケーションはどのような流れになるのか、その一例を挙げる。
 ①これまで営業担当者が直接名刺交換した顧客やウェブ問い合わせをした顧客など、何らかの接点のある顧客がCRMシステムに登録される。
 ②CRMシステムに登録された顧客は営業担当者などが定期的にコンタクトを行い、その状況が都度SFAシステムで管理される。この時に顧客の状況がホット、コールドなど営業活動に対するレスポンスが管理される。
 ③その顧客の状況に合わせてMAシステムによる製品紹介メールの送信や、コンタクトセンターから状況確認電話、営業アポイント電話などが行われる。
 一方で、これが顧客の立場になるとどのようになるのか。
 ①日々の始業時にメールソフトを立ち上げるとメール広告やメールマガジン、状況確認メールを大量に受信している。宛先と件名で興味のないものは即削除する。興味があるものについては、メールを開いて読み始めるが、これはという内容がなければ削除する。
 ②日中の業務時間中にはアポなしの営業マンが来ない代わりに、状況うかがいやアポ取りの電話が定期的に鳴る。電話を取った場合でも、ほとんどの場合は興味がありませんと回答して切る。
 以上の対比から単純にCRMシステムやSFAシステムを導入しただけでは、営業活動が簡単にはうまくいかないのが容易に想像できるだろう。
 確かに一連の活動において、営業活動のプロセス管理は適正に行われている。一方で活動以前に、肝心の自社の製品やサービスを本当に必要としている顧客に対して、適切なタイミングで適切にアプローチしているかは疑問である。これはアプローチする顧客の「質」に問題があると考えられる。ここで言う「質」とは自社の顧客として最終的に製品やサービスを購入してくれる可能性が高いという意味である。では「質」の高い顧客を自社の製品やサービス購入候補として獲得するには何が必要なのか。

インバウンドマーケティングにおける自社のウェブサイトの重要性
 BtoB企業の顧客の購買活動の場合、購買担当者は購買対象の製品やサービスについて、事前にウェブサイトで下調べをすることがほとんどであると言われている。一般的には検索エンジンなどを通して調査する場合が多い。
 つまり製品やサービスの販売側の企業としては、まずウェブサイト上で自社の製品やサービスをいかに見つけてもらうかが重要になる。それには、まず自社のウェブサイトの製品紹介やサービス紹介などの特定のページを検索結果の上位表示させて、ウェブサイトへの流入を増やすための取り組みである検索エンジン最適化(SEO:Search Engine Optimization)が必要である。この辺りの対策はほとんどの企業が実施している。
 同様にほとんどの企業ではウェブサイトのアクセス解析サービスを活用し、自社のウェブサイトの往訪・閲覧分析などを実施しており、どんなウェブサイト経由でどれくらいの閲覧数があり、各ページがどのくらいの時間をかけて閲覧されているかなどの把握を行っている。
 一方で、自社のウェブサイトの往訪・閲覧分析までは実施していながら、肝心のウェブサイトのコンテンツ見直しが行われていないケースが多い。せっかく自社のウェブサイトを往訪してくれた顧客への対応がまだまだ不足している可能性が高いと考えられる。
 多くの企業のウェブサイトでは自社の製品やサービスをカタログのようなイメージで、できるだけ広範囲に数多く掲載している。またウェブサイトは階層化しているケースがほとんどで、特定の製品やサービスを選択すると、さらに詳細な説明がなされるような構成になっている。もしそこで具体的な問い合わせや見積もりが欲しいといった場合には、「お問い合わせ」から社名や氏名などの個人情報を入力して、問い合わせを行うといった流れになっていることが多い。企業側の心理としては、できるだけ自社のサービスを幅広く知ってもらい、さらなる情報が必要な人には問い合わせとしてもらうといったところであろう。
 一方で顧客の立場になると少し違ってくる。
 何らかの課題を持って、検索エンジンでキーワード検索を行い、合致した候補からウェブサイトを訪問する。ウェブサイトを閲覧すると、通り一遍の内容、もしくは同じような製品やサービスを扱っている企業のウェブサイトと同じような説明が並んでいる。この時点で多くの訪問者は離脱してしまう可能性が高い。またもう一歩踏み込み、詳細な説明を確認して、より興味を高めたので、さらなる情報が欲しいと思うと、「お問い合わせ」画面に突き当たる。さらにどんな情報が提供されるか分からないが、個人情報を入力して問い合わせをした途端に、コールセンターからアポ取り電話が掛かってくるのが想像できてしまい、結局、そこで画面を閉じる。
 なぜこのようなギャップが生まれるのか。それは製品やサービスの開発の際にもあり得るが、プロダクトアウト的な発想がウェブサイトの構築でも起きていることが要因として考えられる。良い製品やサービスの説明をウェブサイト上に掲載しておけば、顧客がやってきて閲覧し、必要であれば問い合わせを行うであろうという考えである。

顧客視点による閲覧シナリオの作成と定期的な見直し
 BtoB企業の製品紹介やサービス紹介のウェブサイト構築で重要な視点は以下である。
 ・自社の製品やサービスのターゲット顧客が誰なのか。
 ・ターゲット顧客がウェブサイトに来訪した際に、どのような課題を持っており、どのように解決したいと思っているのか。
 ・その課題を自社の製品やサービスがどのように解決できるのか。
 ・解決できることを説明するのに、機能の詳細、導入実績、導入事例、競合サービスとの違いなど、どのような情報があれば納得できるのか。
 以上のような視点を整理し、ターゲット顧客や解決課題のパターンを洗い出し、そのパターン単位で顧客のウェブサイト上の閲覧シナリオを整理し、そのシナリオをもとにウェブサイトの構成を検討していくことが必要である。
 一般的にBtoB企業のウェブサイトにおいては、ウェブサイト上で購買行動が起こることは少なく、自社の製品やサービスに対する問い合わせを最終ゴールとする場合が多い。顧客が課題認識をもとにウェブ上で検索し、その結果表示されたウェブサイト等の情報を参照・比較し、最終的に問い合わせを実施する。その際に、いかに納得感を持って個人情報を登録して問い合わせてもらうかが、ポイントになる。そのためには自社のウェブサイトが、製品やサービスを必要としている顧客に、その製品やサービスが顧客の課題をいかに解決し、どれほど役に立つものであるかを、納得させる情報を提供していることが重要である。その上で問い合わせをしてきた顧客こそが、自社にとって「質」の高い顧客になり得る可能性が最も高い顧客である。
 顧客の事業環境の変化に伴い、抱えている課題も随時変化していく。自社のウェブサイトに来訪した顧客が、想定したシナリオ通りに閲覧しているかを、定期的に分析し、自社の製品やサービスのターゲット顧客に合致するようにウェブサイトのシナリオの見直しを行うことが、自社にとって「質」の高い顧客を獲得する可能性を高める近道である。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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