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JRIレビュー Vol.4,No.99

薬局薬剤師のプライマリ・ケアへの取り組み強化に向けてー多職種連携強化と薬剤師の役割の拡大を

2022年03月25日 成瀬道紀


わが国は、医療保険制度の持続可能性を維持しつつ、医療サービスの質向上を図るという重要な課題に直面している。医療における薬物療法の役割の大きさを踏まえれば、こうした課題の解決に向けて薬剤師の能力を最大限に活かすことが不可欠である。本稿は、薬局薬剤師の役割の拡大を進めているイギリスを参照しつつ、わが国の薬局薬剤師がその能力を一段と発揮するためにとるべき政策を考察する。

わが国の薬剤師数は31万人(2018年)と、医師数(33万人)に匹敵する規模である。近年、なかでも薬局薬剤師の増加が著しい。薬剤師の業務には、薬の調製(対物業務)に加え、服薬指導や服薬フォロー(服薬遵守状況や薬の効果・副作用の確認)などもある。これらの業務は対物業務との対比で対人業務と呼ばれる。わが国では、プライマリ・ケアと呼ばれる患者に身近な医療において、薬局薬剤師の対人業務への取り組みが不十分との指摘が再三されている。政府もこうした状況を深刻に受け止めており、薬局薬剤師の対人業務強化に取り組んでいる。

わが国の薬局薬剤師の対人業務強化に当たり、大きく三つの課題がある。一つ目は、プライマリ・ケアを担うチームの一員としての多職種連携の不足である。病院薬剤師に目を転じれば、患者の電子カルテ等の閲覧が可能で、院内カンファレンスに参加し、多職種で連携してチーム医療を実践している。これに対し、薬局薬剤師は医師とは別の組織に属するという制約もあって、データの共有も含めて医師との連携が十分にとれていないことが多い。例えば、処方箋にはほとんどの場合病名すら記載されていないなど、薬局薬剤師には医師の診断内容や処方意図が共有されていない。

二つ目は、薬局に対人業務強化を促す政策手法の金銭的インセンティブによる誘導への依存過多である。具体的には、薬局が提供するサービスへの対価である調剤報酬について、政府が詳細な要件を定め、それを充足した薬局に対して加算する措置がとられている。もっとも、その要件は外形的なものであり、成果に基づくものではない。このため、必ずしも対人業務の質向上という本来の目的の達成につながっていないうえ、加算取得が自己目的化している面すらある。調剤報酬による誘導に依存せざるを得ない背景には、わが国の薬局が差別化の難しい処方箋調剤に偏重するなか、患者が薬局を選ぶ際に対人業務の質を重視しない傾向があることを指摘できる。

三つ目は、薬局の規模に応じた調剤報酬体系となっており、小規模薬局優遇の弊害が目立つことである。現在の調剤報酬体系は、処方箋受付回数が少ない薬局に手厚くなっている。小規模薬局の優遇は、薬局の規模の違いに起因した卸売との価格交渉力の格差是正や過疎地域における薬局へのアクセス確保などの目的であれば是認されるであろうが、そうした目的は明示されておらず、都市部や病院の門前に複数存在する薬局に対しても規模の小ささのみを理由に一律に優遇されている。こうした状況は、薬局が対人業務の質を高めて患者を増やそうとする健全な競争を阻害するうえ、薬局に複数の薬剤師が必要な在宅医療への参画や24時間体制の構築を難しくするなど、薬局薬剤師のプライマリ・ケアへの貢献という観点からも問題がある。

翻ってイギリスでは、薬局薬剤師が医師の作成した患者データを閲覧できるITインフラが整備されているうえ、医師と薬局薬剤師との人的交流など、多職種連携を行いやすい環境の醸成に取り組んでいる。薬局は、①セルフメディケーションを含む軽症患者への対応、②リフィル処方箋を中心とした慢性疾患患者への対応、③インフルエンザワクチン接種をはじめとした予防・公衆衛生など、幅広いサービスを提供している。さらに、政府機関のホームページで各薬局のサービス内容や患者からの評価を掲載しているほか、義務教育で薬局について教育するなど、国民への情報提供が充実している。小規模薬局への支援は、原則データに基づき価格交渉力の格差による部分を調整するのみで、過疎地域などで薬局へのアクセスを確保するための追加的な支援は、近隣に他の薬局がない薬局に限定して行っている。

以上を踏まえ、わが国の薬局の対人業務強化に当たり、求められる政策は以下の通りである。第1に、多職種連携の強化である。ポイントは、多職種でデータを連携できるITインフラの構築と、人的交流の促進である。第2に、薬局薬剤師の役割の拡大である。具体的には、セルフメディケーションの強力な推進と、2022年4月から導入予定のリフィル処方箋の普及促進、ワクチン接種等での薬剤師の活用などが挙げられる。第3に、国民への情報提供の充実である。個々の薬局に関する基本情報はすでに都道府県が提供しているものの、患者による評価の追加など内容の充実や、情報提供制度そのものの周知など改善の余地がある。さらに、義務教育の段階から、薬局の役割を含め医療制度を全国民に教育することが有効と考えられる。第4に、小規模薬局の優遇の適正化である。優遇の目的と根拠を明確にして、薬局の規模拡大のインセンティブを阻害しない報酬体系とすべきである。

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