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【デザインによる仮説探索・検証型公共サービスの新たな価値創造】
第三回 国内外の先行事例に見る、公共サービスのデザイン②

2022年03月07日 木下友子


 本連載では、全五回を通じ、市民ニーズや市民起点のアイデアを適切にくみ取り、柔軟に公共サービスに取り入れていく方法として「デザイン(※1)」を活用する可能性について検討する。初回では、連載の背景や目的に加え、国内外での先進事例の紹介を行った。
 近年、国内でも行政の現場にデザインの視点を取り入れようとする動きが活発化している。今回は第二回の「Policy Design School」に続き、国内事例紹介の第二弾として滋賀県での取り組みを取り上げる。同県では、地方自治体の中でいち早く政策立案におけるデザインの活用に着目し、職員有志が自主的な取り組み”Policy Lab. Shiga”(以下、PLS)を立ち上げた。PLSの開始から、具体的な活動やその取り組みが現在までにどのようにつながっているかなど、実際に取り組みに関与された関係者へのインタビューも踏まえて見ていきたい。
 なお、今回の記事執筆にあたっては、滋賀県庁職員である辻勝郎氏、澤田有希子氏に取材をさせていただき、大変お世話になった。この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。



1.PLSの概要と立ち上げ
 Policy Lab. Shigaとは、同ウェブサイトによれば「滋賀県庁の職員有志を中心とした、新たな政策研究プロジェクト(県非公式の業務外企画)」(※2)である。PLS立ち上げのきっかけとなったのは、三日月滋賀県知事による、2016年8月のスタンフォード大学「d.school」視察であった。帰国後の談話で、知事は「行政もいま一度現場に入り、(中略)課題を再定義し、たくさんのアイデアを出し合いながらその課題の解決に向けて挑戦していくこと」の重要性に言及している(※3)。この動きに呼応する形で、一人の若手県庁職員が「政策立案の現場にデザインを持ち込んでみたらどうなるだろうか」という思いをSNSでつぶやいたことがきっかけとなり、つぶやきに賛同した若手職員が集まり、PLSの立ち上げが動き始めたという。PLSに集まった職員は皆入庁年次が浅い若手であり、業務の中で実際に政策立案に携わっていた訳ではないそうだが、だからこそ、純粋な好奇心や期待をもって検討に参加していたという。

2.PLSでの活動とアウトプット
 PLSの活動は、「トレーニング」、「ロールプレイ」、「提言」、「行政への反映」の4つのフェーズに分けられる。
 最初のフェーズである「トレーニング」では、デザイン思考への理解を深めるため、外部からコーチを招き、ワークショップを通じて問題発見のためのトレーニングを1カ月間行った。このフェーズは、デザインの活用の面白さを感じてくれるコミュニティの形成という意味合いもあり、ここで構築されたコミュニティがその後のPLS活動の礎となった。
 続くフェーズは、2017年9月から約10カ月にわたって取り組んだ「ロールプレイ」である。このフェーズでは、「滋賀に暮らす〇〇さんの2030年をデザインする」をテーマに、未来の滋賀県に住む人々にとっての課題の抽出と政策作りを行った。実はロールプレイフェーズが進行していたのと同時期に、滋賀県では「滋賀県基本構想」や「滋賀県行政経営方針」という、今後の県の大きな方向性を決める政策の検討が進んでいた。そこでロールプレイフェーズでは、こうした従来のマクロな視点での政策に対し、デザインの考え方を活かして、住民一人一人に焦点を当てたミクロな視点での課題抽出や政策形成の必要性を訴えられるようなアウトプットを創ることを目指して活動を行った。ロールプレイフェーズでは、手上げ方式でグループを作り、前半(2017年9月~2018年3月)で「〇〇さん」のペルソナ作りと、〇〇さんが抱えるであろう課題の発見を、後半(2018年5月~7月)では、その課題解決につながる政策検討を、それぞれ行った。また前半では各グループが複数の滋賀県民にインタビューを行った。住民をマスでとらえるのではなく、一人ひとりの住民に焦点を当て、観察やインタビューを通じてそれぞれの人の「想い」を起点に、彼ら彼女らを取り巻く環境や課題に対する理解を深めていった。後半ではこのペルソナから明らかになった課題を解決するためのアイデアソンも実施し、プロトタイピングによる検証と改善を繰り返し、より良い政策へと作り上げる取り組みを行った。
 こうした「人間中心デザインプロセス」(※4)に基づく課題やその解決に必要な政策検討を踏まえ、現在の滋賀県の政策形成プロセスに欠けているものとその見直しのために必要なことをまとめ、知事に向けた提言として提出したのが第三フェーズである。また、その後、知事と提言内容についての意見交換も行った。
 もともと期間限定での活動を想定していた背景もあり、第三フェーズまででPLSとしての活動は一区切りとし、その後は「行政への反映」のフェーズへと移行した。移行後の動きについては、後ほど詳述する。
 最後に、読者の参考になるよう、活動の運営面にも触れておきたい。PLSの活動は有志による非公式な活動であったため、すべての活動は、平日の終業後や週末に行われた。運営費用はそうかかってはいないというが、例えばワークショップを開催する場所を借りる費用などは、参加者を中心としたカンパで賄われたという。

3.PLS提言提出後の動きと現在
 有志による非公式な取り組みとして行われたPLSだったが、提言提出後にはいくつかの公式な取り組みにもつながっている。例えば、2020年に、県公式の企画として、デザインの視点を活用したポストコロナワーキンググループが発足した。このワーキンググループでは、20~30代の若手職員を中心に、ポストコロナ社会における滋賀県が目指すべき姿や、その実現に向けた施策を考えていく上での一つのアプローチとして、ペルソナ分析を用いた検討を行った。
 この他、2019年度からは、デザイン思考の職員研修も開始された。



4.PLSに見る、行政組織にデザインの視点を取り入れるためのヒント
 最後に、辻氏、澤田氏の話を踏まえ、日本総研が抽出した、行政組織にデザインの視点を取り入れるための示唆を述べる。
 まず、PLSでの取り組みや議論内容に対する外部からのフィードバックを得ながら、議論を進めたことが重要であったと考える。具体的には、ロールプレイフェーズで定期的にフィードバックを得られるよう定例会を開催したり、SNSを通じて定例会での議論内容をできるだけリアルタイムに公開したり、誰でも活動の様子を知ることができるようにした。こうした工夫を通じて、PLSのメンバーだけに閉じることなく、PLSに参加していない県庁職員や市民からのフィードバックを得ることで、独りよがりにならない議論につながったのではないか。これは、第一回で触れた海外の事例でも実践されている議論のオープン化にも通ずる。
 次に、業務を離れたフラットな関係性での自由闊達な議論が実現していたことが、参加者が積極性をもって議論に参加し続けることにつながったのではないか。この背景には、PLSが有志による非公式な取り組みであることが強く関係していると思われる。PLSのオーガナイザーを務めた筈井氏は、「いつの間にか提言メンバーらはプライベートでも関係が深まっていたようで、知らないうちに Policy Lab. Shiga 以外のいろんな活動にみんなで関わっていたらしい。そういうアクティブでフラットな関係が最終的にここまでの提言にたどり着かせてくれたのだろうと思う。」と振り返っている(※5)が、自由闊達な議論を通じて普段の業務を離れた職員同士のつながりが強化され、そのことが取り組みのアウトプット自体にも良い影響を与えたのではないか。
 最後に、関係者が比較的長い時間軸で、また柔軟性をもって、行政の現場へのデザインの視点の取り込みを捉えていることも、行政組織の特徴を考えると重要であろう。ヒアリングの中で辻氏と澤田氏は個人の意見として、「庁内にデザインを浸透させるためにはまだ時間がかかりそう」としながらも、「公式に施策としてデザイン活用を掲げなくとも、業務におけるデザインの考え方をメンバーが理解していたり、価値観を共有していたりすれば、デザイン思考を用いた政策形成は可能と考えている」と指摘していた。デザインの考え方を用いることに固執するのではなく、内容的に馴染みやすく、トライアンドエラーができそうなテーマや施策からデザインの考え方をもって向き合うことは、職員個々人が日々の業務の中で心掛けることで可能であり、組織の決断が必要なものではないことからも、取り組みやすい。また、研修などを通じてデザインの考え方・効果を徐々に組織に浸透させていく細く、長い取り組みが、「小さな失敗を許容し、広い視点で政策をとらえられるような組織」(※6)に変えていくための重要な一歩なのではないかと感じた。滋賀県の今後の取り組みに、引き続き注目していきたい。
以 上


(※1) 本連載ではデザインを、「従来型のロジカルシンキングや技術中心的な考え方にとどまらず、ユーザーを中心に据えて仮説探索・検証を繰り返して新たな問題解決の方法を発見する考え方」と定義する。詳細は第一回を参照されたい。
(※2) Policy Lab. Shigaウェブサイト
(※3) 同上
(※4) 同上
(※5) note「「行政(政策)×デザイン」の試みは、なぜ成功して失敗したのか (2/4)、2020年3月25日
(※6) ヒアリング時の辻氏の言葉より抜粋。「(デザインに関連して)中長期的に取り組んでいきたい内容はあるか。」という質問に対する回答。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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