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日本総研ニュースレター 2021年12月号

宇宙ビジネス成長は“新参者”が活路開く~スタートアップ・非宇宙系のユーザー視点持ち込め~

2021年12月01日 片桐佑介


 宇宙ビジネスへの期待は高まっており、世界で40兆円という市場規模は、2040年には100兆円にまで達するとの予測もある。ただし日本市場は現時点で1兆円規模にとどまるとされ、スタートアップを中心としたいわゆるニュースペース企業群も市場を拡大させるまでには至っていない。
 本稿では、日本の宇宙産業の現状を確認しながら、今後、国際競争力を高めていくための方向性を提言する。

閉鎖的な業界構造はイノベーションも阻む
 2020年に改訂された「宇宙基本計画」では、「自立した宇宙利用大国」を目指すとの基本方針が掲げられた。また、2017年公表の「宇宙産業ビジョン2030」では、2030年代早期に市場規模の倍増が謳われた。現在、経産省やJAXAを中心に、各種産業振興策が検討・実施されている。
 しかし日本の宇宙産業は、技術や資金、人材などリソースの大部分がJAXA、大手企業、大学中心のオールドスペースと呼ばれる古参プレーヤーの中だけで循環する閉鎖的な構造となっている。そのため、次のような問題が生じている。
①政府予算への高い依存
 国内宇宙機器市場の大部分は政府予算に依存するが、5千億円程度の規模に過ぎない。一方米国の予算はNASAのみで2.5兆円超、国防総省の軍事予算も含めると日本の10倍に上る。現状のまま米国に追いつくことは難しい。
②競争がなくイノベーションが起きにくい構造
 ニュースペースにとって政府の要求する各種要件は難度が高く、実質的な参入障壁となっている。そのことがニュースペースの成長や技術向上を阻害していると懸念される。
③低いビジネス性
 民需の開拓には、ビジネス性のある製品・サービスの開発が欠かせない。しかし、官需依存体質では、ビジネス性への配慮が後回しされがちとなる。実際、衛星系を中心に新たなユースケースの創生を目指す事業者も現れてきたが、持続的な収益を確保できているところはまだ限られている。

オールドスペースとニュースペース間の循環が必要
 国内宇宙産業の成長を促進するためには、以下の二つの視点から、閉鎖的な業界構造を改革する必要がある。
 一点目は、オールドスペースとニュースペースとの間でのリソースの循環である。特にオールドスペースからニュースペースへのリソースの流れを戦略的に強化し、スタートアップの育成や非宇宙系企業の参入を促すことが重要となる。
 二点目は、エンドユーザーを見据えたビジネスモデルの構築である。宇宙産業は前述のとおりユーザー視点に欠けるうえ、技術が重視されることも加わり、シーズ起点の発想に陥りがちとなる。しかし、民需開拓には、ユーザーに価値提供できるニーズ起点でのビジネス検討が避けられない。
 上記二点の実現には、オールドスペース「O」のリソースを活用してニュースペース「N」がエンドユーザー「X」に価値を提供する「O2N2X」の流れを構築することが欠かせない。オープンな業界構造の下で健全な競争の促進や新市場の開拓がもたらされ、結果として産業全体の成長が期待される。

「O2N2X」実現には多様な関係者が交流する場などが必要
 「O→N」のうち、技術移転については政府の取り組みに一定の成果が出始めているが、資金や人材の流れは依然限定的である。一方、米国では政府が民間企業の調達を一定期間保証したり、ニュースペースに多い中小企業向けの実証を手厚く支援したりするなど資金面の支援が充実している。人材の面でも、NASA や大手宇宙系企業とスタートアップの関係が日本よりも近いため、有能な技術者がニュースペース側に流入することは比較的多い。
 二点目のエンドユーザー「X」を見据えたビジネスモデル構築には、非宇宙系企業を宇宙産業に引き込むことなどが必要となる。ただしそれには、エンドユーザーと適切な技術協力者をつなげ、ビジネスを活性化させるための場・主体の存在が欠かせない。例えば、英国の宇宙産業拠点であるHarwell Space Clusterでは、国内外の大手企業やスタートアップ、大学が集結するクラスターが形成され、それら組織が一同に会することによるイノベーション創出が行われている。
 日本の宇宙産業の成長には、業界構造を旧来のオールドスペース中心から大きく転換させる必要がある。スタートアップや非宇宙系企業などの“新参者”が積極的に関与・交流できる業界構造の実現を期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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