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車窓ARコンテンツの表現方法と保安基準の在り方について

2022年02月08日 福永 健二


 昨今「メタバース」という言葉がますますバズワード化している。Facebookが社名を「Meta」に変更したことに始まり、様々な企業の参入が日々報じられるなど、話題に事欠かない分野となっている。単にメタバースというと、映画「レディ・プレイヤー1」で描かれるような、VRゴーグルを装着しその閉じた仮想世界に没入する、いわゆるVR型メタバースを指すことが多い。他方で、例えばNiantic社が製作するスマートフォン用ゲーム「ポケモンGO」は現実世界に仮想空間を重畳し、現実世界での体験を拡張・増幅しようと試みるAR型メタバースといえる。

 当社では、「DUALMOVE」というコンセプトを基に、移動中の車窓に映る風景に仮想的なオブジェクトが配置され、種々のコンテンツが展開される未来を想定する[1]。このDUALMOVEは道路を中心とした現実世界に重ね合わされた仮想世界を、透過ディスプレイ等に置き換わった車窓から覗くことでコンテンツを楽しむことができる一種のAR型メタバースといえるだろう。クルマならではの高度な立体映像・音響環境の中で、目的地に関するイメージ情報や運転者もしくは同乗者のニーズに応じたコンテンツを楽しむことができるようになると予想し、本年度はそのプロトタイプによる効果検証を行っている。

 一方で、運転中の車内でのコンテンツ提供については、やはり安全面でのハードルがある。車窓自体の透過性が担保されていても、そこに無制限にコンテンツや情報を表示・投影させてよい訳ではなく、運転に支障をきたさない表示の仕方が求められるようになると予想される。

 自動車の窓ガラスに関する保安基準は、道路運送車両の保安基準の第29条およびその細目告示、また国連協定規則による技術的要件により定められている。対象位置により変わる部分もあるが、その内容は概ね以下の通りである。
• 透明性が担保されること
• 交通状況(信号・自動車・歩行者)が視認できること
• 窓ガラスに表示・貼付された状態で透過率が70%以上であること

 他方、その窓ガラスに対する情報の表示方法については現状では規制がない。例えば、車窓風景に重畳して情報表示をする装置としてヘッドアップディスプレイ(HUD)が挙げられる。ドライバーの目線の先にスピードメーターやナビの案内表示をする装置であるが、その表示方法は明確に規制されていない。現在は一般社団法人日本自動車工業会のガイドラインが定められているという状況で、国際基準として制定すべく、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において目下議論が進められている段階にある。

 当社の取り組むDUALMOVEのように、車窓が透明ディスプレイ等に置き換わり、コンテンツ表示がなされる場合についても、その表現方法には現状では明確な規制がないと捉えている。先述の通り、ドライバーの運転に対して影響を及ぼさない表現方法が求められるだろうが、その範囲においては多様な形でのコンテンツ表現が認められてもよいのではないか。例えば、遠景に透過性が高いオブジェクトや、停車中などの表示であれば問題ないのではないだろうか。

 具体的には、曇天の空が雲一つない爽快な青空に変わる様子、道路脇に建つビル側面に水族館のイルカが投影された様子などを想像してみてほしい。確かにドライバーの注視を促すような文字情報が眼前に表示されると安全上の懸念を覚えるであろうが、上記のような表現では運転にさほど支障をきたさないのではないかと想像される。さらに、将来レベル4以上の自動運転が実装され、自分で運転をしない場合、また助手席・後部座席に座る同乗者向けということであれば、文字情報を含むコンテンツや全天空型のVRコンテンツ等、可能な表現の幅が広がることが予想される。

 今年度のDUALMOVEプロジェクトでは、一般被験者によるモニター体験による効果検証に加え、どのような表現であれば問題なく運転が可能であるかという安全面の検討を併せて行っている。ヘッドアップディスプレイと同様に、車載コンテンツ市場の広まりとともに、今後その表現方法について規制がなされていくと想定されるが、本取り組みがその制度・業界基準検討の種となり、国際標準制定が日本主導で進む契機となればと思う。

[1]車載コンテンツ高度化に伴う車内空間検討を行うコンソーシアムを設立 (jri.co.jp)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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