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地方自治体業務のBPRの運用~宮城県の実例を基に~

2022年02月07日 古内拓、濵本真沙希


 わが国では現在、少子高齢化が顕著に進行しているが、これと同時に、公共サービスの担い手である地方自治体の職員数も減少している。その一方、年を経るごとに、地方自治体が直面する課題は多様化し、地方自治体の職員もさまざまな業務に対応する必要に迫られている。
 少子高齢化・人口減少による税収の減少等により、今後地方自治体は財政的にさらに厳しい状況に置かれることが予測される。地方自治体にとっては、職員の新規採用はいわゆる人件費の増加につながるが、税収の減少に伴い費用の抑制に動く可能性が高いことを踏まえれば、今後も地方自治体の職員数は減少していく可能性が高い。限られた職員で、現状の行政サービスを維持していくためには、これまで実施してきた業務の実施方法等について、見直し・効率化(BPR:Business Process Reengineering)を実施し、新たな業務にも柔軟に対応できる体制を確保することが必要となる。
 本稿では、地方自治体業務のBPRの手法・運用について、実際に宮城県で実施した、公用車の保有台数の適正化と使用・管理の効率化の案件を例として述べることとする。

1.地方自治体業務BPRの運用
 地方自治体業務のBPRにあたり、日本総研では「課題抽出」「解決策提示」「改善効果シミュレーション」の手順で提案を実施している。非常に簡素な手順であるが、一方で、他の業務のBPRにも応用することが可能である枠組みとなり得るものと考えられる。


(1)課題抽出
 業務状況の改善に向け、まずは現状について、ファクトに基づいたデータの分析による実態把握・課題の抽出を行う。
 課題抽出のためには、各課室の業務実施の資料を確認し、業務フローを作成した上で、アンケートにより当該業務に要する時間・職員が感じている課題を調査する等、正確かつ丁寧な現状の分析が必要となる。例えば業務フローについては、図表2のイメージで業務プロセスを詳細に分割し、実施主体・実施方法とともに一覧化の上、業務に要する時間を調査することで、課題抽出の手がかりとすることが可能である。

 なお、仮にヒアリング等において課題であると考えられるものであっても、データ分析の結果、改善の余地がないと判断されれば、明確に課題とは言えない可能性がある。

(2)解決策の提示
 抽出した課題について、効果的に解決することができる方策を提示することが必要となる。解決策については、「これまで実施してきた業務を廃止する」「公有財産の所持課室を変更する」等、比較的速やかに実施できるものから、「新たなシステム・サービスを導入する」等、実現に時間がかかるものまでさまざまである。特に後者については、(1)の課題抽出と同時に、「出口」としての解決策をイメージしておくことが重要となる。
 BPRの実施の際には、こうした解決策を「着地点」として同時並行的にイメージしつつ、分析・課題抽出を実施することが肝要である。

(3)改善効果シミュレーション
 近年、官公庁での新たなサービス・事業の実施にあたっては、その予算確保のため、当該サービス・事業を導入することによる改善効果・費用対効果を示すことが必要不可欠である。BPRについても例外ではなく、解決策の提示に加え、その解決策を導入することにより得られる改善効果についても算出し、有効であるという結論がなければ、解決策導入のための予算を確保することは難しいであろう。

2.実例~宮城県におけるコンサルティング業務~
 宮城県では、業務の生産性向上により県庁組織を活性化させ、職員が健康で充実した時間を過ごせるような職務環境を整備すべく、職員の働き方改革を推進している。働き方改革の具体的な施策として宮城県が実施している取り組みはデジタル技術の活用や職員への意識啓発など多岐にわたるが、こうした取り組みの一環として宮城県が実施したのが「公用車の保有台数の適正化と使用・管理の効率化」である。実施については、委託をうけて日本総研において支援を実施した。

(1)従来の宮城県の公用車の運用
 宮城県は、2021年5月時点で約160台の公用車を保有していた。これらのうち、約7%は集中管理担当課が共用車として保有し使用を希望した課室に貸し出す形で運用しており、残りについては各課室が管理する専用車であった。また、約13%がリース車両であった。
 基本的には自課室が保有している公用車を使用する形態で運用されていたが、自課室の公用車が全て使用されている場合や、公用車を保有していない課室が公用車を利用する場合には、他課室や集中管理担当課の公用車を借用し、使用することとしていた。

 また、公用車使用の際には、予約や記録のための紙媒体の記録簿(公用車使用簿)を使用しており、使用の都度、職員が出発・到着日時、用務先、用務内容、走行距離、ガソリン残量等を手書きにより記入することにより運用していた。
 上記の運用の中、宮城県においては、「公用車の適正台数」「管理方法の効率化」について、課題意識を持っていた。こうした状況を踏まえ、日本総研では公用車利用状況の現状分析に基づく課題抽出および解決方法の提案、さらには改善効果のシミュレーションを実施した。その流れを以下に記す。

(2)分析と課題解決のコンサルティング
 日本総研は、次のように分析を実施した。

(ア)課題抽出
 公用車使用の現状および運用の課題を明確にするため、
・過去2年分の紙媒体による公用車使用簿の集計・分析可能な形での電子化
・公用車の費用・購入年等の情報に係るアンケート
を実施した上で、解決すべき課題の抽出を行った。その結果、次の4点が課題として浮かび上がった。
①県庁全体で保有する車両台数
 前述のとおり、公用車の大部分は専用車として各課室に所属していた。また、使用頻度は課室によって偏りが見られた。具体的な課題としては、
・「自課室の公用車の使用頻度」および「他課室の公用車の使用頻度」がいずれも高い課室といずれも低い課室が存在しており、車両の配置が最適でない可能性がある
・全庁の公用車の保有台数が、全庁で同日に公用車が稼働している台数の最大値を上回っており、稼働していない公用車が一定数存在する
といったことが挙げられた。
②往訪時に使用する車両クラス
 宮城県における用務先は宮城県内各所が主であり、県庁から近距離の場所を往訪する用務の割合が高かった。
 近距離の用務先への往訪の際には、燃料費が安価で済む軽自動車の使用が望ましいと考えられるが、軽自動車は一部にとどまるなど、車両クラスが利用実態に即していない可能性があることが推測された。
③車両の保有形態(各課室の保有または共用化、並びに各課室の購入および管理)
 各課室が専用車として公用車を保有するという車両配置に対し、実際には自課の専用車の利用が逼迫する課室が他課の専用車を借り受けて対応する状況が多く存在していた。課室をまたいで車両を借り受ける手続きには通常の専用車利用よりも手間がかかるという課題があった。
 また、各課室が公用車を保有する場合、当該公用車の整備・点検等に職員の業務時間が割かれており、職員が本来実施すべき他の業務を圧迫している様子も見られた。
④公用車の使用・管理方法
 宮城県では紙媒体の使用簿に手書きで担当者が公用車の使用を記録していたが、公用車の使用手続きが全庁的に統一されていない状況が見受けられた。
 また、公用車の使用状況の集計・分析が難しいため、課題の抽出・改善に向けた方策を適切に設定することも難しいという事情があった。

(イ)解決策の提案
①車両保有台数および形態の適正化(課題①および③に対する解決策の提案)
 他課室の専用車の貸借に手間が生じていることを踏まえ、従来の「課室ごとに専用車を保有する」という運用を見直し、部ごとに共用車として保有する形態への転換を提案した。これにより、他課室の公用車の借用手続きの手間を省略し、予約時の職員の負担を軽減することが期待される。

 また、各課室の公用車の使用頻度に偏りが生じていることを踏まえ、併せて複数課室の公用車の同時稼働台数(同日に稼働している公用車の台数)を算出し、以下について提案した。
・公用車の同時稼働が多い課室への共用車両の重点的な配置
・その上で余剰となる台数を削減可能な車両として位置づけ
これにより、全庁的な車両の保有台数について改善を提案した。
②車両クラスの転換(課題②に対する解決策の提案)
 短距離の用務が多くを占めるという現状を踏まえ、部ごとに共用化した車両のうち軽自動車への転換が可能である車両を抽出した。また、アンケート調査による要望や燃料費等の維持費削減の観点から、普通乗用車として保有する公用車についても積極的にハイブリッド車への転換を行うよう提案を行った。
③リース方式での調達(課題③に対する解決策の提案)
 公用車の調達を従来の購入方式を主軸としたものから、車両リース企業から公用車を借りて使用する「リース方式」を主軸としたものに転換することを提案した。
 リース方式を採用する場合、購入方式と比較すると、毎年度リース料が費用として見込まれるというデメリットはあるが、一方で車両の保守・点検等に係る手間を削減することが可能であり、これによって職員の業務を適正化する効果が見込まれる。
④公用車管理の電子化の推進(課題④に対する解決策の提案)
 公用車の使用・管理に係る課題(紙媒体での管理による検索性の低さ、非効率等)を解決するような公用車管理システムの導入を提案した。具体的には、職員が個人の端末から公用車の予約・運転日報作成・公用車の稼働管理が実施となるようなツールを導入することによる電子化の推進を提案した。
 なお、こうしたツールの事例としては、「Mobility Passport」 (住友三井オートサービス株式会社)が挙げられる。

 以上の解決策を踏まえ、宮城県における公用車の使用・管理について、最終的に下記のような全体像を提案した。


(ウ)業務改善効果と費用のシミュレーション
 (イ)の解決策の有効性を評価するため、職員の業務改善効果および費用について算出した。職員の業務改善効果については、(イ)の解決策を導入することによる公用車の使用に係る職員の業務時間の変化、費用については、(イ)の解決策を導入することによる費用の変化をシミュレーションすることとした。
①職員の業務改善効果シミュレーション
 職員の業務時間については、解決策①、③び④によって、約82%が削減可能であると推計された。予約/管理のデジタル化により公用車の予約に要する時間、またリース方式の採用により各課室の公用車の管理に要する時間が、それぞれ削減されるものと推計された。
②費用のシミュレーション
 費用については、解決策①~④によって、6.1%の増加が見込まれると推計された。これは、業務改善により、職員の人件費については削減される一方、車両のリース方式の採用により、リース料を要することによるものである。
 費用の面では微増となったが、その効果として職員の業務時間は大幅に削減されるというシミュレーション結果となった。今後ますます人手不足が進行すると予測される官公庁において、こうした職員の業務時間の適正化に向けた取り組みは有用なものであると言えるのではないか。

3.おわりに
 本業務におけるスコープは公用車に関するもののみであったが、提案を検討する上で実施した分析のフロー(図表1参照)はBPRを実施するにあたり、シンプルかつ広く応用可能な考え方である。業務のデジタル化・ペーパーレス化等、従来の業務形態の転換に踏み切れていない公共機関も多く、機会損失が生じていることに対する課題意識を持っている向きも少なからずあると思われるが、そうした課題の解決に向けて日本総研の実施した業務改善の考え方は有効に作用するものと思われる。
 最後に、本業務は、業務のBPRに積極的に取り組まれている宮城県が全面的に協力いただいこともあり、具体的な提案まで実施することができた。官公庁におけるBPRの実施にあたっては、まずBPRを実施しようと考える官公庁の前向きかつ積極的な姿勢が必要不可欠である。本業務実施にご協力いただいた宮城県には、改めて謝意を表したい。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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