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まちに近づく物流施設~孤立から連携・配慮、さらには地域経済のけん引役へ~

2022年02月07日 圓角史人


 近年、大型物流施設が急増している。高速道路のインターチェンジ沿いには続々と大型の物流施設が建設されている。コロナ禍でホテルやオフィスへの投資が落ちこむ一方、Eコマースの伸びを背景に、物流施設への投資は増えている。物流施設というと無機質で、工業地域などに街とは隔絶された巨大な建物にトラックが頻繁に出入りしているというイメージがある。
 ところが、近年、物流施設はより街の中に近づくとともに、また、複合機能を持ち、まちの他の機能との融合を目指す動きがみられる。本コラムでは、変わりゆく物流施設について、事例を紹介するとともに、こうした潮流の背景について検討する。

まちに配慮するようになった物流施設
 物流施設は、トラックの騒音、大規模で無機質な景観から周辺への環境の影響が大きい。かつて物流施設は自社で建設し、自社利用することが多かったが、2000年以降の物流施設は、REIT市場ができたことにより、所有と利用が分離し、より巨大な物流施設が作られるようになるとともに、一つの物流施設に多くのテナントが入居するようになった。また、Eコマースの物流拠点は、在庫点数も多く、より広いスペースを求めるようになった。また、立地面でも、圏央道、外環道等の環状道路と、東名、東北道等各地に向かう高速道の結節点付近に物流施設が建設されるニーズが増えた。また、物流施設ニーズの高まりとともに、郊外の工場の跡地の土地に物流施設が建設されるケースも増えてきた。さらには、物流施設で働く人材獲得のため、鉄道駅からのアクセスが良い場所が求められるようになっている。物流施設はより住宅地に接近するようになった。
 物流施設は、住民、自治体に受け入れられるためにも、地域への配慮が必要となっていった。景観については、近年の物流施設は、隣接地との緩衝帯に緑地帯を設けたり、圧迫感を軽減した外観デザインにしたりするようになってきた。
 さらには、自治体と協定を結び、災害時に一時避難施設として物流施設を使用する災害協定を結び、住民向けの防災用品を備蓄する例もみられる(例:GLP流山Ⅰ)。また、MFLP東名綾瀬(2022年竣工予定)にように、屋上にドクターヘリポートを整備し、地域の緊急救命体制に貢献する例もみられる。

大規模開発地での物流と他機能の一体開発
 土地区画整理や再開発、工場跡地など大規模な開発に伴い、市場ニーズが高い物流施設が街の他の機能と一体開発されるケースもある。
 まずは、収益物件を中心に一体開発された事例として、グッドマンジャパンは、千葉県印西市のグッドマンビジネスパークに複数の物流施設、データセンターを段階的に整備してきた(※1)。なお、従業員用のアメニティであるカフェテリア、屋外テラス、コンビニエンスストア、郵便ポスト、宅配ボックス、ATM、トラックドライバー用シャワー付き休憩室、クリニックなどを整備したが、地元住民も使えるようにしている(※2)
 さらに、地元住民向けの商業施設、公園との一体整備の事例として、日本GLPの「大阪市東住吉区矢田南部地域開発プロジェクト」がある。同地区は、大阪市中心部から10キロ圏内、青少年会館や公営住宅などが立地する大阪市保有の土地を再開発するもので、2021年5月、市と日本GLPが基本協定と売買契約を締結した。プロジェクトでは、日本GLPが区画整理事業の主体・施行者として開発を推進し、物流施設と商業施設にテナント企業を誘致することなった。同社のインタビュー記事によれば、物流では、広域配送拠点の他、都市型立地を生かし、ラストワンマイル配送拠点のニーズの取り込みを狙い、商業施設では食品スーパー、ドラッグストア、カフェなど地元密着の商業施設を誘致予定、公園は、遊具、フットサル場、ゲートボール場等を用意し多世代に利用されることを狙うという(※3)。地元住民向けの商業施設、公園ではあるが、物流施設の人材が不足する中、こうした利便施設が近くにあることは、人材の福利厚生にもつながる可能性がある。
 物流施設は、Eコマースの進展により、今後はより都心部よりでのラストワンマイル向けの小型の物流拠点が増えていくことが考えられる。例えば、プロロジスは、都市近郊の大規模物流施設とネットワーク化して利用するニーズを狙い、ラストワンマイル用の都市型賃貸用物流施設の提供を開始している。また、コンビニエンスストア跡地に、宅配便の配送センターができる例がみられるようになってきた。都心部においても物流センターがより身近に、今後増えていくことが考えられる。シャッター商店街、商業ビルの空きスペースが今後はラストワンマイル向けの物流施設として活用していくことが考えられる。将来は、自動配送ロボットやドローンの拠点と物流拠点が組み合わせあった配送施設が、各所にできていく可能性がある。街中にトラックや配送ロボット等がより組み込まれる中、事故防止、騒音対応も含め、施設周辺の地域住民への配慮や、街の中にどのように小型物流施設を組み込んでいくか、といった視点はさらに求められていく。

地域経済の付加価値けん引役としての物流施設
 物流施設が集積することは、渋滞などを引き起こし、ネガティブなイメージあり、上記のようにデベロッパーは地域との融合を目指してきた。その一方で、物流施設自体を、より高付加価値産業、イノベーションを生み出す拠点としてとらえ直すことも考えられる。
 現在は、物流施設は、荷役、包装、保管、流通加工といった物流拠点を超え、EC向けの撮影スタジオ、家電品の保守点検、パソコンの組み立てといった生産機能を持つ物流施設も出てきている。これらは、物流機能と同居することで、横持ちの無駄を省き、効率化するメリットがある。これをさらに、効率化からさらに進んで、研究開発機能という新たな高付加価値をつけることはできないだろうか。物流施設の立地自体が他の産業を呼び込むきっかけにもなるだろう。
 こうした産業の複合施設が建てられる事例も出てきてはいる。物流施設の他の産業用途にも活用される可能性も出てくる。例えば、三井不動産のインダストリアルパーク羽田は、マルチテナント型の物流施設の他、ものづくり企業を重視する大田区の産業支援施設(中小企業向けの貸工場または研究所の入居を想定)や、建築設計事務所の梓設計の本社事務所、研修施設が入居している。この場合、複数の収益源の多様化が図られている。
 さらに、より物流施設とのシナジーを見込んで、賃貸研究用施設を持たせるケースも出ている。例えば、澁澤倉庫 澁澤ABCビルディング2号館は、5階建てのうち、一部を貸研究所としており、研究所と倉庫をエレベータで直結させ、研究の試作品などを直接、倉庫に運んで保管可能にしている。同施設に研究機能も同居させた背景は、横浜市が同エリア周辺に研究開発拠点の立地を推進し、助成を行っていたことや、駅からのアクセスがよいこと、物流倉庫より高い賃料で貸し出すことができる可能性があることが背景にあるという(※4)
 また物流の現場は人手不足など社会課題が多い中、物流の自動化が求められている。物流の現場に、物流関連技術のオープンイノベーション拠点を開設する事例も出てきている。野村不動産は、Landport習志野内に、習志野PoC Hubを設け、同社が核となり組成する物流関連技術(ロボティクス、ICT、輸送機器など)の企業間共創プログラムで開発したソリューションを本番環境に近い場所で検証可能とすることを狙いとしている(※5)
 さらに、近隣の大学との産官学との連携を見込む動きも出てきている。プロロジスは、2020年11月に東海太田川プロジェクト(愛知県東海市)を発表した。同地区は、区画整理事業で、34.4万㎡の土地に、広域交流機能、居住機能、産業・物流機能等の複合的な機能を導入するまちづくり事業を施行中で、プロロジスが、産業・物流機能の事業提案企業に選定された(※6)。同社は、7.1万㎡の土地に地上5階建て、延床面積16.4万㎡のマルチテナント型物流施設を建設する予定だが、市や他の進出事業者、近隣にある日本福祉大と連携し、産官学にわたる協業で、例えば物流施設内に研究開発やインキュベーションの機能を付加する構想を持つ(※7)。物流施設と産官学でどのようなテーマの研究開発、インキュベーションが行われていくのか、今後注目される。
 物流施設用地が不足気味の中、市街化調整区域・農地などに物流施設が建てられるケースも出てきている一方、物流ブームがどこまで続くかという疑問の声もある。自治体、地域住民により受け入れられるためにも、物流施設が、環境配慮、さらには地域経済に好循環をもたらす存在となることが期待される。

(※1) LNEWS「グッドマンビジネスパークの全棟でテナント決定」(2021年10月07日) 
(※2) グッドマンジャパン ホームページ 
(※3) 「GLP大阪市東住吉区まちづくりプロジェクト」『月刊プロパティマネジメント』2021年9月
(※4) 日本経済新聞・オンライン版(2018年12月14日) 「渋沢倉庫、倉庫併設の賃貸の研究用施設の整備加速」 
(※5) 野村不動産プレスリリース(2021年3月23日) 
(※6) プロロジス プレスリリース(2020年11月24日) 
(※7) 「プロロジス東海太田川プロジェクト」『月刊プロパティマネジメント』2021年9月
 
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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