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アジア・マンスリー 2022年2月号

EVを軸に産業高度化を目指すインドネシア

2022年01月27日 松本充弘


インドネシアがEV政策を軸に産業構造の転換を目指している。近年、関連分野の外資企業の進出が目立つなど、同国EV産業への注目度が高まりつつあるが、市場や関連産業の育成などの面で課題も多い。

■世界的なEVシフトで豊富なニッケルが武器
世界的にガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトが進むなか、世界最大のニッケル埋蔵量を保有し、生産量もトップであるインドネシアに注目が集まっている(右上図)。現在、多くのEV用電池には、リチウムやコバルトと共にニッケルが重要な原材料として使われている。今後、EVの生産台数が増加するにつれて、EV用電池の需要増加とともに、その原材料の需要も増加することが見込まれる。International Energy Agencyは、ニッケルの需要が2040年までに2020年の20~25倍に増えると予測している。また、米国のバイデン政権が発表した「重要製品に関するサプライチェーン強化に向けた報告書」によると、ニッケルは電池のエネルギー密度を向上させることを目的に正極材としての需要が高まり、今後3~7年で需給が大幅にひっ迫する可能性が指摘されている。

■EV関連の対内直接投資が活発に
インドネシア政府は、豊富なニッケル資源を活かしたEV関連産業の育成を掲げており、天然資源に依存した従来の産業構造から高付加価値な分野を中心とする産業構造への転換を目指している(右下表)。その一環として、政府は2019年にEVを促進する政令を定めたほか、2020年にはニッケル禁輸措置を実施し、国外で実施されることが多かった製錬の国内シフトを促している。2021年には、EV電池の生産拠点として経済発展することを目的に、国営会社「Indonesian Battery Corporation」を設立した。このようにインドネシアは、ニッケル生産から製錬、EV向け電池製造、EV生産、電池のリサイクルまでを一貫して手掛ける壮大なエコシステム構築を目指している。

インドネシア政府は今後5~10年間でEV産業の集積に必要な投資額を350億ドルと試算しており、ルフット投資担当調整大臣は「国内にリチウムイオン電池やEVの工場を建設する計画はすでに誘致済み」と発言している。

インドネシアの政策を受けて、中国や韓国をはじめとする外資企業のEV関連投資の実行や計画発表が相次いでいる。EV用電池で世界シェアトップの中国の寧徳時代新能源科技(CATL)はEV用電池工場の建設を計画し、2024年の稼働を予定している。韓国の現代自動車は、2022年3月からインドネシアでのEV生産を開始するほか、EV用電池についても、世界シェア2位のLG化学と合弁で工場の建設を進めており、EV用電池から完成車の製造まで一気通貫で生産することを計画している。

■産業構造の高度化に向けて山積する課題
しかし、国内EV市場が未発達であるほか、外資誘致政策が不十分な点が、インドネシアが目指す産業構造の転換の足かせとなる可能性がある。

インドネシアのEV市場の規模はかなり小さい。ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリーEV(BEV)の販売台数を合わせても、新車販売全体に占める割合は0.4%に満たない(右下図)。現状、EVは価格が高いうえ、充電設備のインフラが整っていないことから、EV市場の急速な拡大にはなお時間を要すると考えられる。進出する外資企業にとっては、その間インドネシアから海外のEV需要地へ輸出する必要があり、コスト面でデメリットが大きくなる。

また、インドネシアは1980年代から工業化を推進し、産業構造の高度化を目指してきたものの、実質GDPに占める製造業の割合は2000年代半ばから低下を続け、対内直接投資も2013年以降伸び悩んでいる。2020年に外資規制の緩和を含む「雇用創出オムニバス法」を成立させたが、インフラの整備など製造業への外資誘致政策はまだ不十分である。

なお、米国エネルギー省は、2021年6月に発表した「National Blueprint for Lithium Batteries」のなかで、サプライチェーン強化に向けて2030年までにニッケルを使わない電池の開発目標も示している。EV用電池については技術革新の面でもこうした不確定要素が存在し、インドネシアの産業高度化政策にとって大きなリスクとなり得ることにも注意する必要があろう。
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