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【北京便り】
中央経済工作会議「カーボンニュートラルに関する指導意見」から考える

2022年01月25日 王婷


 12月8日から10日にかけて、北京で中央経済工作会議が開催されました。習近平国家主席は、2021年の経済活動を総括し、2022年の経済活動の重点を明らかにする演説を行っています。
 そのなかで、CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルに触れ、5つのポイントで方向性を示しました。その概要は以下の通りです。
 
 1.「目標の達成を正しく理解し、把握することが重要である。カーボンニュートラルの実現は質の高い開発を推進するための要件であり、推進しなければならい施策である。ただ、一度にすべてを達成することは不可能であり、全国の統一的な調整を図り、省エネを優先する、両輪による駆動を行い、国内外の流れをスムーズにし、リスクを防止するという原則を守らなければならない
 2.伝統的なエネルギーから徐々に撤退していくには、安全で信頼できる再エネへの代替を基礎にしていく必要がある。石炭をベースとした国情に基づき、クリーンで効率的な石炭利用を把握し、再エネの受け入れ能力を高め、石炭と再エネの最適な組み合わせを推進する必要がある
 3.グリーン・低炭素技術の研究開発には細心の注意を払う必要がある。
 4.科学的な評価を行い、新規に増加する再エネや原料用のエネルギーをエネルギー総消費量制御に含めないようにし、エネルギー消費の「ダブルコントロール」(エネルギー消費総量と原単位を指す)から炭素排出の「ダブルコントロール」(炭素排出の総量と排出原単位を指す)へとできるだけ早く転換する。汚染や炭素を減らすためのインセンティブと制約メカニズムの形成を加速し、単純に目標の分解だけにしてはならない
 5.エネルギー供給確保のために、大企業、特に国有企業が率先して供給と価格の安定を図る必要がある。エネルギー革命を推進し、エネルギー強国づくりを加速させなければならない。
 
 上記の方針について、最も重要なのは3点だと考えられます。
 1点目は、上記2「伝統的なエネルギーから徐々に撤退していくには、安全で信頼できる再エネへの代替を基礎にしていく必要がある、、、」という点です。昨年、カーボンニュートラル目標が明らかになると、一部の企業や地方政府は、一早くピークアウトとカーボンニュートラルを実現しようと、石炭を無くす計画を宣言したり、無理やりにエネルギー消費を削減しようとする動きが起こりました。このようなキャンペーン型のような取り組みは、企業の生産や経済活動に悪い影響を与えるもので、中国政府にとっても懸念の対象であるということがはっきり示されました。石炭はエネルギー構造の基礎であることを改めて明記し、再エネの導入を拡大しつつ、クリーンな石炭を利用し、再エネを中心としたエネルギー構造へ移行する、という現実路線が描かれました。エネルギーの安全供給を確保する政府の強い意志を見てとることができます。
 ただ、金融機関を中心に、新規石炭火力プロジェクトへ投融資をしないとする方針発表が相次ぎました。今後新規の石炭火力プロジェクトへの投融資が減っていくでしょう。他方、既存の石炭火力発電所のトラスジションが大きな課題であり、クリーン石炭の利用について、最近政府は支援策を発表しています。昨年末、李克強首相が国務院の会議において、石炭のクリーンで効率的な利用を支援するための特別再融資枠を2000億元分、設定すると宣言しました。

 2点目は「新規に増加する再エネや原料のエネルギー利用をエネルギー総消費量制御に含めないようにする」にという点です。ここでは、2つのことを明確にしています。一つは、新規に増加した再エネの量をエネルギー総量規制から外すことで、企業や地方政府はより多くのエネルギー利用をしようと考えるのなら、再エネ導入が問題解決策になることを明確にしました。これは企業や地域の発展と脱炭素の矛盾を解消する、一石二鳥の施策になります。もう一つは、原料用のエネルギーをエネルギー総消費量に含めないようにすることです。すなわち、これまでエネルギー消費量を計算する際に、動力用にしろ、原料にしろ、総量としてカウントされていました。今回の方針修正で、これまでは総量規制で制限されてきた業種の生産能力を高めることができ、経済発展に有利に働くと考えることができるようになりました。

 3点目は「エネルギーの「ダブルコントロール」から炭素「ダブルコントロール」へとできるだけ早く実現する」とした点についてです。これまで中国政府はエネルギーの総量と原単位の2つの指標で企業と地方政府の省エネ効果を評価してきました。炭素排出削減を促すために、エネルギーの指標ではなく、炭素削減の指標で管理しなければならないとの方針に転換したことになります。炭素排出の「ダブルコントロール」は、省エネを促進するだけでなく、さらに上流のエネルギー構造のクリーン化の転換を促進し、電化率を高め、水素などクリーンエネルギー応用の余地を増やすことに繋がるでしょう。

 2020年9月、習近平国家主席が国連の会議上、CO2排出量ピークアウト、カーボンニュートラルの目標を発表してから、1年以上がたちました。目標実現に向け、どのようにして具体的施策を進めるのか、中国政府や企業は、長期目標と短期目標、理想と現実がぶつかりあうなかで、試行錯誤しながら、その道筋を模索しているところです。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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