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CSRを巡る動き:「インパクト」を測定し、そして管理する

2022年01月04日 ESGリサーチセンター、橋爪麻紀子


 2021年11月29日、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)は、国内のメガバンクやベンチャーキャピタルなど金融機関21社が「インパクト志向金融宣言」に署名したことを発表しました。同宣言は、「金融機関の存在目的は投融資先の生み出す環境・社会への変化(インパクト)を捉え、環境・社会課題の解決を導くことである」という考えに賛同した金融機関が、インパクト志向の投融資の実践を進めて行くためのイニシアティブです。
(参考:https://www.impact-driven-finance-initiative.com/

 近年、政策、企業経営、事業活動、そして、金融行動によって生み出された影響を語るとき、「インパクト」という単語がよく使われています。まず、「インパクト」の語意を日本語に直訳してみますと、影響、反響、変化、効果、衝撃など様々な意味を持っています。一般的に「インパクト評価」という文脈では、事業や活動が社会や環境にもたらした変化を測定し評価する手法を指しています。そして、インパクト評価の結果を投融資判断に活用した金融手法は「インパクト投資」と呼ばれています。世界のインパクト投資の普及展開を進める、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)の定義によれば、「金銭的なリターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを生み出すことを意図して行われる投資」とされています。

 前述した「社会的・環境的インパクト」をより効果的に発現させるため、近年では「インパクト評価」というよりも、「インパクト測定・マネジメント(Impact Measurement & Management:IMM)」という表現が使われはじめています。二つの違いは一体どこにあるのでしょうか。前者が「評価する」ことのみであるのに対して、後者には「測定し、そして管理する」という点が大きな違いでしょう。言い換えれば、インパクトを評価することで満足して終えてしまうのではなく、評価の結果を基に、更に良いインパクトを最大化し、悪いインパクトを最小化するためのPDCAサイクルを回していくためのマネジメントこそが重要である、という主張でしょう。なお、IMMの詳細については、本稿では割愛いたしますが、SIIF内に設置されているGSG国内諮問委員会のサイトに日本語での研究活動の詳細が掲載されています。
(参考:https://impactinvestment.jp/activities/imm-study.html

 2021年11月30日にNPO法人 日本サステナブル投資フォーラムが発表した、2020年度末の国内のサステナブル投資残高は、前年比 65.8%増の 約514 兆 528 億円となりました。そのうち、インパクト投資は、約7,063億円と全体のわずか0.1%で過ぎません。しかし、前年比403.2%という突出した成長を示しています(注)。ここから言えることは、サステナブル投資残高全体の数値だけではなく、金融がもたらす環境や社会へのインパクト、つまり金融の質を重視した活動がこれから成長していくということではないでしょうか。

 2020年にGIINが発行したレポート「State of Impact Measurement and Management Practice」では、インパクト投資においてIMMの実施は不可欠であり、今後、投資家はIMMを通じて社会的・環境的インパクトへの注目を更に高めていく、と述べています。冒頭に言及した「インパクト志向金融宣言」の前文には、インパクト志向の投融資の実現のためには、金融機関の属性や企業側の制約に応じたIMMの実践が不可欠、とあります。今後、21の金融機関がそれぞれIMMをどのように進めていくか、そして、「インパクト志向金融宣言」に更なる賛同機関が増えて行くか、が大きなポイントになるでしょう。インパクト志向の投融資が国内の金融全体の質的向上に大きく貢献することを期待したいと思います。

(注)SIIFが実施した調査によれば、2020年度の国内のインパクト投資残高は5126億円(前年比6割増)という調査結果が出ています。JSIF調査との差は定義の違いや、回答対象の違いによるものです。


本記事問い合わせ:橋爪 麻紀子
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