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自動運転移動サービスの運用での緊急時対応について

2021年12月14日 小山一輝


 当社は、自動運転移動サービスの社会実装とサービス横展開を目指す事業者を支援するため、「RAPOCラボ(Risk Assessment Process Of Community-Vehicle Lab、ラポックラボ)」を2020年11月に設立した。2021年度も活動を継続し、自動運転移動サービスで具体的な論点となる『許認可を含む地域の合意形成』 と『走行環境の安全性確保』に取り組んでいる。

 『許認可を含む地域の合意形成』では、自動運転移動サービスの運用に係る安全性確保を検討対象にしている。特にレベル4と言われる運転者が不在(システムが運転を担う)の際、運転者が担う運転以外の業務(例えば、運賃収受や日常点検、万が一の対応など)も踏まえて、どのように運用・業務に落とし込み、安全性を確保するかが論点になっている。
 自動運転の導入背景には、特に路線バスのような旅客事業者の場合、運転者の高齢化と人材不足、それを補うための新規採用・育成負担の増加という課題がある。路線バスは経費全体の約6割が人件費と言われ、人的コストの増大は経営への影響が大きい。自動運転では担い手不足を補うだけでなく、採用・育成負担を軽減し、人件費の圧縮に寄与できれば経営改善が期待できる。
 ただし、その際、依然として課題が残るのが、通常の車両を運転するという業務以外に、対応が迫られるときだ。そのため、新たなITソリューションの導入や既存業務の抜本的な見直しが求められる。

 警察庁が公開する「令和3年度自動運転の実現に向けた調査検討委員会」では、「運転免許を受けた『運転者』の存在が前提となる場合と同等の安全性」の担保を条件に、レベル4の自動運転移動サービスの運行を認定する制度が検討されている。自動運転システムは最新の技術で補完され、安全性が日々高まると予想される。
 一方で、運転者が担う運転以外の業務の一例として、事故などの緊急時対応はどうか。道路交通法や旅客自動車運送事業運輸規則などでは、「運転者その他乗務員」が現場で応急手当などの必要な措置を講じるとあり、状況に応じて被害を最小限に抑えることが求められる。事故が起こったときの適切な対応のため、安全性を担保するために乗務員を追加で配置するというのでは、人手不足を解決するという目的に逆行してしまう。運行管理者などが遠隔で車内に指示を出しつつ、「運転者その他乗務員」以外が現場へ駆けつけ対応し、安全性を担保する方策を構想しなければならない。

 交通事業者内で考えるのであれば運行管理者や関与者(遠隔監視者など)が対応者として想定できるが、彼らを補完する役割として警備会社を担い手に位置付けることはできないだろうか。警備会社にとっては今まで培った遠隔サポート、構築済の駆けつけ拠点を活かし、新たなビジネスの機会を獲得できるだろう。実際に警備会社がバスの車内外を遠隔で見守る実証も行われており、緊急時対応についても今後サービス設計を進めていく余地がある。自動運転の制度設計にあたっては、すべてを「運転者その他乗務員」が担うというこれまでの既成概念からいったん離れて、大胆な発想転換で突破口を開くことができないか、更なる検討を重ねていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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