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リサーチ・フォーカス No.2021-041

金融所得課税の議論に欠けている視点―選択制総合課税の導入と「機会の平等」重視を

2021年12月09日 蜂屋勝弘


本年9月の自民党総裁選以降、金融所得課税の強化に向けた議論が注目されている。所得が1億円を超える高所得層で、所得が増えるほど所得税負担率が低下する(逆進的になる)ことが、所得再分配の観点から問題視された(いわゆる「1億円の壁」)。その要因として、高所得層では、分離課税される金融所得の税率が総合課税される労働所得等の累進税率よりも低いなか、所得全体に占める金融所得の割合が高いことが指摘されている。

金融所得を労働所得等と分離し低めの税率で課税する制度は、各国で採用されている。経済のグローバル化やデジタル化を受けて、世界的にみて、国境を越える移動が容易でない労働所得等への課税が重くなる一方、国境を越える移動が容易な金融所得等への課税が軽減される傾向にある。

金融所得課税の強化に際し、分離課税のまま税率を引き上げる場合、税負担や金融市場への影響を見ながら段階的な引き上げが可能であるものの、①引き上げ幅が小幅にとどまる場合、逆進性が解消されない、②低所得層の税負担も増加することになる、といった問題点も抱える。

これに対して、総合課税化し累進税率を適用する場合、①1億円を超える所得層の所得税負担率も累進的になる、②低所得層の金融所得の税負担が下がる、ことで所得再分配が強化されるものの、高所得層の金融所得に係る税率が20%から一気に30~55%に上昇することになる。

所得再分配機能の強化に向けて、仮に金融所得課税を強化するのであれば、比例税率の引き上げに併せて、利子所得と株式等譲渡所得についても、総合課税を選択できるようにすることが望ましい。これにより低所得層の負担増が回避できる。

今般の金融所得課税強化の議論では、現世代の「結果の平等」にとらわれ過ぎ、「機会の平等」の視点が欠けている点が問題。目先の「結果の平等」にとらわれて金融所得課税の強化に集中するのではなく、「機会の平等」を高める方策にも目を向け、相続・贈与税の強化なども含めた税制全体を見直すことが求められる。

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