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学校体育施設の自由な利活用を目指して

2021年11月29日 佐々木京助


1.はじめに
 東京でのオリンピック・パラリンピックが無事閉幕し、スポーツ意欲が高まっているのを感じる。わが国において、スポーツをする場としてさまざまな場が想定される中、本稿では、各自治体・各学区に設置されており、多くの人にとって距離的・心理的に身近な施設である「学校体育施設」に着目したい。

2.行政の指針・学校体育施設の利用の実態
 「学校体育施設」は、「スポーツ基本法」(文部科学省/2011年)において、「学校設置者は、学校の教育に支障のない限り、当該学校のスポーツ施設を一般のスポーツのための利用に供するよう努めなければならない」と規定されている。また、「スポーツ施設のストック適正化ガイドライン」(スポーツ庁/2018年、2019年一部改訂)においても「ストック適正化の検討に当たっては,既存ストックである学校体育施設の活用を同時に検討すべきである。特に,地域住民が日頃の運動のために利用する施設については学校施設の開放による対応を積極的に図っていくことが望ましい」という方向性が打ち出されている。
 それでは「学校体育施設」の開放は進んでいるのであろうか。下図の通り、公立の小中学校の学校体育施設全体の開放率は平成29年度で約96%である。施設別にみると、体育館は9割、屋外運動場は8割がすでに解放されている。この結果から、「すでに学校体育施設は一般人も自由に利用可能な状態である」といえそうであるが、実態はどうなのか次項にて確認する。



3.特定の団体による利用独占の実態 
 「学校体育施設を開放している対象」を確認すると、「団体のみ」に開放をしている施設が多い一方、個人が利用可能な施設は全体の23%にとどまっている。



 学校体育施設の利用予約は、「利用調整会議」で調整するのが一般的である。会議に参加する団体は固定的であることが多く、スポットで利用する個人がこの会議に参加するのはまれである。すなわち、特定の団体に所属していない場合、個人の自由なスポーツ参加の機会が限定される可能性がある。仕事等が忙しく、「チームの活動日程に自分の予定が縛られる」ことを嫌う人もいることを踏まえると、そのような場合は現状の利用調整方法では学校体育施設を利用できないこととなる。
 「個人の自由なスポーツ参加」には2パターンあると著者は考えている。「学校体育施設を個人が予約し、個人で単独で使う」場合と、「団体が学校体育施設を予約し、個人向けプログラムを提供する」場合である。いずれも参加する個人から見れば、「自由なスポーツ参加」の機会は担保されている。とはいえ、「複数人が必要な種目」も多いことから、個人が単独で体育館を予約し利用することは想定しづらい。
 一方、「団体が学校体育施設を予約し、個人向けプログラムを提供する」ケースは、実現可能なように思えるが事例は少ない。特定の種目に取り組むことを目的として、チームに属し、練習日程等が組まれ、「会費」として参加料が徴収されるケースがほとんどである。
 実施可能性はあるものの、何らかの理由・課題により広まっていない類型である「団体が学校体育施設を予約し、個人向けプログラムを提供する」際の課題や解決の方向性を検討する。

4.総合型地域スポーツクラブによる個人利用向けのプログラムが展開しないのはなぜか
 まず、著者は「個人向けプログラム」の要件を表1の通り規定した。



 今回は「個人向けプログラム」を提供する団体として「総合型地域スポーツクラブ(以下「総合型」という)」を想定し、「なぜ学校体育施設において、総合型の個人向けプログラムが広まらないか」を検討したい。
前提として共有しておきたい事項が二点ある。
 一点目は、なぜ主体が総合型なのかという点である。総合型は、長らく地域スポーツの担い手として活動しており、地域コミュニティの核として機能していることが多い。平成27年度時点で全国自治体の約80%に設置されていることから、全国の自治体で活動していることが分かる。活動内容の面でも、幅広い地域・世代・レベルをターゲットとしていることから、「学校体育施設における個人プログラム」の担い手として想定ができると考えた。



 二点目は「学校体育施設」ではあるものの、「教員の働き方改革」や「ブラック部活動」が指摘されていることも踏まえると、教員や学校にこれ以上負担を強いることは困難である点である。

5.3つの課題
 先述の問題意識に係る課題は主に3つあると考えている。

(1)課題1:「稼いではいけない」学校のイメージ
 「3.特定の団体による利用独占の実態」で述べたとおり、「個人利用向けのプログラム」は「会費ではなく、自身の参加状況に応じた対価を支払う」ものととらえている。学校体育施設で、「個人から対価を得る=対価を得て収益を生む」観点でサービス提供をしている例は少ない。
 表2のとおり、個人が月会費・年会費等を支払ってチームの活動に参加する「趣味の活動」は、これまでも学校体育施設において実施されている。一方、「個人が、スポーツに関するサービスを受け、目的に応じて対価を支払う」、すなわち「収益を生むビジネスに近いサービス」は、学校施設内ではなかなか許容されず、取り入れられなかった。



 この影響は、「スポーツ振興法(昭和36年法律第141号)」の「第3条2項 この法律に規定するスポーツの振興に関する施策は、営利のためのスポーツを振興するためのものではない」の箇所に影響を受けているという指摘がある。スポーツ基本法(平成23年法律第78号)はスポーツ振興法の全部改正を行ったものであり、スポーツ基本法からこの「営利を除く」趣旨は消えているが、各自治体の条例・利用規定のレベルでは「スポーツ振興法」の趣旨を残したものが散見されるという指摘である。



 スポーツ振興法の「営利目的を除く」とした規定以来、学校は「教育」を受ける場所、体育館は「学校体育」をする場所という根強いイメージがあり、「個人から対価を得て収益を生む」プログラムの提供が、現行の法体系において禁止されていないにもかかわらず、実例が少ないのが現状である。

(2)課題2:総合型地域スポーツクラブの活動は無償のイメージ
 二点目は、現在の総合型が提供するプログラムの多くが、「無料もしくは非常に廉価である」ことが理由なく前提となっている点である。当然ながら、プログラムを提供するにあたって運営費・人件費等がかかる。総合型では、必要な経費を切り詰めた上で、スタッフは無給状態で運営する等、半ば「ボランティア」のような形でプログラムを提供せざるを得ない場合が多くある。やる気・アイデアはあってもプログラムを拡大する体制が組めない場合が多いことが想定される。このような状況で、より手間や費用のかかる「個人向けプログラム」を提供する余裕はほとんどないのではないか。

(3)課題3 施設・予約の観点
 三点目は、総合型が利用する目線でとらえると、学校体育施設は施設面や予約管理面に難がある点である。
 施設面の課題の例を挙げたい。生徒と一般人の動線を分けるため、体育館と校舎のセキュリティラインを設定する必要がある。しかし、シャッター等簡易的な工事ですら施されておらず、この問題が解決できない建物は多くある。また、鍵が職員室にあるため、教員を介してでないと鍵の受け渡しができない場合も見られる。このような課題について、施設への投資や改修を行う例は少ない。
 この理由を分析すると、行政サイドは「学校のカリキュラム・体育」の範囲内では「学校体育施設」に不都合を感じてない。一方、総合型の目線では、「学校体育施設」は改修してよい対象か判別がつかず、問題提起が可能とすら認識していない。すなわち、ボールの見合いになっている可能性が高いと考えている。
 また、学校体育施設の利用上は「半面」の予約で済むが、体育館の予約管理上「半面」「1/4面」の予約が認められず、人数・利用実態にかかわらず「全面」の予約にならざるを得ないこと、もしくは急な欠席者が生じた等の理由から、予約内容と利用実態が乖離し非効率な利用となっている問題も散見される。「利用実態に即した予約管理の在り方」も重要な観点である。

6.目指すべき方向性
 ここで三つの課題を踏まえ、目指すべき方向性を検討したい。

(1)学校機能の多様化
 そもそも「学校=教育」を超えて、学校機能が多様であることの認識と発信が必要である。
 実は、学校の機能が多様であるという認識は、他の行政領域においては珍しいことではない。例えば、災害対策面で学校は地域住民の避難場所として認識されている。また、各自治体の公共施設再編計画において施設集約化を議論する際も「学校の機能複合化」は論点となることが多い。これらは「学校が多様な機能を持ち得ること」を示す好例である。体育・スポーツの領域においても、「学校・体育館の機能は多様」であるイメージを分かりやすく発信する必要がある。
 以下に、学校に隣接する体育館を「社会体育施設」として整備し、一般に開放している例を挙げた。学校体育の範囲を超えて、一般に開放し、運動プログラムやトレーニングジムの開放等営利的な内容も含めてサービスを提供している例である。




(2)総合型による受益者負担のプログラム提供
 前述の「学校機能の多様化」を踏まえ、総合型が新たに受益者負担の個人向けプログラムを試験的に導入できる体制づくりを整備する必要がある。その際、従来の集団種目・競技に偏るのではなく、個人参加可能な種目(ヨガ・ジョギング等)の枠を確保し、都度払い制を導入する等個人の自由な参加を促す方式を追求することが重要である。

(3)官民連携による施設改修や予約システムの更新
 まずは総合型が施設面で感じている不便さ・改修すべき点を自治体・学校と共有することが重要である。行政との協議の結果、財源的な理由で改修が見送られた場合、例えば、民間事業者が施設等を整備した後、自治体に寄付し、固定資産税の減免を受けつつ指定管理等を行う「負担付き寄附」や、市役所や学校等の行政財産を本来の目的とは異なった形で使用する許可を自治体が出すスキームである「行政財産の目的外使用」の枠組みを利用することが考えられる。また、改修費用を賄う意味でも「受益者負担」の考え方は重要である。




 また、個人利用を広める観点では、フリーで利用できるソフトやアプリ等も活用し、予約管理や利用料金の収受にも工夫が必要である。また、貸出方法の工夫として、総合型が活動場所の予約枠を一体的に引き受け、その枠内で利用者ニーズに応じて場所を区分してプログラムを提供する仕組みも一案である。



7.それぞれのアクション(自治体・教育委員会、学校、総合型地域スポーツクラブ)
 自治体や教育委員会は、前述した「学校機能の多様化」が他の行政領域ではすでに検討されていることを意識し、例えば自治体の総合計画に「学校機能の多様化」を位置付け、今後の方向性を広く周知すべきである。
次に、学校は、地域のスポーツ活動のような教育外の活動を取り入れることが、学校自体の魅力を高めること、ひいては学区・地域の魅力を高めることにつながることを再認識すべきである。
 最後に、総合型をはじめとした地域のスポーツ団体は、学校体育施設の管理者である自治体・教育委員会とコミュニケーションをより綿密にとるとともに、参加者の理解の得られる範囲・金額から、受益者負担による個人向けプログラムを提供していくことが重要である。

8.まとめ(部活動改革の動きを踏まえ)
 本稿では、「総合型地域スポーツクラブによる学校体育施設を利用した個人利用向けのプログラムが展開しないのはなぜか」というテーマのもと、想定される3つの課題を整理し、その解決の方向性および各主体のアクションを概観してきた。
 最後に、今回の議論と切っても切り離せない、「部活動の地域活動化」の議論に触れておきたい。文部科学省の方針として、教員の働き方改革等の観点から、「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(文部科学省/2020年)において以下のような方針を示している。




 上記の方針のように、「部活動の地域活動化」の文脈において、「地域部活動の運営主体」が想定されていること、「合同部活動」が推進されていることも踏まえると、この運営主体として「総合型地域スポーツクラブ」はとても親和性が高いように感じる。これまで長らく地域に根差し、草の根からスポーツ活動を展開してきた安心感も、行政視点では重要なポイントであると感じている。
 経済産業省の「地域×スポーツクラブ産業研究会 第1次提言 概要版」(経済産業省/2020年)においても、「プロスポーツ・フィットネス・教育産業・学校法人など様々な運営主体による新業態として、有償で、学校施設や社会体育施設を活用し、サービス業として成長できる地域スポーツクラブ」の設置を目指すべきとの方針が示されており、ここに総合型も参加する余地は十分にあると考えている。
 一方、今回の考察でも触れたが「総合型地域スポーツクラブ」は非常に零細な体制でプログラムを提供している状況であるため、ほとんどの団体では、この「地域部活動の運営主体」の活動に追加で対応することができないであろう。過渡期においては、自治体からの業務委託や補助金等の活用も含めて、行政との連携方策を検討すべきであると考える。
 「部活動を地域活動化」させることは、これまで学校に閉じていた「部活動」を地域のリソースも活用しつつ、より効率的・効果的なものに変革をする流れであると理解している。当然、部活動が地域活動化した後も活動場所は必要であるが、現在の学校体育施設は外部者が利用するには不都合な部分が多いことは今回確認してきた通りである。外部者とも連携した活動の場とするため、今回確認したような「学校体育施設」の機能の拡大や、より自由に利用できる環境の整備は重要である。「部活動の地域活動化」と、今回検討を深めた「学校体育施設の自由な活用」は表裏一体の関係にあるのではないか。
 「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(文部科学省/2020年)では、「令和5年度以降、休日の部活動の段階的な地域移行を図る」こととされており、自治体・教育委員会は、ある程度スピード感をもって検討を進める必要に迫られている。自治体・教育委員会で本件の検討を進める際には、「部活動の地域活動化」の観点だけではなく、「自由な学校体育施設の利用の在り方」も併せて検討することが必要である。

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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