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【IT動向リサーチ】
プライバシー強化技術の概説と動向

2021年11月22日 先端技術ラボ 近藤浩史、間瀬英之、森毅


本レポートでは、プライバシー強化技術について動向を捉え、将来展望を考察した。

デジタル化によるデータ量の増加とAIの進化によって、データ利活用への期待が高まっている。一方で、プライバシー情報を利活用する側においては、プライバシー侵害の懸念等から、収集・蓄積したデータをどのように保護し、活用していくかが課題となっている。また、世界を見ると、プライバシー保護規制の動きが拡大しており、この動きは今後も止まらず全世界に広がることが予想される。
プライバシー強化技術(Privacy Enhancing Technologies:PETs)は、プライバシー保護規制の基となるプライバシー原則を実現・強化する技術として注目されている。中でも、近年、データ利活用における学習・利用フェーズで、「最小化」の原則を実現する「秘密計算(*1)」「差分プライバシー(*2)」「連合学習(*3)」が注目されている。
「秘密計算」は、既に電子資産の鍵管理で実用化が進み、データ分析に適用する例も登場し始めている。「差分プライバシー」は、ユーザデバイスの利用状況のデータを集める際に適用し、実用化されている。また、「連合学習」は金融、医療、IT・通信など、幅広い分野で実証実験などの取り組みが行われている。例えば、金融分野ではアンチマネーロンダリング(AML)やテロ資金供与の検知などのケースにおいて、1つの金融機関ではモデルを学習させるために必要な不正な取引データが不十分な場合に、連合学習を用いて、複数の金融機関が集まることで、学習に十分なデータを確保し、検知モデルの精度を向上させている。
プライバシー強化技術(PETs)の活用・普及に向けては、技術開発の進展・成熟度のほかに、法律やシステム開発、人材・体制などの面からも検討が必要である。今後は、パーソナルデータの利活用に伴い享受できるメリットとプライバシー侵害のリスクのバランスを取るべく、社会的な議論が進展すると予想される。その中で、プライバシー強化技術の活用に関しても、法律・規制面での位置付け・活用範囲が検討・明確化されるであろう。そのような中、当面は、個人情報保護法の規制を受けない企業内データ(機密情報など)に対してPETsを活用し、組織間の共通課題解決/社会課題解決する取り組みが進展することが予想される。将来的には、組織間でパーソナルデータに対してPETsを活用する事例も登場し、新たな付加価値・新サービス創出が期待される。
プライバシー強化技術は、プライバシーの侵害のリスクを低減させる有効な技術である一方、プライバシー強化技術を使えば全てが安心というわけではない。正しくシステムを設計・実装・運用するためには、従来通り慎重な対応が求められる。実サービスへの適用にあたっては、現時点から検討・実証実験等を繰り返し、どのような事例に適用できるか見極めが必要である。その際、技術自体の理解だけではなく、セキュリティの知識、法律などの複合的な知識が必要なため、自社に十分な知見がない場合は、外部の専門家の知見を活用し、助言・指導などを求めることが肝要である。

(*1)学習データ、クエリデータ、AIモデルなどを秘匿したまま処理できる。連携先や委託先の内部犯行に対しても漏洩を強固に防止可能。
(*2)利用フェーズにおけるAIモデルや推論結果から学習に用いたプライバシー情報の推測を防ぐために、データにノイズを追加して処理する。
(*3)組織がローカルに学習したAIモデルのパラメータや更新情報のみを共有し、統合したモデルを学習。機密性の高い情報を組織間で共有することなく、高精度なモデルを作成できる。

プライバシー強化技術の概説と動向

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