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日本総研ニュースレター 2021年5月

国連機関が乗り出すSDGs 認証 ~SDGs ウォッシュを是正し事業投資を促進~

2021年05月01日 渡辺珠子


動き出すSDGインパクト認証制度
 国連開発計画(UNDP)では、SDGs達成に貢献する事業やファンドの基準を設け、「この事業や投資は、SDGs達成に寄与する」という認証を付与する制度「SDGインパクト」を立ち上げる。審査や認証は第三者機関が実施する。環境やサステナビリティ、ESG投資に関しては、様々な原則やガイドラインが存在するものの、SDGsへの達成貢献に焦点を当て、国際機関が認証を与える取り組みは世界初となる。
 UNDPは認証を付与する対象を3つに分け、それぞれの基準を設けている。一つ目はプライベート・エクイティ(未上場株式)ファンド(PEファンド)、二つ目は債券、そして三つ目が事業活動である。一つ目と二つ目は主にファンド運用主体や債券発行体に付与される認証であり、投融資以外の事業活動には三つ目の事業活動を対象とした認証が付与される。2021年4月1日時点で、PEファンドと債券の基準はすでに公表されている。事業活動への基準は6月30日に公表予定である。すべての基準の公表後に、第三者認証機関の選定や研修が行われるため、審査と認証付与が開始されるのは早くて2021年末頃と予想されている。

認証制度の目的はSDGsウォッシュの是正と資金動員
 SDGインパクトを立ち上げた背景には、SDGs達成に必要な活動資金の不足が挙げられる。新型コロナウイルス感染拡大で貧困状態の人口が増加するなど、SDGs達成に逆行する動きが大きくなったため、途上国だけで年間2.5兆円の資金が必要(2014年時点)とされていた資金額はさらに増加した。特に、企業の事業活動を通じたSDGs達成貢献を中心に、民間での資金動員が求められている。
 また、SDGsの17の目標と紐づけただけで、実際にはSDGsへの貢献度が低く、継続的な改善が認められない事業活動が増えたことも背景の一つだ。実態が伴わないにもかかわらず、取り組みの良い面を過剰にアピールする事業は「SGDsウォッシュ」と呼ばれる。SDGインパクトは、SDGsウォッシュを是正し、SDGs達成に資する事業への資金増加が期待できる。さらに、SDGインパクト認証取得企業は、ESG投資対象と判断されやすくなるため、SDGsに資する事業活動に民間資金を呼び込む効果も期待できる。

認証取得には「統合報告書」作成の経験が生きる
 SDGインパクトには、基準カテゴリが4つある。
 1つ目は戦略。経営戦略だけでなく、企業の存在意義そのものがSDGs達成にコミットしているかなどを見る。2つ目はマネジメント・アプローチ。ファンドや事業活動がSDGs達成に資する効果を生み出しているかを継続的に測定・評価する。3つ目は透明性。2つ目で測定・評価した結果や改善・強化策の開示状況などを見る。最後はガバナンス。SDGs達成に適切なガバナンス体制であるかなどを見る。
 SDGインパクトは、チェックリスト形式ではなく、効果の測定方法や評価指標も具体的に提示されていない。そのため、企業自らが指標などを設定する必要がある。CO2排出量や廃棄物など環境関連の指標は分かりやすいが、働きがいや多様性、地域社会への影響についても説明可能な指標が必要となる。また、SDGインパクトでは、長期的にもたらされる影響についても問われる。既存のSDGsのセルフチェックシートのようなものでは、マネジメント・アプローチ部分に対応しきれない場合が多い。企業は様々な角度から自社がもたらす社会・環境価値を明示しなければならない。
 すでに統合報告書を作成している企業などは、同じような内容のレポーティングを経験しているため、比較的取り組みやすいと考えられる。SDGインパクト検討の委員を務めているコモンズ投信会長の澁澤健氏も、「統合報告書の作成時に、SDGインパクトの基準を取り入れることから始める」ことを勧めている。統合報告書を作成していない企業は、まずは統合報告書の作成を始めてみてはどうか。統合報告書は日本語でも解説や事例があり、検討しやすい。
 SDGインパクトは、公表されている基準案を読む限り、準備に手間はかかるが、取り組めないほど難しいものではない。SDGインパクトの認証取得はもちろん義務ではないが、日本の取り組み例を他国に効果的に発信し、理解してもらう良い機会でもある。SDGsの取り組み促進を考えている企業は、ぜひ一読し、積極的に認証取得に挑戦してほしいと思う。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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