オピニオン 中国グリーン金融月報【2021年10月号】 2021年11月09日 王婷鉄は様々な産業で用いられる極めて重要な金属素材である一方、鉄鋼製品の生産は大量のCO2を排出する。そのため、経済成長と環境保全を両立するためには、鉄鋼業のカーボンニュートラル目標の達成が不可欠である。世界の粗鋼生産量の約6割を占める中国、それに続いて生産量の多いインドや日本で鉄鋼業の生産方式がどのように見直されるかが注目される。鉄鋼業のCO2排出量の削減に向けた生産方式の見直しのポイントとしては、①鉄鉱石を原材料とする高炉における製鉄から鉄スクラップを原材料とする電炉における製鉄へのシフト、②高炉におけるCO2排出量削減に向けた水素活用還元技術などの革新的技術の導入、③再生可能エネルギー由来の電力や水素の利用拡大、④CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)技術の導入、が挙げられる。新たな生産方式への移行は技術的課題を多く抱えている。また、その克服に必要な技術開発、設備導入、関連インフラの整備は莫大な資金を必要とする。さらに、新たな生産方式への移行に伴う鉄鋼製品の価格の上昇は、短期的に景気にマイナス圧力をもたらしかねない。そのため、各国は、段階的に脱炭素を進めることで、一連の課題に対応するだろう。短期では実用化に必要な技術が確立されている電炉の生産拡大や、再生可能エネルギー由来の発電拡大に注力し、中長期では高炉における水素活用還元技術やCCUSの導入を目指すと見込まれる。主要な鉄鋼生産国の脱炭素に向けた動きにはばらつきがみられる。2060年のカーボンニュートラル目標の達成と過剰生産能力の解消を目指す中国は、環境負荷の大きい製鉄所の閉鎖や電炉比率の引き上げを進めている。また、近年政治対立が深まる豪州への鉄鉱石や石炭の依存を減らす観点からも、鉄スクラップを原材料とする製鉄の拡大や水素活用還元技術の自主開発を積極的に進めるだろう。インドは、再生可能エネルギーの導入拡大や水素の国内生産に注力する一方、高炉の水素活用還元技術やCCUSなどについては海外から技術を輸入することで対応しようとしている。2050年にカーボンニュートラル社会の達成を目指す日本は脱炭素における技術開発を産官学の連携により強化していくことが不可欠である。 関連リンク《RIM》 Vol.21,No.83・過剰債務が映し出す中国の成長パターンの限界ー国有企業と住宅投機が脅かす習近平政権の足元(PDF:1421KB)・脱炭素社会への移行が迫るアジアの鉄鋼業の将来(PDF:1356KB)・米中覇権競争下で強まる中朝関係ー経済が悪化する北朝鮮を中国は支援か(PDF:977KB)