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国際戦略研究所 研究員レポート

【中国情勢月報】「共同富裕」から考えたこと

2021年11月04日 副理事長 高橋邦夫


長年、党長老も交えた非公式の「北戴河会議」が7月末から8月上旬頃に開催されてきたが、(昨年はそれが開催されたのかはっきりと確認できなかったこともあり)今年は6月頃からこの会議が今年は開催されるだろうかという点が中国専門家の話題となっていた。開催の事実が正式に発表されるわけではないので、「状況証拠」から推測するしかないのであるが、結果から申し上げれば、「恐らく今年は開催されたであろう」というのが多くのチャイナ・ウォオッチャー の見方である。8月前半に習近平総書記だけではなく、共産党中央政治局常務委員の日々の動向に関する報道がぴたりと止んだことなどが、その理由である。筆者の推測であるが、恐らくは今年の「北戴河会議」では、来年秋の第20回中国共産党大会に向けて、様々な課題が話し合われ、かつ習近平政権の方針が了承されたのではないかと見られる。

本稿では、恐らくそうしたプロセスを経たであろう8月半ばに発表された「共同富裕」の改めての強調を取り上げて、それを手掛かりにして今後の中国の進む方向を占ってみたい。

1.「共同富裕」の再重視とこれまでの経緯

8月17日、習近平総書記の主宰の下、「中央財経委員会第10回会議」が開催された。翌18日の共産党機関紙『人民日報』の報道によれば、「高い質の発展の中で共同富裕を促進し、重大な金融リスクの防止・解消工作を全体的にうまく進める」ことが議論されたという。

多くの読者の方々には、「共同富裕」という言葉は余り聞きなれない言葉であろうが、中華人民共和国の歴史を振り返ると決して目新しい言葉、概念ではない。1950年代には、建国の父・毛沢東自身も共同富裕を社会主義の目指す理想として語っている。また、今回の習近平総書記の「共同富裕」再重視の提案が明らかになった際に、日本のメディアの中には、これは「改革開放政策」を始めた鄧小平氏が提案した「先富論」からの決別を意味する、というような趣旨の解説も見られた。しかし、当の鄧小平自身も、「一部分の地域、一部分の人間が先に豊かなり、その他の地域、その他の人を引き連れ支援すれば、徐々に共同富裕に到達する」と述べて(注1)、決して「共同富裕」を否定してはいない。更に、その後の江沢民・総書記、胡錦濤・総書記の時代にも、「社会主義現代化建設の各段階で必要なことは、広大な人民群衆に改革発展の成果を共に享受させることである」等と言い方は少し違うが、「共同富裕」につながる考え方が唱えられている。

こうした考え方は、習近平総書記の時代になってからも変わっていない。特に、2017年秋に開催された第19回中国共産党大会では今世紀中葉までの目標として「全体人民の共同富裕を基本的に実現し、我が国人民が更に幸福で安全・健康な生活を送れるようにする」と報告で触れられている。

2.何故、今回は「共同富裕」が注目されているか

このように、これまでの歴代の指導者が触れてきている「共同富裕」という概念にも拘わらず、何故今回は大きな注目を浴びているのであろうか。筆者は、そこには習近平総書記については、前任・前々任の胡錦濤・総書記や江沢民・総書記以上に「権力の一極集中」が起きており、そうした状況の下、昨年来、放置すれば中国共産党に匹敵しうる力を持つかもしれないと習近平政権が考えた「アリババ・グループ」 など中国を代表する大手民営企業へ様々な規制・統制を強めていることが背景となって、今回の「共同富裕」の議論がなされるや否や、中国IT最大手の「テンセント」が農村振興や低所得者支援のために500億人民元(約8,500億円)を寄付する旨発表するなど幾つかの民営の大企業が、多額の資金を拠出することを表明したことが、その理由ではないかと見ている。…

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【中国情勢月報】「共同富裕」から考えたこと(PDF:764KB)
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