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オンラインツールが拓く農業・農村との接点

2021年10月26日 多田理紗子


 新型コロナウイルス感染症が世の中にもたらした変化として、社会との関わり方やコミュニケーションの変化を思い浮かべる方は多いのではないだろうか。対面での会話や移動が制限される中、オンラインを活用したコミュニケーションが急増した。これまであまりオンラインツールになじみがなかった層からも、コロナ禍で使い始めたという声を多く耳にする。こうした変化は、農業・農村分野でもあちこちで生まれている。

 コロナ禍で、農業・農村に対する関心が社会的に高まったと言われている。自宅で調理する機会が増え、新鮮で安心できる農産物、美味しい食材を買いたいと思うようになった。自分たちが食べている農産物が生産されている現場を見てみたくなった。地域の生産者、国内の生産者を応援したい。そんな声を聞くことが多くなったように思う。

 しかし、離れた場所まで農産物を買いに行く、農業体験をしに行くといった活動は、移動制限等でなかなか難しい。そこで、オンラインツールの活用が進んだ。インターネットでの農産物の直接販売はコロナ禍で急増し、オンライン農業体験や生産現場中継といったイベントも行われるようになった。

 こうした変化について、「接点」というキーワードで考えてみたい。これまで、都市に住む消費者と農業・農村との接点は基本的に「リアルの場での直接的な関わり」によって形成されていた。消費者が小売店や直売所に足を運んで農産物を買い求めたり、農業の現場を訪れて農業体験に参加したりといった接点が主であった。農業・農村側から見れば、消費者に来てもらわなければ、消費者との接点を持てなかったことになる。これが、コロナ禍において変化した。これまで農産物は店舗で販売されることが多かったが、リアルな場での販売減少をきっかけにインターネットで直接販売を始める生産者が増えた。直接販売には、旬の時期や新商品の情報を消費者に直接発信し、販売促進ができるというメリットもある。

 直売所の中には、オンライン接客を試行したところもある。消費者にオンラインで売り場を見て、商品を選んでもらい、発送するような取り組みで、遠方の消費者にも地域のものを届けられる。また、コロナ禍で、オンライン農業体験等のイベントが多く見られるようになった。イベント開催に合わせて参加者に農産物を送り、オンラインで生産現場を紹介するとともに農産物を楽しんでもらうといったプログラムが提供されている。

 これらの動きを通じて、これまでにない接点ができた、つまり接点が多様化したと捉えることができる。オンラインの利点のひとつは、コミュニケーションの回数を、気軽に重ねられることにある。従来の接点と、コロナ禍で発展した新たな接点とを組み合わせれば、さらなる広がりが期待できる。例えば、消費者が農村を訪れて植え付け体験を行い、成長過程はオンラインで確認、最後に収穫体験で再び農村を訪れる。そんなパッケージも考えられる。

 緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が9月末をもって全都道府県で解除された。引き続き気を緩めることなく新型コロナウイルス感染症に対処すべきであることは言うまでもないが、今後、感染拡大措置を十分に行うことを前提に、行動制限等が緩和されていくと思われる。これまでオンライン中心だった活動に、少しずつオフラインが戻ってくるだろう。

 コロナ禍で新たに誕生した接点は、当初は「これまでの取り組みができないから、その代わりに」といったやや後ろ向きの思いで生まれたものに過ぎなかったかもしれない。確かに、顔を合わせることによる安心感、実際に見て触れるという体験による充実感は、オフラインにはかなわない。しかし、新たな取り組みが広がる中で、手軽にいつでもどこでも繋がることができるオンラインならではの価値も理解されてきた。

 日本総研では、農業・農村のデジタルトランスフォーメーションに向け、地域や自治体との検討を進めている。今後、オンラインとオフライン、従来の接点と新たな接点との組み合わせで、農業・農村振興のさらなる可能性を模索したい。
 
 
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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