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CSRを巡る動き:サステナブルファイナンスの地域金融機関への普及に向けて

2021年11月01日 ESGリサーチセンター


 これまで、わが国のサステナブルファイナンスは、グリーンボンドを中心に普及してきましたが、このところ直接金融のみならず、間接金融の領域でも環境・社会課題解決を金融測面から誘導する動きが拡がっています。近年では、環境活動に資金使途を限定した融資(グリーンローン)や、融資先企業のサステナビリティの取り組み成果と金利等の貸出条件を連動させるサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)等のサステナブルファイナンスの組成額が増加しています。

 国内で外部レビューを取得しているグリーンローンの組成額は、2018年には140億円でしたが、2019年には約652億円となり、2021年は7月時点で約667億円まで増えています(※1)。SLLも国内での実行例は20件を超えました。地域金融機関においても、滋賀銀行が全国の地銀に先駆けてSLLの取り扱いを開始し、これまでに8件のSLLを実行しています。その他にも、肥後銀行、京都銀行、群馬銀行、八十二銀行などが相次いでSLLの取り扱い開始を公表しています。

 脱炭素に向けた融資を後押しする政策も始まっています。2021年6月に成立した改正産業競争力強化法は、SLLなどでの金利引き下げを政府の予算で支援する制度を盛り込みました。政府から認可を受けた金融機関は利子補給を受けることができます。日銀も2021年7月の金融政策決定会合で、気候変動対応を支援するためのファイナンスを後押しする新制度の骨子案をまとめました。金利0%で長期資金を供給し、マイナス金利の負担を軽減できる措置も盛り込んでいます。

 国内企業数の約99%を地方の中小企業が占めることから、日本全体で脱炭素化を進めるうえで、地域の中小企業の取り組みを推進することは非常に重要です。同時に地域の中小企業の経営を支える地域金融機関は、地域企業の環境対策を支援する重要な役割を担っています。このため国においても、地域金融機関がサステナブルファイナンスに取り組みやすくするための素地を整備していると考えられます。

 各省庁でも、金融機関がサステナブルファイナンスを実行するうえでの指針等についてまとめたガイドラインを出しています。環境省は2020年、地域金融機関が環境・社会的課題の解決に資する技術力や製品・サービスを有している地域企業への支援を促進するための「ESG地域金融実践ガイド」を作成しました。これによって地域金融機関の新たな案件発掘や顧客開拓、さらに長期的には地域の経済発展を目指しています。また、グリーンローンやSLLの普及を図ることを目的として、同省は「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン」を策定しました。このほかにも、金融庁がサステナブルファイナンス有識者会議の提言を、経済産業省がトランジション・ファイナンスを実施する際の手引きとなる基本指針を策定しています。

 このようにガイドラインが整備されている一方で、国内では、何をもって「サステナブル」な事業とするかという統一的な見解が明確には示されていないのが現状です。欧州では、再生可能エネルギー発電等の持続可能性に貢献する経済活動の定義を共通化する「EUタクソノミー」の整備が進められています。国内でもサステナブルファイナンスの拡大に向けた素地は整えられていますが、そのファイナンスを通じて実際に環境・社会課題を解決するためには、適正な事業に融資していることの裏付けを得ることが肝要です。地域金融機関が実際にサステナブルファイナンスに取り組むにあたって、どのような事業を対象としたらよいのかをまずは明確にしていくことが求められるでしょう。

 昨今、自動車メーカーや化学、電気機器業界などの大企業は、サプライチェーン全体で環境対策を進めており、取引先に対しても環境問題への対応を求めるようになってきました。取引先の中小企業は対応が遅れた場合、大企業との取引が停止されるリスクがあります。逆に、中小企業でも環境対策を先行して進めることで、新たなビジネスチャンスが獲得できることもあります。また、最近の若年世代は環境や社会課題への関心が高いと言われており、サステナビリティに配慮した企業かどうかという視点で就職先を選別し始めています。人材不足に悩む中小企業にとって、優秀な人材を集めることができなければ、中長期的には大きな事業継続リスクとなるでしょう。

 このように、地域の中小企業でもサステナビリティの取り組みの有無が中長期的な企業価値を大きく左右すると考えられます。融資先の顧客企業がサステナビリティに取り組むことで企業価値が向上すれば、金融機関にとってもビジネスチャンスが増えるはずです。こう考えると、金融機関がサステナブルファイナンスを通じて顧客企業を支援することは、中長期的に見れば金融機関自身の成長戦略や、持続可能性の向上につながると言えるでしょう。サステナブルファイナンスの拡大に向けては、前に述べたように、何をもって「サステナブル」な事業とするかという定義を早急に明確にしたうえで、地域での普及を促進する諸施策が期待されています。

(※1)グリーンファイナンス( http://greenfinanceportal.env.go.jp


本記事問い合わせ:長谷 直子
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