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中国のスタートアップが牽引する世界の自動車新市場

2021年10月12日 程塚正史


 自動車業界で有名なWEBメディア「レスポンス」で、先月(2021年9月)、無料セミナーに登壇させていただいた。「2020年代の中国自動車産業に起きる次なる変化」というタイトルで、中国を代表するテック専門メディアの36Krとの共同講演だった。

 予想を大幅に超える1,000人近い方々にご視聴いただいた。すべての日系完成車メーカーの方々、部品メーカーの方々など、社数も400社以上となった。また、セミナーではとても時間内にご回答できないくらいの、50近いご質問を頂戴した。

 コロナ禍で海外との往来が制限されるなかでの、海外(この場合は中国)での様々な動向に関しての情報と対応のためのヒントを必要としている日本企業の現状を垣間見た気がした。たしかに冷静に考えてみれば、中国でも欧州でも、コロナ禍だからといって自動車産業の進化が止まるわけではなく、それぞれ独自の展開が進んでいることは間違いない。

 中国国内に一定のネットワークを有するおかげで、弊社では中国の自動車産業を継続的に分析できている。EVの大規模普及が始まる前にその兆候を捉えたり、設立間もない段階からNIOなど新興ブランドと関係を築いたりしてきた。そこから導かれる仮説は、全体として、まだまだ日系メーカーが製造する自動車のほうが製品としての優位性があることは論を待たないが、しかし関連事業の幅広さは中国市場が上回っているというものである。

 中国には、様々な試行錯誤から生まれた事業が存在する。今や都市生活に不可欠な、ネット配車サービス、フードデリバリー、自転車シェアリングはその最たる例だ。当初の計画通りに進まなかったり当局との軋轢が生じたりすることもあるが、ネット配車はその利用データを用いて交通流制御事業や独自車両の開発を進める方向に発展した。フードデリバリーは都市部での無人配送車の実証を始めるに至っている。自転車シェアも行き過ぎた感は多分にあるものの、都市部での適当な供給水準を模索中という状況だ。これら以外の領域でも、いわば有象無象の新興企業が「千三つ」の成功を狙うべく動いている。

 過去数十年の中国での産業振興の歴史を振り返れば、政府が大方針を掲げたうえで、スタートアップ企業がその市場を開拓するというのがよくあるパターンだった。今やスマートフォンは世界の一大産業だが、Xiomi(小米)、VIVO、OPPOといった中国企業がグローバルでも上位を占める。再エネ電源も政府の大号令で始まり、太陽光パネルのトップ10はLONGiやJINKOはじめ8社が中国企業だ。スタートアップの製品は、当初は「燃えるスマホ」「発電しない太陽光パネル」など揶揄される向きもありつつも、切磋琢磨を続けるうちにグローバルで上位を占めるようになっていく。政府の方針のもとスタートアップが市場を開拓するというのが、中国の「お家芸」ともいえる。

 今後の自動車産業でも同様の動きが起きるはずだ。上述のように、EVそのものでも新興企業の存在感は大きいし、自動運転技術の開発でもPony.aiやWerideのような新興勢にはトヨタはじめグローバル大手の完成車メーカーが提携しつつある。ここ1年ほどで車載電池でのBaaS(Battery as a Service)の動きが加速しつつあるが、それも奥動のようなスタートアップが牽引している。

 冒頭のセミナーで共同講演した36Krと議論を重ねていくなかで、上記だけでなく、現在も数多くのスタートアップが自動車関連産業の領域で様々な試みをしていることが分かってきた。特に、水素、車載電池、物流、車内空間、都市OS、信用スコア、自動運転、UX(ユーザーエクスペリエンス)、アフターサービスといった9つの領域に注目すべきと展望している。

 弊社は、日系企業向けに中国の自動車産業の動きをいち早くとらえ、その動きから次なる打ち手を検討する支援をしたいと考えている。具体的には、間もなく、スタートアップ企業の動きから考える「中国の自動車産業の動向分析プロジェクト」を開始する予定である。ぜひ多くの方々にご支援いただければと考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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