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【サステナブル・ブルーエコノミー】
日本の「サステナブル・ブルーエコノミー」の規模を測る

2021年10月12日 村上芽


 海が私たちの生活に与えている恵みははかり知れない。しかし、島国として、あまりにも当たり前にその恵みを享受してきてきたからか、日本にはまだ、海の持つ価値を経済面から定量的に評価して、高めていこうという動きが十分にない。

 海洋の生態系を維持しながら経済的な繁栄と貧困撲滅を実現したい、島嶼(とうしょ)国が2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で「ブルーエコノミー」の主張を始めたとされる。これを受け、国連環境計画などでは持続可能な開発のための途上国の支援を目的として、ブルーエコノミーの考え方が整理されていった。

 他方、技術開発や市場・雇用の観点から海洋の持つ潜在性を明確にしたのが、OECD(経済開発協力機構)や欧州だ。OECDが2016年に発表した、「2030年の海洋関連の経済規模は3兆ドル超」という推計では、特に洋上風力を年率25%の成長市場と評価して注目された。
 欧州では、2017年に「ブルー成長戦略」のための報告書を発表し、2018年からは毎年、加盟国とともにブルーエコノミーに関する年次報告書を作成している(注1)。直近では域内で500万人の雇用、6,500億ユーロ(約84兆円(注2))の売上、1,760億ユーロ(約23兆円)の付加価値額があることを明らかにしている。

 これらの数字は、ブルーエコノミーのなかでも「既成セクター」に分類される、①漁業・養殖業・水産加工業、②石油・ガスなどの現時点での非生物資源、③洋上風力、④港湾・水インフラ、⑤造船・船舶、⑥海運、⑦沿岸地域観光から成っている。2018年時点で最も大きかったのは、雇用数でも付加価値額でも⑦の観光で、欧州の観光客向けの宿泊施設の約半分が沿岸部に立地していることが大きく影響している。新型コロナウイルス感染症の影響をマイナス面で大きく受けてしまったセクターでもあるが、復興のための投資も行われている。
 また、「新興セクター」としては海洋再生可能エネルギー(浮体式洋上風力、波力・潮力、浮体式太陽光、洋上水素)、ブルーバイオテクノロジー、海水淡水化、海洋ミネラル、海上防衛・監視、研究・教育、海底ケーブル、海中のロボット技術が挙げられている。中でもブルーバイオテクノロジー、特にプラスチックなどの石油化学製品を代替しうる植物性素材である藻類に注目している。
 これらは当然のように、欧州の掲げる欧州グリーンディールやサーキュラーエコノミーを構成するものとして位置付けられている。

 では日本でのブルーエコノミーの規模はどの程度かというと、まとまった報告は作成されていない。日本では内閣府が海洋政策を取りまとめており、2021年7月には、「令和3年版海洋レポート(海洋の状況及び海洋に関して講じた施策【年次報告】)」(注3)が発表された。
 そこには、海運業関係、港湾関係、水産業関係、海洋レジャー・観光、環境関係、その他のデータがあるが、雇用に関する情報があるのは海運業(造船業従事者数74,080人、船用鉱業従事者数46,215人、日本人船員数63,796人)、港湾(港湾労働者数50千人)、水産業(漁業就業者数14.5万人)のみで、単位がバラバラで合計数はない。海洋レジャー・観光ではレジャーの顧客数(海水浴客数、釣り人数など)はあるが、雇用の情報はない。金額の情報があるのは、漁業・養殖業生産額(1兆4,918億円)だけしかない。全体を通じ、既存の政府の報告書等からの寄せ集めという印象が否めない。

 筆者は、この状況を脱し、最低でも欧州と同種のブルーエコノミーの規模を把握すべきだと考える。さらに、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」などSDGs達成への貢献を考えると、持続可能性に貢献できる「サステナブル・ブルーエコノミー」の規模を的確に測り、強みや弱みをきちんと把握して産業育成していくべきではないだろうか。
 ブルーエコノミーの既成セクターを巡っては、北海油田を有する産油国・ノルウェーでも脱石油の動きが活発化していることからしても、今後定義が見直されてゆくかもしれない。そうした変化をにらみ、「サステナブル・ブルーエコノミー」を提案したい。具体的な集計方法の案には以下が含まれる。
 ・水産業関連では、持続可能な経営認証付きの産品を分けて集計する。
 ・生物資源・非生物資源を化学品や医薬品など向けに活用する場合や、藻類を温室効果ガスの吸収目的で育成する場合には、持続可能な採取方法・工法等が取られていることが確認できるものを分けて集計する。
 ・エネルギー関連では、化石燃料採掘は対象外とする。再生可能エネルギー関連のものは、他の環境への悪影響がないことを条件とする。船舶燃料向けのバイオ燃料製造を含める。
 ・造船・海運関連では、運航エネルギー別に集計する。
 ・ロボット技術やシステム開発関連について、持続可能な漁法や工法、労働時間削減、労働安全などに資するものを集計する。
 ・教育・研究に関する分野を計上する。
 ・環境汚染防止に資する分野として、海洋プラスチック対策や干潟・沿岸再生目的などの分野を計上する。
 ・各分野において雇用に関する情報を併せて収集し、雇用形態別に集計する。

 「現状をしっかりと把握できなければ、的確な政策を立案できない」というのは、政策形成の進め方の定石である。島国・日本のポテンシャルを可視化する作業に、早急に着手することを望みたい。

(注1)欧州委員会「The EU Blue Economy Report 2021」
(注2)1ユーロ=130円で換算。
(注3)内閣府「令和3年版海洋レポート」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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