コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

メディア掲載・書籍

掲載情報

通信自由化20年:NTT民営化の功罪 第3部
求められるNTT像の検証(7)  

新保豊

出典:日刊工業新聞 2005年10月13日

 ―通信自由化から節目の20年を迎えました。

 「区切りの20年を経たことで、ここで5~10年先の通信業界がどうあるべきかを考えておく必要がある。最も重要な課題は通信と放送の融合だ。インターネット・プロトコル(IP)化など先端技術が急ピッチで普及し、通信と放送の両業界は"垣根論争"を提案できる状況にある。放送は金融業のように護送船団、通信も自由化したとはいえ、まだまだ(規制で)守られている側面が多分にある。だが将来的には通信と放送のの垣根はなくなる。両業界の雇用対策も重要だが、一方で時代に逆らえない課題を突きつけられている」

 ―売上高が約11兆円(2005年3月期)のNTTに対し、民放最大手のフジテレビジョンでさえ約4,800億円。NTTが放送に参入すれば、既存の放送局はひとたまりもないのでは。

 「向こう5年以内に"巨人"が参入するのならいただけない話だと思う。ただ10年先のグランドデザインを考えると、放送局が通信会社の傘下に入ったり、統合や業務提携などはあり得るのでは。通信業界は固定系通信の収益が先細るのは確実であり、新しい収益をコンテンツや放送に求めるのは自然な帰結だと思う」  
  
 「ただ現時点では放送局に出資しても1社が持てる議決権に制限があり、通信会社が番組を再送信する場合も制約を受ける。放送局はこうした既得権益に守られている。放送局は番組制作の多くを外注に出しているが、外注先が持つ著作権に近い著作隣接権が認められている。こうした既得権は緩和するべきだ」 

 ―NTTは巨人ゆえにNTT法で規制され、放送事業者への出資比率も3%以下に行政指導されています。

 「今後の産業政策は、通信と放送の融合によるダイナミズムを生かせる策を考えるべきだ。NTTを規制で縛ると、それは生まれない。NTTの自由度は高めるべきだ」

 「ただ、NTT法廃止の条件として、独占しているアクセス網(銅線の市内通信網)を分離し、別の公的主体が運営する考え方がある。(電電公社時代に整備した)アクセス網の管路などは公共的な国民の資産という意味合いあある。NTTの独占の要素を取り除いた上で、NTTに放送事業への参入を認めてもいい」

 ―銅線が光ファイバーに置き換わった時、誰がユニバーサル(全国一律)サービスを守るのでしょうか。

 「光ファイバーはNTT以外の通信会社が敷設するのは難しく、NTTも(当面は)都市部しか整備しないと思う。光をユニバーサルサービスととらえれば、(地方の光の整備と運営には)公的主体の助成金が必要になる」

 ―NTTが放送事業に参入した場合、新電電との格差がさらに広がる懸念があります。

 「NTTはアクセス網を分離した上で、さらに分割するのが適当だろう。一方の新電電はNTTが規制で縛られているうちに放送会社と手を組み、NTTより先に足場を築くことができる。通信と放送の融合サービスは、これまでの電話のように料金が最大の差別化ポイントではない。新電電の十分にNTTに対抗できると思う。新電電に続いてNTTも後発参入すれば放送・通信市場にダイナミズムが生まれる。日本の産業の魅力度が高まり、海外からの参入も期待できる」 
 
 余滴:自由度高め潜在能力を

 1999年にNTTが実施した分離・分割に点数をつけるとすると「0点」。日本総研の新保氏はそう厳しく評価する。インターネットの萌芽期だったにもかかわらず、銅線の固定電話を前提とした地域別のNTT再編だったからだ。地域の垣根を越えるネット社会の到来を見極められなかった「情報通信審議会の失態だと思う」と続ける。

 新保氏は「NTTの自由度を高めるべき」と訴える。IP化や通信・放送の融合に対応できる組織体制に改め、NTTの潜在能力を引き出すべきとの主張だ。その意味でNTTには強い期待を寄せる。無論NTTの独占的な要素を取り去ることが自由を与える前提条件となる。

 NTTは、いったん縮小均衡した上で、自由な立場で新たな飛躍を目指すシナリオをどう受け止めるのか。「10年後」を見据えた将来ビジョンまで視野に入っていないのかもしれない。 

メディア掲載・書籍
メディア掲載
書籍