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DESS(Decentralized Energy System & Software)コンソーシアム

出典:コージェネレーション 第19巻第2号

1.はじめに

2003年10月に策定されたエネルギー基本計画の中で、「分散型エネルギーシステムの構築」が明確に位置づけられた。需要地にコージェネレーション等を設置し、電力と熱を効率的に利用する「分散型エネルギーシステム」を既存の大規模集中型のエネルギーインフラと共存する形で普及させていくことを国が目指すとしたのである。 コージェネレーションは、これまでにも電熱併給による総合エネルギー効率の向上によるエネルギーコスト削減(経済性の向上)やCO2削減(環境性の向上)、電力供給源の二重化(信頼性の向上)などのメリットにより導入台数を増やしてきた。2003年3月からは、一般家庭へのガスコージェネレーションの導入も始まっており、導入サイトも工場等の大口需要家から一般家庭という最小単位にまで拡大してきている。 一方で、コージェネレーション等の分散型電源の導入数が増えると、電力系統にかかる負担が無視できなくなる恐れも指摘されている。現在、導入されているコージェネレーションのほとんどが熱需要への対応を主とした運転を行っており、電力については、不足電力の供給、電力品質(電圧・周波数)の維持、非常時やメンテナンス時のバックアップ等を電力系統に依存しているケースがほとんどである。コージェネレーションシステムは今後も普及していくことが予想されるが、こうした系統依存型の電源が増えると、電力系統に与える影響が深刻化し、系統の安定運用にも支障をきたしかねない。 こうした背景を鑑み、日本総研では2003年6月にDESS(Decentralized Energy System & Software)コンソーシアムを設立した。DESSコンソーシアムでは、電力系統と共存できる分散型エネルギーシステムの実現を目指して、主としてビジネスの視点から分散型エネルギーシステムの検討を行っている。ビジネス化への戦略は、分散型電源のネットワーク化である。本稿では、DESSコンソーシアムの取組みについて紹介する。

2.コンソーシアム活動の概要

2-1 設立趣旨

DESSコンソーシアムの設立趣旨は、小型分散型電源の市場創出のために、以下を実現することである。

(1)個別分散システムのためのビジネスモデルの創出

(2)実ビジネスを見据えた知財アライアンスの構築

2-2 活動体制

【設立】2003年6月

【顧問】東京農工大学大学院 柏木孝夫教授

【事務局】株式会社日本総合研究所

【参加メンバー社(33社;2003年度末時点)】

出光興産株式会社、株式会社荏原製作所、コスモ石油ガス株式会社、三洋電機株式会社、シナネン株式会社、株式会社CRCソリューションズ、株式会社ジャパンエナジー、積水ハウス株式会社、大成建設株式会社、トピー工業株式会社、日揮株式会社 、パナホーム株式会社、株式会社ファーストエスコ、松村物産株式会社、丸紅株式会社、三井住友建設株式会社、三菱電機株式会社、株式会社明電舎、横河電機株式会社 他

 

2-3 活動概要

DESSコンソーシアムでは、ハードではなくソフト部分に焦点を当てた検討を実施している。検討範囲のイメージは、図-1のとおりである。

 分散型電源をネットワーク化し、需要家間で電力や熱の相互融通を実施することで、需要家は経済性、環境性、信頼性の向上というメリットを享受できる可能性がある。しかしながら、こうしたマーケットの立上げには、ハード面(技術)の研究開発に加えて、ソフト面(システム・ノウハウ)の開発が重要だ。というのも、ハードとソフトの両方がそろって始めてビジネスモデルができ、消費者に受け入れられるからである。

 DESSコンソーシアムでは、こうした考え方のもと、以下の4つのタスクフォースを組成して、検討を進めている。

(1) ビジネスモデルタスクフォース

(2) カーボンソリューションタスクフォース

(3)知的財産タスクフォース

(4)自治体タスクフォース

3.コンソーシアムの目指すもの

3-1 個別分散システム

DESSコンソーシアムでは、複数の分散型電源を一サイトに分散設置し、それらをネットワークした「個別分散システム」の検討を行っている。個別分散システムとは、以下の7つを特徴とするシステムである。

(1)個別分散:需要家毎に分散型電源を設置

(2)統一規格の分散型電源:統一規格で大量生産された分散型電源の使用

(3)ネットワーク化:需要家間で電力の相互融通を実施

(4)電熱併給:コージェネレーションとして利用

(5)原則自給:各需要家の分散型電源では原則自らの需要を賄う

(6)需給一体性:需要者・供給者の立場を一体化

(7)単一施設、または単一区画:ネットワーク化の対象は単一施設等の単一区域内に限定

当初の検討では、家庭分野をターゲットとしている。これは、生活の利便性の向上とともにエネルギー使用量とCO2排出量が増大している一方で、具体的なCO2排出量の削減方策がないことを問題視しているためである。家庭に燃料電池等のコージェネレーションを普及させることができれば、抜本的な対策となることが期待される。 また、家庭分野、特に集合住宅は個別分散システムが比較的導入しやすいという面もある。次の3つが理由だ。一つ目は、電力負荷の大きさが同レベルであることである。設置される電源のサイズも同一であるため、電力の融通が考えやすく、効果も分かりやすい。

二つ目は、ネットワーク化に関する法規制や商慣行上の課題が少ないことだ。電力の小売自由化は、来年、高圧電力の50kWまで認められる予定であるが、一般家庭の電灯まで自由化が拡大されるかどうかは不確定である。また、戸建住宅をネットワークする場合、「一需要地点・一契約」の原則から、電力会社と各戸建住宅がそれぞれ契約を結ばなくてはならない。一方、集合住宅の場合、敷地内部であれば、自家発自家消費扱いとなるので、各住宅間での電力融通は問題なく実施できることとなる。 三つ目は、集合住宅では比較的ネットワーク化が容易であることだ。住戸間の距離も短いし、もともと集合住宅は高圧受電をしているところも多く、そのような集合住宅では受電盤以降で配電線がもともとネットワークされている。そのため、新たに分散型電源をネットワークしたとしても経済的な追加負担が抑制できる。

3-2 個別分散システムの生み出すメリット

DESSモデルは、独自の送電線で分散型電源をネットワークすることにより、分散型電源と需要の関係を“1対1”から“多対多”と変える。ここに、経済性と信頼性を両立できる可能性がある。分散型電源単体では、技術的、もしくは経済的制約によって持ち得ない付加価値を複数台集めることで獲得することが可能となるためだ。そのメリットは、次のとおりである。

(1)停電しないシステム(信頼性の向上)

日本は、信頼性の高い電力系統が全国に行き渡っているため、完全に電力系統から独立したエネルギーシステムを検討することにあまり意味があるとは思えない。しかしながら、昨今の北米の大停電や東京電力の電力危機などで、電力系統に過度に依存したエネルギーシステムの信頼性には疑問符がつきつつある。分散型電源の価値の一つは、電力系統と共存し、信頼性を更に高めることだ。停電のないシステムへのニーズは高い。

しかし、現状には、ほとんどの分散型電源が電力系統へ一方的に依存している。電力系統に接続していないと電力品質(電圧、周波数)の調整ができないし、不足分の電力のバックアップも電力系統から受けている。そのため、電力系統が停電した際に分散型電源も停止してしまう。これは、消費者のイメージから大きく乖離している。 加えて、こうした系統依存型の分散型電源が大量に普及すると、電力系統の安定性に悪影響を与えることも懸念されている。系統側で制御できない電源が増えることにより、電力系統の安定性確保のための負担が増大するからだ。

複数の分散型電源をネットワーク化することによって、電力品質調整機能とバックアップ能力が確保できれば、こうした課題は解決できる。仮に、集合住宅の各戸単位で燃料電池を設置した場合、電力の融通を行うことにより不足電力の相互バックアップが可能になる。電力も熱も全てネットワーク内の燃料電池で賄うこともできるだろう。また、ネットワーク単位で電力品質の調整ができればよいので、電源一台当たりの経済的負担は大きく削減される。

当然のことながら、「分散型エネルギーシステムの構築」は電力系統との共存することが大前提である。燃料電池等の分散型電源の大量普及を考慮すれば、今後、これは無視できない条件となるだろう。

(2)総合エネルギー効率の向上(環境性の向上)

 コージェネレーションの最大のメリットは、電力だけでなく排熱を利用することによる総合エネルギー効率の向上である。しかしながら、現状では、コージェネレーションは熱需要に合わせて運転され、不足電力を電力系統に依存しているため、①で述べたように電力を全て賄うと、熱の需給バランスが合わない。その結果、かなりの余剰の熱を無駄にしてしまう可能性もある。

しかし、電源と需要の関係が“一対一”から“多対多”となれば話は別だ。予め熱負荷の近傍に分散型電源を分散設置し、熱需要のある地点に発電をシフトさせることで熱の無駄を最小化できるからだ。我々は、これを広義の「熱の融通」と位置づけ、熱配管のロスも最小化できる有望なモデルと考えている。

昨今、分散型電源の性能は向上し、発電効率がかなり高くなってきた。特に、燃料電池は、家庭用を対象にした1kW規模でも十分な発電効率を有している。そうであるならば、なるべく細かく熱負荷の近傍に電源を分散させた方が熱配管による放熱ロスを最小化する観点からも有利だ。電気は、電線を敷設しさえすれば融通ができるので、熱を融通するのに比べてかなり負担が小さい。

 ただし、どのようなシステムに仕上げようとも、電熱の需要と供給が完全にバランスするわけではないので、最小限の無駄は生じてしまう。一部の熱を無駄にすることについては、様々な考え方があるだろうが、やや柔軟にとらえてもかまわないのではないか。例えば、電力系統の火力発電の発電効率が最高でも約50%であるのだから、個別分散システムの総合エネルギー効率が、最大値の90%を下回ったとしても、例えば70%であれば十分に価値があると考えられる。

3-3 更なる付加価値の創出

(1)新エネルギー利用の最大化

新エネルギー利用が最大化できる理由は二つある。一つ目は、ネットワークがあれば新エネルギーを直接利用できることだ。これまで新エネルギーの普及を妨げている大きな要因となっているのは、発電コストに対して売電収入が小さいという経済性の問題である。そして、その背景には、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの電力は出力が変動しやすく、且つ出力の制御が困難なため、変動を吸収できる化石燃料による巨大な電力プールが存在して始めて利用できるという現状がある。しかし、ネットワークによって負荷追従が可能な燃料電池等の分散型電源と新エネルギー電源が接続されれば、ネットワーク単位で出力を制御することで新エネルギーの電力を直接利用できる。直接利用できれば、売電するよりも経済性は当然高まることとなるから、投資回収も容易となり、新エネルギー発電設備の普及を後押しするだろう。

もう一つは、燃料電池の普及が水素による新エネルギーの供給の可能性を拡大することだ。バイオマスは、化石燃料と異なり、広く薄く分布しているエネルギーである。こうした特徴を踏まえれば、バイオマスを一箇所に集約して発電を行うことは輸送に伴うエネルギーロスが大きく、経済的なメリットが出にくいのは当然だ。利用手段がなければ、集約して発電等するしか方法がないが、燃料電池が家庭にまで普及すれば、至るところに水素の利用手段が存在していることとなる。結果として、地域内でバイオマス由来の水素を利用できる可能性が広がることになるだろう。

(2)需給一体性による省エネ意識の向上効果

また、需給一体性による省エネルギー効果も見込める。需給一体性とは、需要家が自ら電源を持つ供給者となることだ。現在、国内外で自前の送電線を用いたシステム(マイクログリッドなど)の実験研究が進められているが、どのような小さな電力ネットワークであっても供給者と需要家は分かれている。

個別分散システムでは、エネルギー供給機器(燃料電池)を需要家自らが所有するため、需要家のエネルギーに対する意識改革を引き起こし、省エネルギー意識が高まる効果を期待している。この効果の度合について具体的な数字を示すことはできないが、太陽光発電や家庭用ガスコージェネレーションの設置事例でも大きな省エネルギー効果は既に確認されている。

3-4 効果の試算一例

想定したモデル負荷において、従来型(電力系統+ガス)、オール電化、DESSモデル(個別分散システム)の3つのエネルギーシステムにおけるCO2排出量を比較した。

電気と熱の負荷としては、NEDO「定置用燃料電池の普及を目的としたエネルギー消費に関する調査 平成12年度調査報告書(2001年3月)」より、戸建住宅のデータを使用している(図-4)。また、各種機器の性能値としては、表-1の値を用いた。

比較の結果を図-5、図-6に示す。これらの図から分かるように、電力のCO2排出係数に火力平均係数を用いた場合には、DESSモデルのCO2排出量が最も少なくなるが、全電源平均係数を用いた場合には、逆にDESSモデルのCO2排出量が最も多くなる。

全電源平均の場合、DESSモデルとオール電化では20%のCO2排出量の開きがある。しかし、実際には導入段階ではそれほどの差は生じず、将来的にはDESSモデルが上回る性能を示す可能性が高いと考えている。その要因として3つ指摘しておきたい。

一つ目は、DESSモデルの試算では、燃料電池の平均発電効率を30%(HHV)としているため、これ以上の効率で運転できた場合に差が縮まるということだ。仮に、将来的に38%(HHV)以上の平均発電効率で運転することができれば、他の削減要素がなく、電力のCO2排出係数に全電源平均係数を用いても、DESSモデルのCO2排出量が最も少なくなる。

二つ目は、今回の試算では需給一体性の省エネ効果を見込んでいないことだ。今回の試算ではすべてのエネルギーシステムで同じ負荷を想定している。しかしながら、実際には、太陽光発電等で確認されているように、住民が発電設備を所有することによる省エネ意識向上の効果が期待できるため、DESSモデルでは電力や熱の負荷自体が削減されることによるCO2排出量の削減が期待できるはずである。

 三つ目は、新エネルギー由来の水素利用の可能性である。今回の試算では、燃料電池の燃料を都市ガスとしているが、将来的に新エネルギー由来の水素等が一部利用されることも想定できる。

CO2の排出係数に火力平均/全電源平均のどちらを用いるべきか、は色々な意見があると思うが、上記の3つの要因が多少ずつとも効果を上げることで、厳しい条件である全電源平均を用いた場合でもDESSモデルが優位性を示す可能性は高いと考えられる。

※CO2排出量の係数には、中央環境審議会地球環境部会目標達成シナリオ 小委員会中間取りまとめ(2001年7月)を利用

4.これまでの成果と今後の展開

4-1 これまでの成果

(1) ビジネスモデルの検討

電力融通の効果シミュレーション、経済性のシミュレーション、ビジネスモデルと現行法規制との整合性の確認、ネットワーク方法や制御ソフトウェアの基本条件の検討などを実施した。

(2) 特許開発状況

2003年度末までに33件の特許を出願(手続き中を含む。)し、そのうちの2件について特許登録がなされた。

4-2 今後の展開

今後の展開としては、次の4つを実施する。

(1) システムスペックの検討

システムスペックの検討としては、2004年度に2つを実施する。一つは、ネットワーク内における電力品質シミュレーションである。必要に応じて、簡単なモデルでの実機の運転確認試験(実機はガスエンジンを利用予定)も視野に入れている。もう一つは、制御ソフトウェアの仕様の整理である。特に、制御については、昨年度より多くのアイデアが出ていることから、その実現の可能性、導入効果も含めて検討する。

(2)サービスモデルの検討

サービスモデルの検討としては、顧客対象を絞り込んだ上で検討を行う。個別分散システムの考え方は、病院やオフィスビルのような業務用施設、工場などの産業系施設、また燃料電池以外の電源に対しても有効であると考えられるため、住宅だけに限定せず、こうした市場への適用も検討する。検討内容としては、サービスの内容、サービス提供者の確認、サービスの事業性の確認を中心とし、実際にサービスを提供した場合に顧客に受け入れられるかどうかについては、関係者へのテストマーケティングにより確認する。例えば、集合住宅のエネルギーシステムの場合、住宅の販売者となるディベロッパーとの意見を通じて確認する。

(3)特許プールの組成

特許については、昨年度末時点で33件の出願件数を今年度中に100件とすることを一つの目標としている。主として発明者を中心に、特許プールの運営方法を検討し、今年度末にはライセンス共同保有機構の立上げを目指す。

(4)マーケット開拓への取組み

上記の活動と並行して、実用化と事業環境整備を目指した活動を行う。ここで事業環境整備とは、ネットワークによりCO2削減の効果が得られた場合、現状ではそれをクレジット(環境価値)として取引できるような仕組みが存在していないため、取引の仕組みの構築に向けて政策提言を考えている。

5.おわりに

昨今、急速に水素エネルギーシステムや分散型エネルギーシステムへの取組みが加速してきていると感じている。COP3の国際公約、温室効果ガス6%削減の開始年度となる2008年が近づいていることもあって、エネルギーの相互融通(ネットワーク化)の新たな取組みが始まっている。詳細の部分でコンセプトやシステムに違いがあるが、目指している方向はDESSコンソーシアムと共通だ。こうした取組みは今後とも増えていってほしい。 DESSコンソーシアムは、2003年6月より2年間の活動を期限としてスタートした活動であり、今年度末をもって終了の予定である。終了までに検討すべきことはまだまだたくさん残されているが、分散型エネルギーシステムの一つの解として実現に足るものとなるよう関係者のお力を借りながら、益々活動に注力していく所存である。

 

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