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シーズをつかめ シンクタンクが提案する再生への処方せん
増え続ける更新需要に民間の知恵 公共は総合的な水政策を

出典:日刊建設工業新聞 2004年8月16日号

ダブルパンチを受ける水道経営

老朽施設の更新が最大の課題―。
日本総研が全国200の水道事業者を対象にアンケートを行ったところ、経営課題として回答が集中したのは更新問題だった。実際、多くの水道事業者が、耐用年数を超える配管網やポンプなどの機械設備を抱えている。厚生労働省も、現在の更新投資額が年間5000億円ほどであるのに対して、20年には年間7500億円程度が必要になると試算している。 設備の老朽化が進む一方で、人工の減少、節水意識の浸透、工場の海外移転などにより、水需要は減少の一途をたどっている。水需要が減れば、値上げしない限りは水道事業の収入も確実に減る。収入が減る中で、莫大(ばくだい)な費用のかかる更新をどのように行うか。その知恵が求められているのだが、現在の水道事業者の多くは、そこまで頭が回っていない。それどころか、水道事業の足もとに重大な問題が生じてすらいる。

水道サービスの質にも黄色信号

水道サービスの根幹は「安全な水をいつでも届ける」ことにある。しかし、安全な水を確保するための体制は必ずしも十分とは言えない面があるのも事実だ。水道法では、一定規模以上の水道事業者に対して厚生労働省が立ち入り検査を行うことを定めている。104事業者を対象に行われた02年度の立ち入り検査では、47事業者に対し115件もの文書指摘がなされた。その内容も、水質検査や水道施設管理など、水道の管理体制の不備に関する指摘が多い。既に対策が講じられたとされるが、水道にトラブルが生じた場合の影響の大きさを考えると、何とも心もとない。検査の対象にはならなかった小規模の水道事業者の技術基盤の不足はより深刻とも言われる。

技術問題を解決する第三者委託

技術的な問題に対しては、第三者委託の活用が有効な選択肢となる。02年に改正水道法が施行され、民間企業などの第三者が水道の技術にかかわる業務を責任を持って請け負える仕組み(いわゆる第三者委託)が導入できるようになった。厚生労働省の調査によると、既に20件の事例があり、うち10件は民間企業への第三者委託である。 第三者委託の導入により、群馬県太田市は約8%のコスト削減が期待できるとしている。加えて、品質の面でも、専門技術者の恒久活用、保守管理体制の強化など、水道の安全強化につながったと実感されているという。
第三者委託を行うことで、水道施設の管理体制は格段に向上する。なぜなら、民間企業が受託する場合、失敗すれば契約を解除されるというプレッシャーがあるからだ。民間企業は、契約解除とならないよう、管理体制の強化だけでなく、日常的な創意工夫にも力を入れる。この点が、水道事業者と民間企業の大きな違いといえる。

経営問題を解決する全面的な委託を

第三者委託は確かに有効な方法であるが、これだけでは、水道事業者にとって最大の課題である「老朽施設の更新」を解決することは難しい。そこで提案したいのは、施設更新も民間に任せるスキームである。民間企業には、海外での経験などにより更新にかかわるノウハウを蓄積しているところも少なくない。更新を含めた資本投資の計画立案や、施工業者との契約、設備の調達、資本調達なども含めて民間企業に委ねれば、民間企業のノウハウ発揮の余地は格段に広がる。水道事業の費用に占める設備投資の比率は高いので、水道事業の効率化の効果も大きい。さらに民間企業の役割を拡大し、水道経営の視点から様々な改善策を実施遂行できるスキームも考えられる。例えば、需要家に対する窓口サービスやコールセンターの運営なども民間企業に任せてもよい。公共団体たる水道事業者が行うべきだと考えられる水源の確保や供給地域の設定、料金決定、情報公開などを除き、すべての業務をまとめて民間企業に委ねる全面的な民活も考えられる。水道事業者の中には「どうやって水道でもうけるのか」という声もあるが、民間企業から見れば宝の山。浄水場で高度処理したおいしい水を高齢者に宅配するサービスなど、増収という観点から新たな展開も期待できよう。現在の水道マーケット(料金収入の合計額)は約3兆円強。民間に開放するインパクトは大きい。水道産業に民間投資を呼び込むことで、新しい技術やサービスの開発が活発になる可能性がある。市場として十分に成立しうると言えるだろう。

官民の役割分担を見直す時期

水道事業の多くを民間に委ねた場合、公共団体の役割はどうあるべきか。まずは、人々が安心して水道サービスの提供を受けられる環境を確実に整備することが第一だ。水道は生活に必要不可欠のインフラである。高い技術力とモラルのある企業を選び、業務遂行状況を監視することが、市民に対する責任であることを忘れてはならない。一方、水を巡る環境は大きく変化している。地域の水循環のあり方、水源開発のあり方、上下水の連携など、現在の縦割りの枠組みでは解決の難しい問題が山積している。「21世紀は水の世紀」と言われる。民間企業にもできる水道事業の実務は民間に任せ、地方を含む公共団体は、水にかかわるより高度な政策にその資源を投入することが求められている。

 

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