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特集 水素社会の実現を目指せ
技術開発が加速する水素ビジネス 燃料電池車への期待と課題

出典:月刊地球環境 2004年5月号

 

2002年12月、トヨタ自動車とホンダが首相官邸に納入し、燃料電池車の市場への投入がいよいよ始まった。実際には燃料電池車はまだまだ技術開発途上であるが、国際的にも技術開発と並行して安全基準を中心とした規格の見直しが図られるなど、急速に実用化・普及に向けた取り組みが進められている。ここでは、燃料電池車の実用化に向けて、その可能性への期待と現状の課題について述べる。

2020年には約1割が燃料電池車に

わが国では、燃料電池車の普及について2010年に5万台、2020年に500万台を目標として掲げている。国内の自動車保有台数が約7,000万台であるから、2020年にはその1割弱もの自動車が燃料電池車となる計算である。このように大きな目標が掲げられている背景には、ビジネスとしての魅力以上に燃料電池車の優れた環境性がある。自動車は今や生活に欠かせないものだが、一方で環境へ与える影響も大きい。まず、自動車に投入されているエネルギー量が莫大だ。わが国全体での最終エネルギー消費に占める運輸部門の割合は30%弱にも達しており、この大半が乗用車によるものである。エネルギーを消費することはそれだけ地球温暖化に寄与するということでもある。二酸化炭素(CO2)排出量を見ても、全体の22%が運輸部門から排出されている。
自動車による大気汚染問題も未だに解決できていない。窒素酸化物(NOX)や浮遊粒子状物質(SPM)の大気環境基準の達成状況は、全国的にみて芳しい状況とはいえない。技術の進展によって一台当たりの大気汚染物質の排出量は確実に削減されてきたが、一方で普及台数の急速な伸びが性能向上の効果を打ち消してしまっている。世界に目を転じれば事態はもっと深刻だ。というのも、これから中国をはじめとする途上国で本格的に自動車の普及が始まるからだ。途上国での自動車の普及が始まれば、化石燃料の大量消費、大気汚染、地球温暖化など地球規模での環境悪化が深刻化することは明らかである。自動車の保有人口は現在の約12%から、2020年には15%にまで増加することが見込まれている。2020年には人口は現在の約60億人から75億人程度にまで増加するから、自動車は7億台から11億台まで増加する計算だ。
新たな水素ステーションなどのインフラ整備にかかる環境負荷を考慮すればハイブリッド自動車の方が燃料電池車よりも環境負荷が小さい、という可能性も指摘されている。しかしながら、これは先進国側の事情に過ぎない。世界的な自動車の普及の流れを考えれば、燃料電池車の方がはるかに持続可能と言えるだろう。
(図1 省略)

販売価格とインフラ整備が課題

燃料電池車は、水素を燃料として空気中の酸素と反応させて走行するため、走行時に水しか排出しない。排ガスゼロのクリーンな自動車である。また、ガソリン車と比較して3倍も総合効率(燃料製造から自動車での利用まで)が良いというメリットもある。当面は、燃料電池車の燃料となる水素は、これまでのガソリンと同様に化石燃料由来のものとなることが想定されるが、総合効率が向上するだけ環境への影響を抑制できるのだ。また、燃料の水素は、長期的に見ればバイオマス、太陽光、風力、水力などの自然エネルギーから製造される可能性も高い。中東地域に偏在している石油に依存することなく、多様な燃料との接続が可能となる点も大きなメリットである。特に、自然エネルギー由来で水素を製造できれば、二酸化炭素の排出量は究極ゼロとすることも可能だ。
このように期待高まる燃料電池車であるが、一般販売に向けて難しい問題も抱えている。最大の課題は、販売価格だ。商品とするためには、環境性だけでなく販売価格も一定水準以下でなくては普及しない。当然のことながら、購入を考える際の基準となる価格は、現行の競合製品の価格である。燃料電池は携帯機器、家庭用電源など自動車用以外の用途も期待されているが、価格というハードルで見ると自動車が最も厳しい状況にある。(図2省略)というのも、”競合製品”であるガソリンエンジンの値段は、10万円~20万円程度と安いためだ。しかしながら、決して見通しがないわけではない。燃料電池車はまだやっと実用化に到達したばかりで、将来的には大量生産によるコストダウンも見込める。また、高価格の原因となっているスタックの自社開発への参入も相次いでおり、希少で高価な白金の使用量の削減などコストダウンに向けた技術開発が進められている。加えて、本体の車両が多少割高でも、燃料となる水素を安く供給できる可能性もあるなど、まだまだ価格面で検討すべき内容は残されている。2つ目の課題は、航続距離の延長とインフラ整備だ。水素はクリーンなエネルギーであるが、単位体積当たりのエネルギー密度が小さい。そのため、航続距離を確保するためには、いかに多くの水素を貯めるかということが重要となる。現在の最も有力な方法は、水素をタンクに圧縮貯蔵するもので、すでに実用化に最低限必要と見られる航続距離500Kmは達成している。一方、水素を大量に貯蔵するということは、当然それだけ高い圧力を必要とするということであり、安全性とトレードオフの関係にあるのも事実だ。事故時に大きな衝撃を伴う自動車の安全を如何に確保するのか、燃料電池車時代に対応した安全管理の基準が問われている。その上で、燃料電池車の普及には水素を供給できるインフラ(水素ステーション)の整備も進めていかなくてはならない。

自動車の概念を超えた付加価値の創造

燃料電池車の課題はまだまだ多いが、自動車の利便性を享受しながら持続可能な社会を築いていくためにも実用化への期待は高い。将来的には、燃料電池車がユーザーに対して、これまでの自動車の概念を超えた付加価値を創造する、という夢も描かれている。その一つが、燃料電池車に搭載された燃料電池による電力供給だ。家庭用電源として開発が進められているのは1kw程度の規模であるから、仮に50kwの燃料電池車が1台あれば、家庭の電力は十分賄える。特に家庭用の乗用車の稼働率は低く、ほとんどが駐車場に停車されている。そうであるならば、移動型電源としての利用の可能性は十分にある。燃料電池車実用化に向けた各種規制などの整備とともに、2010年普及に向けた開発メーカーの一層の努力に期待したい。

 

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