コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

メディア掲載・書籍

掲載情報

新たな発展「地方の時代」に道筋をつける
「構造改革第二期」の取組みへの視点 <第3回>

出典:旬刊 国税解説 速報VOL/44 第1619号

構造改革とアウトソーシングマーケット(2)


1 適切な競争環境づくり

前回、構造改革を進めるためには公共側の選択と集中の受け皿となる民間マーケットが不可欠であり、構造改革を背景とした民間マーケットへの要請がなければ優れた民間企業は育たない、といったように、改革と民間マーケットの間には表裏一体の関係があることを述べた。
また、その上で、公共サービスに関するオペレーションやマネジメントのノウハウを有した民間企業が育つためのマーケットの立ち上げや、民間事業者の創意工夫を評価するための仕組みが欠けている、と述べた。今回もこれに続いて、構造改革の受け皿となる民間マーケットを育成するための課題について述べることとする。

高付加価値マーケット

まず、信頼あるマーケットを創ろうとする以上、そこにどの程度の競争性を求めるかを考えなくてはいけない。これまで日本の入札制度では、サービスの質が公共側が設定する仕様等により担保されていることから、競争が強ければ強いほど価格が下がり、(質/投入コスト)によって表現される公共サービスの評価が向上すると考えられてきた。確かに、理論的には5社の中から選らばれた企業よりも10社の中から選ばれた企業の方が優れている可能性があることは否定できない。しかしながら、構造改革の受け皿となる付加価値の高いサービスを民間マーケットに求めようと思うほど、従来の考え方に固執することには問題がある。構造改革の受け皿となる付加価値のある民間マーケットに対しては、公正な範囲で、ある程度の協調が存在しえる適切な競争状態が望ましいと考える。海外のマーケットを見ても、毎度の入札で過剰な競争が行われているような状況があるとは思えない。
過剰な競争が望ましくないと言うのは、民間事業者のサービスの付加価値、言い換えれば高い専門性は、一定以上の仕事量の上に存在するからだ。上下水道事業を例に考えてみよう。上下水道の分野では世界中にいくつかの改革の方式がある。1つ目は、イギリスで行なわれた民営化である。最近、日本でも民営化に関する議論が盛んになっているが、事業を完全に民間に移転することが常に正しいわけではない。公共サービスは、それが行われている地域における独占的なサービスであるから、単純な民営化は独占企業を生むことにつながるからだ。
イギリスでも、これを管理するためにレギュレータと言われる機関が設立されたが、独占企業を監視することは容易ではない。日本の電力事業では、地域ごとの独占企業を国が管理してきたにもかかわらず、電気料金はアメリカの2、3倍と言われるレベルに高止まりし、経済界での過大な影響力をも許してしまった。アメリカやオーストラリアでは数年単位のアウトソーシングが行なわれている。民間事業者によるそれなりの自己責任により運営されているものの、機器等の更新が責任範囲外とされている。委託期間が短いことを前提とすれば契約的には合理的かもしれないが、資産の維持管理については問題をはらんでいる。資産の維持管理においては、日常的な維持管理コストと更新コストの最適化が大きなテーマであるからだ。両者の間には、片方を小さくするともう片方大きくなる、という逆相関の関係があるから、上述したアウトソーシングのスキームでは、民間事業者の責任において二つの要素の最適なバランスを追求することができない。こうした二つの事業方式の課題を克服するのが、フランスで行われているアフェルマージュと呼ばれる10年超えのアウトソーシングである。ここでは、民間事業者に資産の更新に関するリスクも移転し、民営化に近い責任を求める一方で、10~15年毎に競争的に事業者を決めるために、イギリス式の民営化の課題である独占の心配も少ない。そして、海外の上下水道マーケットでフランス企業が高い競争力を持っていることから見ても、この方式が優れた事業者を生み出すことにもつながっていると理解できる。フランス方式の課題は、既存施設に関する資産の更新という読み切れない要素を含むために、民間事業者に当該事業に関する高いノウハウと経験が要求されることだ。そして、高度なノウハウが要求される業務に耐え国際的にも高い競争力を有するフランスの企業は、国内を三分するという寡占市場から生まれている。以上は、付加価値の高いサービスを提供できる民間企業を育成するには個別企業ごとに相応の事業規模が必要である一方、市場の寡占化をいかに防ぐかという課題と取り組み続けなくてはならないことを意味している。

業務受託までのコスト管理

過剰な競争が望ましくないもう一つの理由として、業務を受託するまでに要するコストの問題がある。付加価値の高い業務はリスクを伴うから、受託までには十分な調査や検討が必要になるし、契約交渉も入念に行わなくてはならない。PFIなどでは、コンソーシアムの組成や金融機関との調整なども行なわなくてはならない。結果として、業務を受託するまでに、公共側が提示した図面に基づいた建設コストを算出するだけの請負工事とは比べ物にならない応札コストがかかる。仮に、常に10社が応札する10倍の競争市場があったとすると、10分の1の確率で受注した業務では応札までに要するコスト10回分を上乗せして回収しなくてはならないことになる。これまでの公共事業では、こうした応札にかかるコストの処理に関する考察が甘かった。そのことが、請負工事のマーケットにおいてすら、民間事業者間の相互補助の仕組みを生み、談合を助長したと理解している。民間事業者にかかるコストのことは民間事業者が考えればいい、というコストに対する甘い姿勢が、結局は歪んだマーケットとなって返ってきたので
ある。付加価値の高い業務を要求する新たなマーケットを創り出そうとするに当たって、こうした過去の経験に学ばなくてはいけない。構造改革の受け皿となるマーケットを創るに当たっては、業務を受託するに際し、厳しい資格要件を求めるなどして過剰な競争を排除した上で、競争は成立すればいい、という立場をとるべきである。これは、競争者を過度に増やすのではなく、事業者への信頼性を優先しようということでもある。理屈の上では、付加価値の高い業務を要求していけば、結果としてマーケットでの淘汰が進み適切な競争状態が実現するともいえる。しかしながら、建設市場などにおいては、これまでマーケットでの適切な淘汰をむしろ阻害するような動きもあったことから、成り行きだけに任せるのもどうかと思う。また、個別の公共団体においても、単に説明性を確保したいが故に、事業の特性も考えずに競争条件を緩和する例も見られる。構造改革の受け皿となり得るマーケットを創り上げるためには、付加価値の高い業務は十分な信頼性のある事業者に任せるという姿勢を徹底することが重要だ。

2 雇用問題への対処


人材確保の長期計画

適切な競争環境に続いて指摘したいのは、公共団体職員の雇用に関する問題だ。
付加価値のあるアウトソーシングを阻んでいる最も大きな原因の1つは、対象となる業務に関わっている公共側職員が存在することである。その仕事を奪うことはできない、という理由でアウトソーシングに「待った」がかかる例は多い。海外でアウトソーシングが進んだことに関して、日本とは就業に関する意識が違う、という指摘がなされることがあるが、慣れ親しんできた職場を離れることを軽々に捉えている国はない。いかなる国でも、雇用は大きな問題として捉えた上で、様々な工夫と厳しい判断を経て改革が進められているのだ。それをお国柄のせいにするのは、現状からの逃避に過ぎない。民間への業務のアウトソーシングは、必ずしも現状対象業務で働いている公共側職員の仕事を奪うことを意味しない。海外のアウトソーシングでも、公共側職員を民間事業者が受け入れるなどして雇用は確保している。アウトソーシングに伴って、ドライなリストラが行なわれたという例は少数派ではないのか。民間事業者が公共側職員を受け入れた例を見ると、2つのことが見て取れる。一つは、民間事業者が当該職員に対して従来と同等以上の雇用条件を提示して移転のインセンティブを作っていることである。今ひとつは、効率化は、過剰となった人材に他の活躍の場を与えることで吸収していることだ。これも、競争力のある民間事業者が育成されていることの効果といえる。つまり、できるだけ雇用を尊重した上で、効率化を実現するために、対象となっている業務だけでなく民間事業者の権限が及ぶ広い範囲での雇用を考えている、ということだ。自治体のように活動範囲が限定されている公共団体には、期待できない取り組みである。日本でアウトソーシングや民営化を行なう場合に問題なのは、前述したような工夫や民間事業者の能力の活用を図る余地がないことだ。数年前に行なわれた郵政民営化の時の議論、あるいは首長がPFIを検討すると言った際などに行なわれる現場からの不合理な反対論など、雇用に関する特殊な感情が適切な構造改革を阻んでいる面がある。
民間企業では、企業が機器に陥れば、よりどころとなる企業を立て直すことが第一義だから、厳しいリストラ策にも一方的な反対はできない。現状の日本の公共団体の財政状況は、経常収支比率を見ても、長期債務残高を見ても、民間企業であれば破綻している状況である。それでも破綻しないのは、日本という国に対する信用力に寄りかかっているからに過ぎない。しかしながら、国であっても無限の信用があるわけではない。国の信用が保たれている間に、感情が先にたった議論を廃し、危機意識を共有した取り組みを図ることが重要だ。一方、現状の雇用意識を前提とした方策が無い訳ではない。公共サービスのアウトソーシングに関する公共団体の意見は概ね2つに集約される。効率化は必要だが雇用などの問題もあり、今すぐ実行することは難しい。しかしながら仮に10年先を考えると、現在現場の業務を支えている職員の退職などで公共団体だけでは業務を支えられなくなる、ということだ。元来、日本の公共団体は自前主義で公共サービスを提供してきたし、公共サービスに関する制度もそれを前提にできている。ところが、日本経済が頭打ちになってからというもの、特に技術系の職員は十分に採用できていない。民間企業ならば、現場技術の継承のために、早期退職などを実行する傍ら技術の核となる人材が途切れないようにするものだが、長期的な人材の担保が行なえていない公共団体は少なくない。そこで、上述した二つの理解を結ぶアウトソーシングの考え方が有効になる。今、公共側の職員で支えている施設管理等の業務があり、現時点では雇用等の問題からアウトソーシングを躊躇している事業があったとしよう。ここで、当面は、施設の維持管理等の業務を民間に委託し、人員については公共団体で不足している部分を民間企業が補填する。その上で、官民で長期的な人材確保の計画を合意し、公共側の人員が不足する分だけ徐々に民間の人員を増やしていけば、10年かけて民間事業者への業務の移転を終える、というシナリオが成り立つ。民間事業者に単なる下請けとしての業務だけでなく、業務の効率化などのミッションを与えることにより、公共側の業務内容についても一定のベンチマークを確保することができる。また、人員計画などに基づいて長期的な業務の目標も共有できるので、効率化には効果があるはずだ。契約期間内における官民の管理責任や役割分担、あるいは民間事業者のインセンティブの構造などを充分に検討した上で契約書に明記するなどの配慮が必要であるが、可能性のある方法といえる。また、多少変則的な方法であっても、同じような契約がいくつも出てくるようになれば、これはこれで一つのマーケットになりえる。マーケットを創る、という意味では、本格的なアウトソーシングが例外的に行なわれるよりは効果があるかもしれない。ただし、問題先送りの傾向のある対処方法であることは否めないから、民間移転の計画なしに随意契約などで業務委託を続けているよりもまし、という理解による次善の策と考えるべきであろう。

国のリーダーシップ

構造改革の受け皿となる民間マーケットを創るために、公共側の雇用問題にどのように対処すべきかは、避けて通れないテーマであるが、個別の公共団体の判断だけで雇用に関する大きなトレンドを創ることは難しい。公共団体の改革の方向性を明示することと合わせて、国がリーダーシップを取るべき問題でもある。
今回は、民間マーケットを立ち上げるための視点として、適切な競争環境の整備と、公共側の雇用の扱いについて述べた。特に、後者については公共団体の組織そのものに大きな影響を与える課題である。民間マーケットの育成をテーマに論じていると、マーケット育成のために公共団体に身を切るような改革を求めるのは本末転倒、という意見が出るかもしれない。繰り返しになるが、民間でできることは民間に、というポリシーで改革を進めていくためには、優良な民間マーケットの存在が不可欠である。民間移転に関する全ての議論はこの点を忘れずに行なわれなくてはならない。それが、単に公共団体の構造のみならず、日本の社会構造そのものを改革することにつながるのである。次回は、これまで論じてきた視点を踏まえて、立ち上がるであろう民間マーケットをいかに公正で効率的なものにするかをテーマに論じていきたい。(次回へ続く)

 

メディア掲載・書籍
メディア掲載
書籍