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自治体におけるアウトソーシング導入のポイント 第6回 

出典:地方財務 2003年11月号

病院事業におけるアウトソーシング

1 何故、病院事業のアウトソーシングか

病院事業は官民のサービスが共存する分野である。しかしながら、規模別の分布を見ると大型の病院になるほど公立病院の占める割合が高くなっており、高度医療における公立病院の役割が大きいことが分かる。そして、構造改革の中で官から民への流れが重視されているとはいえ、数ある公立病院が次々と民営化されるという訳でもない。雇用問題に加えて、公立病院が担っている地域の中核病院としての機能をただちに民間に移転できる、とはいえない面があるからだ。
一方、公立病院の経営を効率化することの意義は大きい。自治体の人に財政負担の重い公共サービスは何かを問うた場合、病院事業と指摘する声は少なくない。公立病院の表面的な収支以上に、自治体から資金的な補填を受けている病院は多い。一方で、高齢化などにより医療に対するニーズがますます高まる中、自治体としても公的な医療サービスの質を下げることは難しい。厳しい財政状況下でいかに少ない負担で医療サービスの質を維持ないし向上していくかが問われている。その際、アウトソーシングは効率化のための重要な方策となる。つまり、病院事業に関わるアウトソーシングの第一の目的は効率化ということができる。
公立病院の事業でアウトソーシングが必要な二つ目の理由は、病院経営においては外部機関に依存せざる得ない業務が多いからだ。公立病院の経営は実に多くの要素の業務で成り立っている。大規模な施設の維持管理、医療関連サービス、エネルギー、最近ではIT等々、全ての業務を内部だけで賄うのは現実的ではないのが公立病院である。そこで、実際に何らかの形でアウトソーシングが行われているケースが多いのだが、必ずしも効果的なアウトソーシングとなっていない可能性もある。そこで、どうせやるなら、公立病院の経営にとって最も望ましいアウトソーシングとは何か、ということを考える価値がある。
その意味で、三つ目は、アウトソーシングが単にその対象となる業務の効率化のみならず、公立病院の経営改革に結びつくことだ。公立病院の運営に民間企業のような経営観念の導入が必要である、との指摘は少なくない。そこで、数ある業務を個別に委託するのではなく、できるだけ広く民間事業者にアウトソーシングすることで、公立病院の経営観念を高めることができる。また、これによって公共側は病院事業のコア業務である医療サービスの提供に注力できる、という集中と選択が可能となり、財政が逼迫する中で、質の高い医療サービスを実現することができるのである。

2 PFIの普及

公立病院のアウトソーシングに関連して昨今最も注目されているのは、この分野でPFI(Private Finance Initiative)が普及しようとしていることだ。公立病院の分野において日本で初のPFI事業となったのは、高知県高知市による高知医療センターである。これに間髪を要れずに実施された近江八幡市の病院事業のPFIも実質的に同分野での初の試みと考えていい。また、本格的な施設建設を伴わないため前の2つの事例と性格を異にするが、大阪府の八尾市でも病院業務における包括的なアウトソーシングが行なわれた。こうした実績を背景に、今全国で公立病院のPFI事業に関する関心が急速に高まっている。
PFIは既に実施方針を公表した事業が100を超え、全国的に普及している。1999年にPFI法が成立してから2002年度までに実施方針が公表された事業の数と、2003年度の上期に実施方針が公表された事業の数を比べると、最近になって普及の速度が増していることが分かる。日本のPFIは現在、イギリスで1992年の正式導入から数年経ってから普及が加速したのと同じような状況にある。
しかしながら、日本のPFIについては、運営維持管理の比率が低い単なる建物の割賦販売的な、いわゆる「箱モノ」事業が多く、民間事業者がサービス等の面で能力を発揮できる事業が少ないとされてきた。それに対して、病院事業のPFIは運営維持管理の割合が極めて多い上、高い運営能力が求められることから、これまでのPFI事業とは事業の質が違う。
先行している事業を見ると、病院事業のPFIには次のような項目が含まれる。

・建物の整備、維持管理
・医療関連事務
・医療関連サービス
・医療関連機器の整備、維持管理
・調達業務
・エネルギー調達
・病院統合情報システム

項目だけを見ても極めて多岐にわたる業務が含まれるが、ここで重要になるのは、各々の業務について求められる委託の構造が違うことだ。また、病院事業のPFIは、一つの施設の中で官民が協力し合いながら、顧客に対してサービスを提供する協働事業であることも重要だ。他の業務でも、公共側が施設の利用者となり、民間事業者は黒子に徹して公共側に業務環境を提供する、といった構造はあるが、病院事業における官民の関係はより複雑な構造をしている。
例えば、医薬の調達や医療機器の維持管理等における民間事業者の役割は、公共側が医療サービスを行なうための環境を整備することであるが、給食サービスでは顧客に直接接するサービスを行なう。また、あらゆる業務の仕様について医療サービスの実施者である公共側の意向を重視しなくてはならない一方で、民間事業者には専門的な知見をもって効率的かつ質の高い医療サービスを誘導する機能も期待される。単なる委託ではなく、官民の双方向的な知見のやりとりがあって始めて機能するのが病院PFI事業であるといえる。以下では、日本ではアウトソーシングに対してPFIが先行したこともあり、病院事業にとっての戦略的アウトソーシングを考えるに当たっては、先行するPFI事業をベンチマークとすることにしたい。そこでまず先行する事業に基づいて業務項目ごとに特徴を示していく。

3 個別業務の特徴

病院の建物に対しては、いかに運営と一体となった効率化と付加価値を実現できるかが問われる。病院施設は求められる機能、設備が多いことから、事務所等他の施設に比べて単価が高い。ここで実際に運営する立場に立って、仕様をどの程度効率化できるか、あるいは必要とされる機能をどれだけ効率的に配置できるか、によって施設整備に要する費用は大きく違ってくる。設備面での維持管理や更新の必要性も比較的高いため、設計によって維持管理費にも違いが出てくる。また、同様に顧客にとって良いサービスを提供し、使い勝手の良い施設を実現できるかどうかも運営と一体となった設計ができるかどうかが大きく影響する。
こうした観点から、病院施設の整備については、医療サービスを提供する公共側が施設利用者としての要求をできるだけ明確にした上で、効率的で質の高い施設を実現するための仕様に関しては民間事業者の創意工夫に委ねる、といった構造になる。事業構造としてはいわゆるデザイン・ビルドと言われるスタイルだが、運営と設計を一体にするために通常の事業に比べて、より活発で双方向的な官民のやりとりが求められる。ここで、施設整備に関するコストを公共側が長期間にわたって返済していく形をとるのであれば、PFIということになる。
2番目は、病院施設の維持管理であるが、PFI事業では建物の維持管理が長期の契約の中に含まれるのが一般的である。しかしながら、病院事業に限らず一般の建築物の維持管理更新を長期間1つの民間事業者に委託することの根拠は明確ではない。廃棄物処理施設のように、比較的耐用年数が短く事業期間内に維持管理費が高騰する事業では長期間委託することのメリットがあるが、一般の建築物ではそうはいかない。したがって、長期の支払いを伴うPFIならまだしも、既存の建物を対象とした場合に20年を超えるような長期の委託をすることは考えられない。既存の一般建築物に関しては、数年程度の維持管理業務を繰り返し、更新業務は別途発注とするなど先行するPFI事業とは一線を画した事業スタイルが妥当だろう。
建築物の建設後ある程度の期間、建設を行なった事業者が自らの手で施設を維持管理した方が責任を明確にできるが、このように委託期間を中期に分けても建築物の状態を評価することは可能である。一般の建築物については、公共機関も技術的な人材を抱えているし、設計会社、コンサルティング会社といった民間機関あるいは大学等にも第三者として客観的に評価できる機能があるからだ。
3番目は、医療関連の事務やサービスである。医療事務や政令で定められた医療関連サービスを既に民間事業者に委託している病院は多い。したがって、PFIはこうした従来のアウトソーシングを一括して、しかも長期に委託する試みであるといえる。ここで重要な点は、必ずしも実際に専門的な業務を行なう事業者が公共団体と長期の契約を締結するわけではないことだ。前述した業務を行なっている民間事業者がPFIや包括的なアウトソーシングに含まれる他の業務を実施するための能力を備えているわけではないし、全ての事業者が長期間の委託に耐えられる訳ではないからだ。つまり、こうした専門サービスのアウトソーシングに求められているのは、それに関わる業務を自ら実施することではなく、これらを実施する事業者を長期間確保して病院側に提供することである。専門サービスそれ自体の実施ではなく、専門サービスの長期間の包括的調達能力が求められるといってもいい。
4番目は、医療関連機器の整備、維持管理である。ここでの特徴は、どのような機器を調達すべきかは、医療サービスを行なう病院側のニーズに基づくことだ。医療機器はあくまで医療サービスを提供するための道具であるから、医療側がどのような意向で医療機器を使うかによって調達すべき医療機器の仕様は変わってくる。一方で、民間事業者の調達能力をもって、できるだけ効率的に調達したい。という我がままな条件が求められるのが、医療機器の整備、維持管理に関するアウトソーシングである。民間事業者には病院側の意向を受けながら、使い勝手が良く合理的な価格の機器を提案でき、これを効率的に調達できる能力が求められている。
ここで問題になるのは医療機器の所有の方法である。民間事業者が調達リスクを負い、病院側が求める医療機器の利用環境を提供する、という立場に立てば、民間事業者が医療機器を所有し、病院側が支払う使用料をもって調達コストに充当していくことになる。しかしながら、こうすると医療機器に関する投下資金が完全に返済されるまで病院側のニーズで機器を変更することに制約が生じる、民間事業者は病院側の意向に左右されながらも維持管理コスト等を含めたリスクを負わなくてはいけない、民間事業者のリスクを合理的なものとするためには病院側は自らが使いたい機器を指定しきれないことがある、等の問題点がある。
将来的にはこれらを割り切って、公共側の要求した基本条件を満たしている以上、民間事業者が用意した業務環境の中で医療サービスを提供する、といった考え方が有り得るが現段階で必ず受け入れられる、という状況にはない。そこで取られているのが、民間事業者は公共側の求める機器の調達を手配し、公共側が機器を所有する、といった契約形態だ。維持管理のためのコストも調達と同時に条件を定めることで公共側が負うことができる。この場合、民間事業者に支払われるのは調達手数料ということになるから、民間事業者への支払いは公共側が自ら手配した場合のコストから手配するために要したコストを引いたものより小さくなければいけない。
5番目は、医薬を中心とした調達業務である。ある程度以上の期間の委託を考えた場合、こうした品目を調達するためのコストは施設整備コストより大きくなる。これを効率化できれば、病院経営に資するところは大きい。しかしながら、どのような医薬を使うかは医療機器以上に医療側の専管事項であるため、民間事業者がとれるリスクは医療機器以上に限られてくる。前述したように、医療機器については将来的に民間事業者が整備した環境を病院側が利用料金を支払いながら使うことはあり得るが、どのような医薬を使うかは最後まで医療側の意向を反映したものとなろう。もちろん、優れた医薬をアドバイスする、等の役割は有効だが、何を使うかの最終的な決定は医療側が行なうことになる。
したがって、アウトソーシングの仕組みは医療機器と同様、公共側の意向にしたがって調達を手配し、公共側が調達コストを負担した上で民間事業者は調達手数料を受け取る、という形態になろう。
6番目は、エネルギーの調達である。巨大な施設と数多くの機器を管理する病院はエネルギーのヘビーユーザーである。これを効率化できれば、医療サービスの質を全く落とすことなく経営効率を上げることができる。民間事業者が行なうべきことはいくつも考えられる。既存の施設であれば、ESCOサービス(ESCO: Energy Service Company施設を所有する顧客に対して、省エネルギーの提案を行い、自らのリスクにおいて省エネ投資を行なう。ESCO事業者に対する支払いは省エネによって得られるコストダウンの範囲内となる)によって、既存施設の省エネルギー及びコストダウンを図ることが考えられる。新設であれば、省エネルギーを踏まえた施設を設計し、事業計画を策定し、効率化につなげることができる。
エネルギーに関わるアウトソーシングの可能性はこれだけではない。日本では1995年以来電力の自由化が進み、これまでにはなかった様々な可能性が出ているからだ。例えば、大規模病院の電力は既に大手電力会社から買わずに、入札によって調達することができる。また、電力と並んで熱のヘビーユーザーである病院にはコージェネレーション(発電に伴い、電力と並行して熱を供給する仕組み)が有効であるが、この分野では既に多くの民間事業者が効率的なサービスを提供している。また、これからは電力の取引市場が整備されるので、市場から最も有利な電力を調達することもできる。エネルギーについては、こうした新しい手段を考えるのと考えないのでは、年間億近いコストの差が出てくると考えられる。なお、エネルギー分野でのアウトソーシングについて本連載の中で改めて詳細に取り上げる。
最後は、ITである。昨今、大手病院には電子カルテを始めとする高度情報基盤が整備されることが多い。高度なITを装備することにより、事務手続きの確実性や顧客への説明性が向上する、待ち時間が短縮する、などにより病院サービスの質が向上するだけでなく、病院経営の効率化を図ることができる。そして、殆どの病院にとって高度なITを自らの手で整備運用していくことは難しい。ここにITのアウトソーシングに対するニーズがある。しかしながら、ITについては技術面で特定の民間事業者への依存度が大きいこと、契約構造が難しいこと、から適切な形でアウトソーシングが行われている例は稀である。
ITのアウトソーシングについても本連載で改めて詳述するが、技術の進歩が著しく、また、発注者側の全てのニーズを前もって伝えることが難しい上、病院ではシステムの改正が日常的に必要、ということもあり、単純なアウトソーシング契約では病院側に大きなリスクが発生する。こうした点もあり、PFIの先行事業である高知医療センターの事業ではITをPFI事業の範囲から外しているが、PFIが長期の契約を前提としている以上、現時点では妥当な選択といえる。

4 病院事業のアウトソーシングに関わるポイント

以上、先行するPFI事業をベースとして、病院のアウトソーシングに関わる業務項目と各々の要点について示したが、紙面も限られているので、ここで病院のアウトソーシングに関わる重要と思われる点を2点示しておきたい。
1つは、アウトソーシングの範囲である。PFI事業では先に述べた業務の殆どないしは全てを抱合しているが、病院のアウトソーシングが常に包括的な形で行なわれなくてはいけない、ということではない。何よりも実効的な効果をできるだけ早い段階で出すことが必要だからだ。その意味で、例えば、エネルギー面でのアウトソーシングなどは、軋轢も比較的なく、業務改革を前提とするわけでもないので比較的容易に実行できる上、確実な効果が得られる。包括的なアウトソーシングに何年もの検討を要する可能性がある場合、まずはこうした実効性のあるところからスタートした方が実務的ともいえる。改革はスピードが命であることは、公共団体のアウトソーシングにおいても真理である。
もう1つ言えるのは、包括的なアウトソーシングには常に部分最適化との相反という課題がつきまとうからだ。例えば、包括的なアウトソーシングを行なった場合、エネルギーに関して最も有効なサービスを提供できる事業者が、医療関連サービスにおいて最も高いレベルのサービスを提供できるわけではない。理論的には、全てのサービスにおいて最も優れた事業者を選択する方が効率的である、という要素還元的な考えを完全に否定することはできない。逆にいうと、病院事業における包括的なアウトソーシングとは、個別に最適な事業者を選択することに拘り失いがちな業務全体のバランスや業務間での相乗効果を期待できる場合に用いる。ということでもある。この点を十分に検討せずに、多くの業務を包括的にアウトソーシングすることが必ず病院経営にとって最適である訳ではない。
病院のアウトソーシングについて、もう1つ指摘できることは、最も重要なのは病院としてのマネジメント機能をいかに確保するかである、ということだ。例えば、前述した包括的なアウトソーシングを行なうか否か、は民間事業者にどれだけのマネジメント機能を期待するかにかかっている。部分最適化の機会を放棄し、包括的なアウトソーシングを行なうことは、民間に多くの業務の運営に関わる全体性の向上や相乗効果の発揮を期待しているに他ならない。仮に、病院側に相当なマネジメント機能がある場合は、アウトソーシングはある程度のブロックに分割した方が、1つ1つのブロックの効率性を高められる可能性もある。
これは、病院のアウトソーシングを行なう場合には、病院側が自らどの程度のマネジメント機能を持とうとしているかを明確にしなくてはいけないことを意味している。病院事業のように多くの業務を含む場合、PFIや包括的なアウトソーシングを行なわずに、病院側として優秀なマネジメントスタッフを確保した上で、いくつかのブロックに分けてアウトソーシングを行い経営効率化を図る方向を選択することも十分に考えられるのである。施設の新規整備を前提としたPFIの事業形態を踏襲してアウトソーシングの形態を考えることは施設整備に関わる事業スキームに議論が引っ張られる危険性があることを知っておかなくてはいけない。
個人的には病院事業のPFIにしても、施設の整備、維持管理は他の業務の別枠とした方が理想的な事業形態を検討し易いと考える。例えば、施設建設というテーマがない場合、医療関連サービスに関わるアウトソーシングを20年、30年の期間で行なおうとする人は稀だろうし、ITでは近年、過度に長い契約期間は避け、5~7年程度が適当、とする考え方が主流である。
このように病院のアウトソーシングは医療サービスというコアが公共側にある以上、公共側がどのような病院経営を行うか、が全ての前提になる、という意味でこれまでのPFIやアウトソーシングが適用されてきた他の事業とはかなり状況が異なる。しかし、だからこそ事業経営に根ざした本格的なアウトソーシングが求められてもいるのである。

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