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環境自治体連載「水の世紀に向けて」(中)
-人口減少時代に対応できる分散システムへ舵を切れ-

出典:環境自治体 2003年6月号

人口の減少と都市集中により、水道のネットワークインフラは、稼働率の低い不良資産を抱えることになる可能性が高い。これからの時代に備えて、新しい水供給システムを構築する必要がある。人口の低い周辺地域への、分散システムの導入である。膜処理等の最新水処理技術と、インターネットを用いたモニタリングシステムを活用すれば、分散型の水供給は実現可能である。さらに、分散システムは、新たな水サービスを生み出す可能性も持っている。

人口減少が始まる

国立社会保障・人口問題研究所が平成14年1月に行った試算によると、将来の日本の総人口は、2006年をピークに減少する見込みとなっている。中位推計に基づくと、2050年にはピーク時から2割程度減少するとなっており、これは1970年頃の水準に相当する。
人口の減少は、これまで日本社会に適用され成功してきた様々の社会の仕組みを変える可能性がある。というのは、従来の仕組みは、人口、そして経済の右肩上がりを前提として組み立てられてきたからである。
このことは、生活や産業に欠かせないインフラでも同様である。水道施設についても、今後人口が減少するという状況の中では、今の仕組みは維持できない可能性が高い。



(出典:国立社会保障・人口問題研究所)

従来の水道施設整備の前提

これまでの水道施設の整備の考え方は、2つの条件を前提に成り立ってきた。
第1の条件が、人口の増加及び居住地域の拡大である。人口が継続的に増加し、居住地域が拡大し続けることを前提とすれば、配水管等のネットワークインフラに先行的に投資しても、それが不稼動資産となることはなかった。
第2の条件が、経済の成長である。経済が成長すれば水需要も増え、水道事業の収入が増える。収入が増えれば、ネットワークインフラへの先行投資の負担も相対的に軽くなる。
こうした2つの観点から、先行投資によりネットワークインフラを整備することは、経済的にも理にかなっていたのである。

崩れる前提条件

しかし、ここへきてこの前提が崩れつつあるのだ。
まず、そもそも人口が増加しない。減少が始まる。これは日本の全人口ベースの問題であるが、地域によっては既に人口の減少に直面している。その要因は、人口減少と同時に進む人口の都市部への集中である。
例えば、既に県の第2、第3レベルの都市においては、県庁所在地クラスへの人口移動が始まっている。このため、地方の人口10万人クラスの自治体においては、人口減少は現実の問題となり、実際に人口密度の低下によるインフラ稼働率の低下に直面している。
県庁所在地クラスの自治体も、一方で五大都市圏等への人口移動という問題を抱える。そして、東京への一極集中も同時に進んでいる。
人口の減少と一部地域への人口の集中は、周辺部分におけるネットワークインフラの稼働率を低下させ、最悪の場合は不稼動資産となる。稼働率が低下すれば、それは不良資産となって、水道経営の重荷となってくる。なぜなら、ネットワークインフラにも維持管理コストがかかるからである。特に、今後は配水管の更新投資の時期を迎える自治体が多い。更新投資のために多額の起債をしても、インフラが使用されなくなるのであれば、その回収は極めて難しくなる。
借金をしてそれを後世代に転嫁することが可能な時代も、既に終わりを告げている。人口が減少すれば、今の世代が負担するより、将来世代が負担する方が重荷になる。これからは、如何にして必要な投資を絞り込むか、リスクのある投資を回避するかが重要になってくるのである。 

人口減少に適合する分散システム

それでは、これからのネットワークインフラはどうあるべきだろうか。1つの方向として、分散システムを導入するという考え方がある。すなわち、人口の減少や低密度化が進む地域において、固定的で回収期間が長期にわたるネットワークインフラへの投資をやめ、需要場所において必要なだけ水を作るシステムを導入するという考え方である。
以前はそのようなシステムを導入することは技術的に不可能と考えられてきた。飲料水を製造することのできるコンパクトで信頼性の高い浄水設備がなかったためである。
しかし、最近、膜処理技術が次々と実用化され、状況が変わってきた。通常の浄水場においては、凝集材等により浮遊物質等を沈殿、除去した後に、塩素等による消毒をもって終了する。しかし、これでは最近問題となっているクリプトスポリジウム等を除去できない。そこで注目されているのが、この膜処理技術である。微細な穴をもつ特殊な膜により、ウイルス等をシャットアウトする技術であり、各処理場への導入が検討されている。しかし、膜処理技術は、従来の浄水設備と異なり、規模のメリットはほとんど働かない。また、メンテナンスも非常に簡単である。そのため、需要家サイドで必要な規模だけで導入することも可能なのである。
水源さえ確保できれば、膜処理技術を活用することで、浄水場やネットワークインフラに頼らない、独立型の水道システムを構築することができるのである。

分散システムの具体イメージ

膜処理を利用した分散システムの具体イメージは、図のようになる。水源、貯水槽、膜処理やフィルター等の上水供給部分、汚水をためて処理する浄化槽、水質や水量を監視、管理するモニタリングシステムから構成される。
このうち、上水供給部分について、まず水源が必要である。雨水、地下水等を活用することが考えられるが、それで足りない場合、浄化槽からの処理水を再利用する系統を設けたり、バックアップ体制を確実に整えたりする等、ライフラインである水の供給が途切れないようにする仕組みが必要である。実際に供給する水については、全て膜処理まで行う必要はない。需要家の用途に応じた処理を行えばよい。飲料水は安全性第一の処理を行うが、その他は簡易な処理にして、コストを削減することが考えられる。
使用後の汚水の処理については、既に合併処理浄化槽のような技術が開発されており、分散処理が可能である。処理後の水は再利用系統に回してリサイクルすることが考えられる。また、地層によっては、地下浸透により地層を利用した浄化を行い、地下水を一定に保ちながら取水するということも考えられる。下水道を含む地域での汚水処理施設が整備されている地域であれば、それを利用することも考えられる。
最後にモニタリングシステムとなるが、これは分散システムを安全確実に運用する上で極めて重要な部分である。具体的には、水質・水量の監視システムを導入し、インターネットを活用した監視体制を敷く。万が一水質の異常が生じた場合には、緊急連絡や水供給の停止等を遠隔操作で行うことができるようにする。水量についても、一定量を下回った場合に緊急の水バックアップを行うことができるようにする。バックアップの方法については、水道の配水管との連結を残しておき緊急時のみ送水する方法や、ロータリー等により水を運搬する方法等が考えられる。

 こうしたシステムを導入するにあたって検討すべき課題は、大きく2つある。第1にセキュリティの問題である。水質・水量のモニタリングシステムが機能するかどうか、停電等の要因が重なっても安全性に問題は生じないか、水が不足した場合のバックアップは実施可能か等である。
第2に経済性の問題である。分散型のシステムを入れるとなると、一定の投資が必要になる。しかし、市街地から遠く人口も少ない地域に配管を通すやり方は、数10年単位を見越した場合に負担もリスクも大きい。分散システム導入にあたっては、配水管の維持管理コストも含めた将来のコストを勘案して対象地域を選定する必要がある。



分散システム導入のビジネスモデル

では、こうした分散システムを導入しようとした場合に、どのようなスキームが考えられるだろうか。
現在の水道事業においては、自治体が供給責任を負った形で水道事業を営んでいる。この仕組みを前提とすれば、水道事業者が分散システムのサプライヤーから設備を調達し、管理運営を行う方法が考えられる。しかし、分散システムの管理運営には個別のノウハウが必要になると考えられるため、外部委託する方が望ましいと考えられる。
この場合の委託の方式としては、大きく2つ考えられる。
第1は、分散システムの導入対象となる需要家のみを対象に、委託する方式である。この場合は、水道事業者において、分散システムの方が経済的である地域を特定した上で、配水管の更新時期等にあわせて、対象域内の分散システムの設置と長期にわたる管理運営を委託するというものである。契約期間は、分散システムの耐用年数にあわせて決定すればよい。
第2は、当該水道事業体の供給区域内の水道供給を全面的に委託し、その中で受託者の判断において分散システムの導入を行う方式である。この場合は、受託者が分散による経済性が高い地域を検討し、自らのリスクで分散システムの導入を進める。当然、長期にわたる事業期間が前提となる。
両方式における委託費については、水道事業者が委託会社に支払う方式が一般的と考えられる。また、地方自治法が改正され、管理委託が可能となれば、委託会社に料金の収受権を付与し、自ら費用を回収するモデルも考えられる。
分散システムの導入は、単なる設備や技術の開発のみならず、新たな水道事業のビジネスモデル、さらには、モニタリングや水のバックアップ等の関連サービスを生み出すことにつながる。また、こうしたシステムや関連サービスのノウハウを、水問題に苦しむ海外に輸出することで、世界の水問題に貢献することも可能になると期待される。

水サービスの時代へ

人口が減少する21世紀においては、大型インフラではなく、小回りのきく分散インフラが主役になる。既に電力分野では、マイクロガスタービンや燃料電池を用いた分散電源システムが、じわじわと浸透しつつある。
水道分野でも、膜処理技術の登場が、分散システムを後押しする。また、水道法の改正を始めとする規制緩和も、さらに進展する。そうなれば、水道事業の自由度は格段に増し、様々のサービスの余地が生まれてくる。
従来の水道事業においては、飲用に適した高品質の水を「いつでも」「どこへでも」供給するというコンセプトのもと、単一的なサービスが提供されてきた。今後は、個別需要家のニーズや状況に応じて、多様なサービスを提供し、効率的にマネジメントする時代になる。分散システムの導入は、人口減少時代の新しい水供給システムであると同時に、需要家への多様な水サービス時代のトリガーになる可能性も期待される。

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