コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

メディア掲載・書籍

掲載情報

産学連携の時代

金子直哉

出典:専門誌 2002年1月号

消費者主権の市場

企業の研究領域が狭まっている。
市場構造が「生産者主権」から 「消費者主権」に変わったためだ。かつては、千三社がいいモノを つくれば、同一商品を大量に売れる時代だった。しかし、今は消費者が モノを選ぶ時代であり、その結果、市場ニーズが多様化し、変化の速度を 増している。 このため、企業の研究環境も大きく変化した。製品開発に使える期間が短 くなる一方、製品が陳腐化する速度が速くなってきている。 
1998年に経済団体連合会がまとめたた報告書によれば、ここ10年で全事業 分野平均の開発リードタイムは4.3年から3年に、製品ライフサイクルは11.1 年から8.1年に短縮されている。 こうした時代では「多様化する消費者ニーズに迅速に応えながら、未来の 新たな競争力を創り出していく」ために企業はどうすればいいのか。 その答えとして、産学連携の重要性が再び認識されるようになった。企業は自社の 戦略領域に研究資源を集中して投資し、その代わりに、企業では取り組むことが 困難となった未踏領域の研究を大学に依頼するという考え方だ。

産学でジレンマを解決

産学連携が企業の競争力を高めた先例として、1980年以降のアメリカが参考になる。当時のアメリカは、国内産業が空洞化し、企業の研究が低迷していた。こうした状況を打破するため、アメリカは「大学から企業への技術移転を強化する」戦略を取った。1980年代のバイ・ドール法の導入により「国の資金を使った発明を大学が所有すること」を認め、大学から企業への技術移転の大きな流れを生み出したのである。この結果、大学の発明数が飛躍的に増加していった。
1988年と1998年の全米大学の特許取得件数は、それぞれ814件、3151件となっており、10年間で4倍に増加している。企業では取り組むことが困難な未踏領域の研究を担うことで、大学が新製品や新事業の創出に大きく貢献するようになったのである。
代表例として、スタンフォード大学のケースを見てみよう。技術移転オフィスの 年報によれば、2000年度1年間だけで、キャンパスから277件の発明が発表され、 3860万ドルの技術移転収入が生まれている。そのための活動経費は390万ドル (法務関連経費と人件費の合計)なので、単純に比較すれば、大学の発明を企業に 移転することで10倍の収益がもたらされていることになる。 一方、移転を受けた産業界では、新たな製品や事業が生まれてくる。アメリカ大学 技術管理者協会(AUTM)の試算方法によれば、過去30年間にスタンフォード大学から 移転された発明(技術移転で4億9600万ドルに相当)は、約200億ドルの新製品と15万 人の雇用機会に結びついたと言われる。 日本の大学からも同じような価値が生まれてくるに違いない。
今はまだキャンパスに 眠っている未踏領域の発明を発掘し、大学から企業への技術移転の大きな流れを生み 出していく。そうすれば、「消費者ニーズに応えながら、未来の競争力を創り出して いく」というジレンマを、日本企業も克服できるはずだ。

メディア掲載・書籍
メディア掲載
書籍