コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

メディア掲載・書籍

掲載情報

拡大するネット通販と遅れているセキュリティ体制出し

出典:産業新潮 2000年5月号

 

我が国において2000年はeビジネス元年になるだろうといわれている。現在eビジネスの主役がベンチャー中心から大企業中心へと急速なシフトが進行中である。その動きはクリック&モルタルという言葉で表現されている。
もちろん、大企業だけでなく、中小企業者や個人も、大きな投資をせずにネット通販などが可能ということで、従来通りインターネット活用に取り組む数は増加している。
家庭でのインターネット普及、とくに女性のインターネット活用が急速に増加をしている状況になり、インターネットショッピングの楽しさ・便利さの消費者への普及定着が加速化しつつある。今ネット通販がブレークスルーをする時期を迎えている。
そして、いよいよ大企業も巻き込んだ本格的な競争の時代を迎えたといってよい。

●クリックス&モルタル

アメリカのインターネット業界では「ブリックス&モルタル」や「クリックス&モルタル」という言葉がよく使われる。
ブリックスとはレンガのこと、モルタルとは漆喰(しっくい)のことで、ブリックス&モルタルとは店舗や倉庫を構える従来型の流通業を揶揄する言葉として使われる。
一方、インターネットだけで営業をし、店舗を持たない新たな事業者のことは「ピュアプレイ」と呼んでいる。アメリカの代表的ピュアプレイとしてはアマゾンドットコムがあげられる。
今までは旧勢力のブリックス&モルタルと新勢力のピュアプレイの競争であったが、今日、このブリックス&モルタルの店舗事業と、ピュアプレイのネット通販事業を融合化し、お互いの良さをうまく引き出して事業展開する「クリックス&モルタル」の動きが活発化している。
既に店舗などのチャネルで顧客との信頼関係を築いている大企業などがインターネット活用に積極的に取り組み始めた。

アメリカにおける最大の株式のオンラインブローカーはチャールズシュワブであるが、同社はもともと店舗展開を行う証券会社であり、現在も330店もの店舗を持っている。
チャールズシュワブはリアルな店舗の役割とバーチャルなネットの役割を明確にし、新たな事業を組み立てている。そしてこの両者を融合させることが顧客の支持を得ることにつながり、ひいては自社の事業の収益性を高めることになると考えている。
株式のネット販売のメリットは、IT技術の活用によるシステム化により、取引コストを大幅に削減できることである。それは人間が介在する店舗では実現できないことである。この取引コストの低減により、株式取引の手数料を安く押さえることが出来る。これがネットの大きな強みである。

しかし、リアルな店舗にも強みがある。人間が対応する店舗においては、オンライン取引の説明や、投資相談などが可能である。店舗ではネットでは難しいハイタッチなサービスを提供し、顧客の信頼感などを獲得し、その後の取引はネットに任せるという役割分担がチャールズシュワブでは確立している。
よく、ネット活用により顧客の囲い込みが可能になるということが言われる。しかし、顧客は気まぐれな面を持っていることも事実である。ネットで一度顧客になったからといって、未来永劫固定客になるとは限らない。
顧客の状況によっては店舗や電話などの手段でコミュニケーションを取りたいという要望も出てくるはずである。必要なのはネットか、リアルかという二者択一ではなく、顧客に接近し、顧客の要望を満たすには、どの手段を使うのがよいのかということである。ネットを含む最適なチャネルミックスの構築により、いかに顧客満足度を高められるかが重要な時代になってきた。
このような、店舗とネットの融合は、証券分野だけでなく、我が国においてさまざまな事業領域で応用が可能である。大企業といえども、ネット化に取り組まないと、競争に打ち勝てない時代になってきている。

●コンビニエンスストアのネット通販

我が国を代表する流通企業であるセブンイレブン・ジャパンが本格的なネット事業への取り組みをスタートさせた。同社はNECやソニーなどとeコマース専業会社の「セブンドリーム・ドットコム」を設立。今後8,000店を超す店舗に情報端末を設置し、コンテンツの提供を図って行く予定である。
既にセブンイレブンは昨年11月にソフトバンクなどと組んで、書籍のネット販売会社「イーショッピング・ブックス」の事業をスタートさせている。注文はバーチャルにネットで行い、決済と商品の受け渡しはコンビニの店頭で行うという新たなビジネスモデルの登場である。
ネット事業でネックになっていた決済と物流の部分を、コンビニの店舗が担おうというものである。
セブンイレブンに続いて、ローソンも三菱商事と組んでeコマースのデリバリーと決済サービスを行う。そしてファミリマートなど3位以下のコンビニ企業5社も連合体を組みネット事業強化を打ち出している。
なかでもサンクスはネットスーパー事業への取り組みやネットベンチャーへの出資などを表明しており、ネット化については積極的な動きを示している。
なお、こうしたコンビニチェーンのネット化の動きに大手総合商社が競ってバックアップをしようとしている点も見逃せない。

●ビジネスモデルと特許問題

ネット事業においてビジネスモデルという用語がよく使われる。事業としてどのようなかたちで利益を上げるかというモデルであり、そのビジネスの仕組みが特許として認められる時代になった。
ソニーはグループ全体としてのビジネスモデルを大きく転換させる方向を目指している。今まではハード機器やコンテンツといった商品を単独に製造・販売してきた。しかし、これからはプレステ2のような端末機器と、音楽・映像といったコンテンツ、そしてその両者を結び付けるネットワークを含めて3つの事業領域で収益を上げるという方向を目指す。

ソニーグループのネット通販事業の動きも活発化している。ネット直販の新会社「ソニースタイルドットコム・ジャパン」ではパソコンの「VAIO」や平面テレビ「VEGA」などをネット販売する。またソニーコンピュータエンタテイメント(SCE)のネット販売子会社「プレイステーション・ドットコム・ジャパン」では、人気のプレステ2をネット販売する。
なお、家電メーカーや自動車メーカーなどは系列の販売店をチャネルに持っている。ネット化によりダイレクトに顧客とメーカーが結びつくことは、既存の販売店にとっては、大きな問題になる。こうしたチャネルにおける衝突はチャネルコンフリクトと呼ばれている。
ソニーの場合は、松下など比べて系列店の数が少ないこともあって比較的ネット通販に取り組みやすい立場にあるが、現実には価格面で差をつけるなどの戦略は打ち出しにくい状況にある。

こうしたチャネルコンフリクトをどう解消して行くかが我が国大企業の大きな課題であるといえる。
ネットビジネスの分野ではNTTドコモも新たなビジネスモデルを構築しつつある。iモードの導入により、通話料収入中心から、料金回収代行手数料やコンテンツ分野の収入を増加させる仕組みへの転換である。
iモードは現在急速に利用者数を伸ばしており、パソコンに変わるネット通販の端末としても重要な役割を担うようになってきている。
こうしたビジネスモデルの特許については、昨年アメリカにおいて、プライスライン・ドットコムが「逆オークション」でマイクロソフトに、アマゾン・ドットコムが「ワンクリックテクノロジー」でバーンズアンドノーブルドットコムに対して訴訟を起こしたのがきっかけとなり、注目を集めている。
ネット時代にあってはビジネスモデルの優劣が、企業価値に大きな影響を与えることになる。 

●決済とセキュリティ

このように、拡大の一途のネット通販であるが、従来から抱えている問題も多い。
オープンなインターネット環境の中で、顔の見えない不特定多数の消費者と取引を行うには、さまざまなリスクの発生が考えられる。

具体的には、
・ 通信の途上でのメッセージの盗聴が行われる可能性
・ 傍受した他人のメッセージが改ざんされる可能性
・ メッセージへの発信名義人への成りすましの可能性
・ 代金決済などにおいて買い主が発注メッセージを否定する事後否認の可能性
などである。

これらの点については、電子署名などについての法整備と技術の開発が必要である。もちろんその大前提として、事業者自らが個人情報の管理の徹底やセキュリティの為の体制強化を行わねばならないことはいうまでもない。 

 【図表】 クリックス&モルタルの時代

 

メディア掲載・書籍
メディア掲載
書籍