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「未来年表」で未来を可視化する

2017年03月29日 田中靖記


 人はみな、脳に多種多様な情報を蓄積している。この蓄積された情報を用いて、言動、挙動、物語の結末など様々な現象の「未来」を予測しようとする。この行為を想像力と称することもできる。想像するためには、演繹的な方法であれ帰納的な方法であれ、蓄積された情報を用いることに変わりはない。

 「不確実性」という言葉が、ビジネスの現場で使われるようになって久しい。ナシーム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)が、不確実性の増大とそのインパクトを典型的に示した著書「ブラック・スワン」を刊行してから、既に10年以上の年月が経過している。不確実性の増大は、「蓄積された情報」を用いて未来を想像することの価値が、相対的に低下していることを意味している。過去の情報を基にした直線的(線形)な未来の想像は、出来事が事前にほとんど予測できない「ブラック・スワン的」な現象の前では意味を持たなくなっているためだ。

 それでも我々は、新しい事業を創造するために、戦略を構築するために、そして企業にとっては従業員やステークホルダーの、公的組織にとっては国民・市民の幸福を実現するために、未来を想像しなければならない。来るべき未来に構えなければならない。

 そのために提案している手法が、未来を可視化するための「未来年表の作成」である。未来年表は、以下の要素で構成される。
1.非線形な、未来の「兆し」情報から導出する「兆しシナリオ」
2.線形の、未来の「事実」情報から導出する「未来シナリオ」
3.「兆しシナリオ」と「未来シナリオ」が自社・組織にとって持ち得る意味
「兆しシナリオ」は、スキャニング手法(*1)を活用し作成する。ここで収集する情報は、これまで蓄積されてこなかった情報、つまり「知らなかった」情報である。「未来シナリオ」は一方で、蓄積されてきた情報である。政府や国際機関、民間企業などが公表している未来予測・技術ロードマップ等が「未来シナリオ」の基となる情報になる。

 これらの情報を基に、シナリオを可視化し、またそれらを組み合わせ、未来の社会像・産業像を作成することが未来年表作成の要諦である。未来年表は、以下のイメージのような形で提示できる。想像した未来の社会像を一覧化することで、相互の関係を意識しながら自社・組織にとって当該シナリオが持つ意味を整理することが可能となる。想像する未来が近未来であるほど蓋然性が高い「未来シナリオ」、遠い未来であるほど、不確実性が高い「兆しシナリオ」がより大きな比重を占めることになる。



 未来年表の作成は、以下の効果が期待できる。
1.不確実性への対応力強化:未来に対する「構え」を多様にする
◇他者が作った「トレンド」を参照しているだけでは、不確実性が発現した場合に(他者同様に)対処できない事態に陥ってしまう。蓄積された情報だけでなく新たな情報を取り込んで未来を想像し、未来に対する多様な「構え」を持っておくことで、不確実性に対する対応力を強化することができる。
2.意思疎通能力の強化:未来を「共通言語化」する
◇人によって、蓄積されている情報の範囲は異なる。知っていることの領域が異なる人同士の対話には、想像力を働かせる上での前提条件が異なることから、構造的に齟齬が生じやすい。未来年表の作成によって、「知っていることと知らないことの境界」を明確にすることができ、他者との意思疎通能力を強化することができる。

 最後に、未来年表は日々更新していくことが重要である点を指摘しておく。脳は常に新しい情報を蓄積し続けており、知っていることと知らないことの境界は変動し続けている。境界の変動に応じて、未来年表に掲載する情報を更新し、常に「知らなかったことを知りにいく」態度を持ち続けることが、未来に対する「構え」を持ち続けることにつながるのである。

 ここまで読み進めていただけた方には、未来年表は他者が作成したものを取り入れるだけでは不十分であり、自身で作成することが重要である点がご理解いただけたのではないだろうか。ぜひ、未来年表の作成に挑戦してみていただきたい。

*1:スキャニング手法の詳細については、未来洞察コラム「未来の芽を掴み取る“スキャニング”」を参照されたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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