オピニオン
CSRを巡る動き:気候変動への適応分野で日本の民間企業の技術を活かすべき
2015年12月01日 ESGリサーチセンター
気候変動対策と言うと、これまでは、温室効果ガスの排出の抑制などを行う「緩和策」が中心に議論されてきましたが、新たな動きが出ています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年に公表した第5次評価報告書では、将来、温室効果ガスの排出量がどのようなシナリオをとったとしても世界の平均気温は上昇し、21世紀末に向けて、気候変動の影響のリスクが高くなることが示されました。このため、気候変動の影響に対処するには「緩和策」だけでなく、既に現れている影響や中長期的に避けられない影響に対して「適応策」を進めることが求められています。こうした動きを受け、日本政府は10月23日、気候変動による被害の軽減策などを盛り込んだ「気候変動の影響への適応計画案」を策定し、公表しました。
適応計画案では、「農業・林業・水産業」、「水環境・水資源」、「自然生態系」、「自然災害・沿岸域」、「健康」、「産業・経済活動」、「国民生活・都市生活」の7つの分野について、気候変動による影響の重大性・緊急性・確信度の評価結果と併せて、気候変動の影響を軽減するための対応策がまとめられています。例えば、「自然災害・沿岸域」分野では、「洪水」について重大性が特に大きく、緊急性・確信度ともに高いと評価され、具体的な対応策として、豪雨の増加に備えた堤防・洪水調整施設・下水道等の施設の整備などが挙げられました。「農業」分野では、既に全国で高温による品質の低下等の影響が確認されている「水稲」について、高温に強い作物の品種の開発を進めることなどが示されています。適応計画案は、11月6日までパブリックコメントによる意見募集が行われた後、11月下旬頃に関係省庁による連絡会議において取りまとめられ、同月内に閣議決定される予定です。
日本政府としての適応計画を策定するのは今回が初めてですが、諸外国では既に、英国、米国等の欧米各国、オーストラリア、さらには中国や韓国においても、適応に関する国家戦略や計画を策定しています。日本はやや後れを取っているようにも思われますが、実は日本でも民間企業の間で、気候変動への適応をビジネスチャンスと捉え、気候変動の影響に備えた製品・技術を開発する事例が出てきています。例えば、豪雨を発生させる雨雲の接近を十数分前に知らせる警報アプリケーション、土の水分量から斜面崩壊の危険度を瞬時に高精度解析する技術、浸水被害のシミュレーション技術、局地豪雨によって下水があふれる兆候を察知する監視システム、下水処理場で円滑な排水を可能にする雨水排水システム、冠水を防ぐため道路に埋設する小型の雨水貯留層や雨水管、建物内への浸水を防ぐ止水シートなど、水災害分野だけでも多数の先進的な製品・技術開発が存在しています。
また、現状では「適応」という捉え方をしていないだけで、日本企業が長年培ってきた防災技術の中には、適応策として有効な技術も数多く埋もれていると考えられます。政府はこうした民間企業の技術に着目し、重点的に開発を促進することで、適応策をさらに加速させることができるのではないでしょうか。
日本政府の適応計画は、11月30日から開催されるCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、温室効果ガス排出削減の「緩和策」とあわせて日本の温暖化対策として提示される予定です。COP21の2020年以降の新たな枠組みをめざす国際交渉では、日本の温室効果ガス削減目標のレベルでは世界をリードできず、存在感が薄くなるとの懸念もあるようですが、従来の「緩和策」の分野での貢献に加えて、「適応策」の分野でも、日本企業の技術は世界の温暖化対策に貢献できるはずです。対策が進んでいない発展途上国ほど、気候変動による被害は深刻化すると指摘されています。発展途上国において日本企業の適応分野での優れた製品・技術を活用し、気候変動による被害の軽減に貢献することで、日本の存在感を示していくチャンスは十分にあると考えます。