オピニオン
英国で始まった家庭向け省エネ政策「グリーンディール(Green Deal)制度」
2013年07月16日 北川竜太
2013年1月、英国で「グリーンディール制度」が始まった。これは、家庭を対象に省エネを支援する制度であり、英国政府は画期的な省エネ政策として強く推進している。たくさんの民間事業者がこの新たなビジネスチャンスに対して積極的な動きを見せている。
グリーンディール制度の仕組みを簡単に紹介したい。消費者が制度の支援を受けるには、まず政府認証を受けたアドバイザーに、省エネ改修の効果の評価を依頼する必要がある。アドバイザーは住宅の設備状況を踏まえて適切な省エネ機器候補を提示する。評価が終わると、さらにグリーンディールプロバイダー(GDP)と呼ばれる金融機関が融資・返済のプランを示し、消費者は提示されたプランについて検討を行った上で、GDPと契約を締結する。省エネ設備の導入工事が終わると、電力会社に返済等に関する情報が提供され、電力会社が月々の電気料金と共に設備費や利子を請求する。
グリーンディール制度が画期的なのは、電力会社が設備費用や利子の回収を代行し、かつ分割支払額を光熱費削減分の範囲内で収めることで、消費者が初期投資なくさらに新たな資金負担なく省エネ設備を導入できることだ。制度開始から半年が経過した。当初、評価依頼件数は2カ月 で2,000件弱と低調であったが、徐々に消費者にも浸透してきており、現在は累計38,259件(2013年6月13日現在)と毎月10,000件以上のペースで件数を伸ばしている。まだ時期が早いことから契約に至った案件は限られるが、今後も順調に増えていくものと予想される。
日本において家庭を含む民生部門の最終エネルギー消費量は約3割。節電意識の高まりや省エネ家電の導入に伴い減少傾向はみられるが、産業部門や運輸部門に比べると省エネ対策は遅れている。進まない理由は様々だが、気象条件によって電気料金が大きく変動するため省エネ効果を定量化することが難しいことも理由の一つである。定量化することが難しいならば、いっそ省エネ効果ではなくグリーンディール制度のように消費者に資金負担がないことを訴求点にしたスキームの方が、家庭の省エネを大規模に進めるためには有効であろう。
2013年4月にオリックスとNEC、エプコの3社が新たな家庭向けエネルギーサービスを開始するなど日本でも民間事業者による新たな動きが始まっている。3社が提供するサービスは月額利用料のみでHEMSや蓄電池の導入できるというものである。東京都の補助制度と組み合わせれば、節電や省エネによる電気料金削減分で月額利用料も賄えると言われている。しかし、これはあくまで消費者の電力利用状況や節電努力等に左右される。資金負担がないことを保証しているわけではないため消費者心理からすればグリーンディール制度とは大きな違いがあるだろう。今後、日本でも今まで以上に家庭の省エネを目指す上、補助以外の支援のスキームも検討する必要があるのではないだろうか。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。